見出し画像

「怪奇現象に悩む家」



 一昔前によくテレビの心霊番組内で、怪奇現象に悩む家という企画が放送されていた。そして当時は、まさか自分がそんな家に住むとは思ってもいなかった。

 番組内で起こる怪奇現象といえば、深夜のラップ音から誰かが廊下を歩く足音、部屋に設置した定点カメラには、住人以外ではない誰かの呻き声や喋り声、黒い靄のような人影がハッキリと録画されていた。
 廃病院や心霊トンネルなど番組内で放送される他の心霊スポットと違い、怪奇住宅のコーナーでは、これはヤラせや仕掛けでは無いという緊迫感とリアリティーがテレビ画面からも伝わって来た。現象に怯え憔悴しきった住人の表情や、定点カメラに映し出される数々の現象をモニタリングするスタッフ達の怯える姿に、子供の僕はテレビを見ながら、酷い現実を目の当たりにしたような重くのしかかってくる恐怖を抱いた。

 東京で引越しをするのはもう何回目だろうか。築何十年というような古いアパートや、日の光が全く差し込まないマンションなど、何度か引越しを繰り返したが特にトラブルなど起こらず平穏に暮らせた。
 問題は現在僕が住んでいる部屋に引越しをしてからの出来事である。更新のタイミングで何気なく物件情報を見ていると、築四年のとても綺麗で家賃も想定内の部屋を見つけた。
 早速不動産屋に予約を取って内見に向かうと、アクセスも日当たりも部屋の広さも今の僕には申し分のない優良物件だった。僕はすぐに引越しを決め、新居での充実した生活に思いを馳せた。

 内見でどんなに良い物件だと思って住んでみても、実際に生活をすると使いづらい部分など、何かしらの小さな不満が出てくるものであるが、新居ではシューズボックスが一人にしては広すぎるぐらいしか気になるところが見つからず、本当にいい引越しをしたと満足していた。
 そして何事もなく新居での生活が一ヶ月を過ぎようとした頃だった。午前中に掃除をしていた僕は初めてある異変に気付いた。テレビボードの上に置いていた、お気に入りのソフビ人形やアクリルスタンドが少しだけ動いていたのだ。真っ直ぐ正面を向いてディスプレイしていたはずが、端の二体だけ横を向いた状態になっている。

 思い返してみてもテレビボードにぶつかった記憶もないし、変だなぁと思いながら向きを戻した。引っ越してから新居に遊びに来た二〜三人に 、LINEで連絡をするタイミングで一応その事を聞いてみると、誰も人形に触ったりテレビボードに当たったりはしていないと返答が来た。
 少し不思議には感じたが、いちいちそんな細かい事まで誰も覚えていないだけの可能性もあるし特に気にすることなく日常は過ぎていった。
 それからまた二十日ほど経った頃であろうか、夜中にテレビを見ているとまたボードに置いた人形の向きが少し変わっていることに気付いた。

 今回は前回とは違う人形だったが、正面を向いていたはずの人形一体がまた少しだけ横を向いている。見つけた瞬間、初めて見つけた時には感じなかった背筋に冷たいものが走る感覚があった。
 今回僕は絶対に動かしていないという確信があったし、この間に誰も新居に人を入れていなかったからである。部屋にいられないほどの恐怖ではなかったが、トイレた風呂場やベランダなど気になって家中の点検をして回った。
 原因として考えられるものなどもちろん見つからず、怖いので間接照明を点けたまま眠りに就いた。

 大島てるのサイトなどは引越し前に確認済みであるし、この家で起こっている現象に為す術がないのが実情であったので、僕はただ気にせずに生活することを心がけた。
 そこからまた一ヶ月ほどたった頃に確認すると、前回試しに位置をそのままにしていた人形がもう完全に後ろ向きになって置かれていた。これはもう確定だと思った僕は急いで人形を元に戻し、状況が酷くなる前に対策を考えなければと焦った。

 これといった解決法を見つけることが出来ぬまま、住み始めて半年が経っても現象は治らず人形は向きを変え続けた。一年経っても、一年半が過ぎても、もうそろそろ更新の事を考える時期に差し掛かっても、少しづつ人形は向きを変えて動き続けた。

 ….ちょっと待って、ず〜っとその現象だけ起こり続けるの?

 いや普通こういうのって心霊番組とかでは現象が酷くなっていったりするやん。そりゃ最初の一ヶ月とかは何もなくてもさ、コップが勝手にテーブルから落ちるとか、テレビが勝手に消えるとか、ある一つの現象をきっかけにどんどん状況が酷なって住人を恐怖のどん底に陥れたりするんちゃうん?

 なんやねん、人形がちょっと向き変えるだけって。

 どういう思いを訴えたいねん。

 俺が言うのも変やけど、エスカレートしていけよ。

 正直言ったらもう慣れてもうてんで、完全に現象を日常の一部として受け入れてるからこのままやったら更新するぞ。

 来年で僕はこの家での二回目の更新を迎えることとなる。
 観光地のガチャなどで集めたちいかわ達は、こうして僕がパソコンに向かっている間にも、ちょっとだけ向きを変えているかもしれない。
 画像にある、向きを変えたシーサーの目に意志が宿ってるように感じるのは僕だけだろうか…。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?