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忘れていた好きだったもの

そうだ。絵本が好きだったんだ。

ダイアログ・デザイナーの嶋津さんが時々Twitterで「ことばの採集」と銘打って募集される、好きな言葉。集まった言葉はspaceで紹介され、またその言葉を選んだ人たちがスピーカーとして参加し、その言葉にまつわるエピソードを話す。言葉好きな私も時々聴かせてもらっている。

自分も参加しようと好きな言葉をツイートしようと思うのだけれど、少し前までは好きな言葉っていっぱいあったような気がするのに、いざツイートしようとすると一つも思い浮かばない。忘れちゃったんだな。最近そういうことが多い。

そんな中でたまたま思い出したのが、絵本のタイトルにもあるこの言葉だった。

ルリユール。

絵本のストーリーから「本を修復する」という意味で覚えていた。そして今回好きな言葉としてこれを挙げたのは、その音感からだった。

緩そうで凛とした感じ。かなりこじつけだな (汗)

初めてこの本を知ったのは、絵本を専門とする書店さん主催の、大人のための「読み開き」の会。(司会をされた店主さんが「読み聞かせ」でなく「読み開き」と仰ってたのも、そこにこだわりがあったのを思い出した。)

まず、その装丁に心を奪われた。白っぽいトーンに青い線で描かれた木。

そして読み聞かせてもらうと、そのストーリー、言葉、そして挿絵の全てがもう、絵本というより芸術だった。
(この本の前に読み聞かせてくださったのが「しちどぎつね」という上方落語の絵本だったので、そのギャップたるや。)

この時だったなぁ。絵本は子どもだけのものではないということを教わったのは。

ちょうどその当時、子どもたちに絵本の読み聞かせをするサークルに入っていた。サークルの仲間からも沢山の絵本を教えてもらい、自分も面白そうな絵本との出会いを求めて図書館の絵本コーナーでかなりの時間を費やしたものだった。

読み聞かせの本を選ぶ時、もちろん子どもたちを思い浮かべて「このお話はわかるかな?難しいかな?面白いかな?興味を持って聞いてくれるかな?」という観点で選ぶのだけれど、最終的には自分が読みたいかどうかで選んでいたと思う。

読み聞かせはある種、一人芝居の独擅場。ホントはそこまで感情移入しちゃダメで、できるだけフラットに読む、というようなことをサークルの仲間うちで決めたか誰かの指導で聞いたような気がするけど、思い入れのある本だとついつい力が入ってしまう。一人何役もこなし登場人物が多いと大変だ。

一粒で何度でもおいしい

ある一冊の本を選ぶ。「この部分が面白い」と思って読み聞かせるけど、実は子どもたちは他の部分が気に入った、ということもある。子供と大人、それぞれ違う目線で読むから、好きな部分も違う。

同じ一冊の本でも、読む時期によっても印象が変わる。小さい時に誰かに読んでもらった本を、少し大きくなって自分で読んでみる。頭に違う風景が浮かんでくる。そんなこともあるかもしれない。大人になってからまた同じ本を手に取ってみる。読んでもらった小さかった頃のことを思い出すかもしれないし、沢山の経験を重ねた後だと、それぞれの言葉の持つ意味や物語がもっと立体的で彩りを伴って感じられるかもしれない。

短くてさっと読めるのも、絵本のいいところ。
なんだか気分が乗らない時、1冊読んで気分転換するのもいい。束の間の現実逃避。煮詰まり気味なこの時代の毎日の暮らしの中で、ちょっとした息継ぎの役割になるかもしれない。寝る前に読んでいい気分で眠るのもいい。

そうだ。絵本が好きだったんだ。




本棚で埃を被っていた絵本を取り出して、ページをめくってみたら、前には気づかなかった「好きな言葉」を見つけた。

いせひでこ・作「ルリユールおじさん」より
「ルリユール」ということばには
「もう一度つなげる」という意味もあるんだよ。
いせひでこ・作「ルリユールおじさん」より

本棚の整理がてら、埃を被って眠っている絵本を出してあげよう。そうして今また読んでみたら、前には気づかなかった言葉に出会えるかもしれない。それがお気に入りの言葉になるかも。

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