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🅂21 「もう一人の自分」を知る

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂21

▽この章では行動経済学によって明らかにされてきた数々の例を参考にしながら、私たちの日常的な認知エラーについて考えてきました。ここで、🅂12で記載した内容の一部を再掲したいと思います。システム1やシステム2の働きと認知エラーについてもう一度確認し、その対処方法を考えていくためです。

(1)私たちは日常的に意思決定を行いますが、即決できるものは別にして、何らかの課題について思考を始めると、まず①情報収集を行います。その情報を基に②選択肢をつくり、有力な選択肢の➂エビデンスを検証し、④意思決定するという流れになります。

(2)ところが次のようなケースでは、(1)のような通常判断の仕組みがうまく作動しないことがあります。
①問題が難解。②時間がかかる。➂情報が多すぎる。④重要性がない(一見どうでもいい)⑤判断根拠がみあたらない...。

(3)こうした場合、ヒューリスティック(発見的手法)の出番となります。その時の状況に応じて、いろいろな置き換えや簡便法を模索しますが、その結果🅂6~🅂11に示したようなアンカリングや利用可能性ヒューリスティックといった認知エラーに陥りやすいという欠点があります。

(4)ヒューリスティックの根拠となる情報が、判断材料として必ずしも適切でないことは、🅂6~🅂11で見てきた通りです。たまたまその時点で持ち合わせている記憶情報であって、その妥当性が検証されているわけではありません。この点を踏まえると、重要な意思決定を行う際にはシステム2を呼び起こし、客観的な情報との照合や論理のすり合わせを行う必要があります。ヒューリスティックはあくまで暫定的な判断をしているわけですから、その後の推移を継続的に注視するなど、必要に応じて柔軟に対応する用意が必要です。

(5)もうひとつ注意すべき点は、システム1は高速で自動的に働きますが、システム2はゆっくりで疲れやすいという特徴があります。システム2が何かほかの仕事をしているときは、システム1が働きかけてもシステム2は対応できず、システム1に判断が委ねられてしまいます。その結果認知バイアスに陥ってしまう可能性は更に高くなります。

(6)それでは、頼みの綱のシステム2が機能しないことも考慮したうえで、認知バイアスに陥らないためにはどうしたらいいのでしょうか。繰り返しになりますが「ミュラー・リヤーの錯視」であると認識できるる力が必要です。下記のように「観察」「記憶」「コントロール」三段階に分けて、認知バイアスの状態を自覚しようとする試みです。
①自分自身の認知バイアスの傾向を観察する。
②これを認知バイアス情報として記憶する。
➂その記憶を呼び起しコントロールする。

(7)上記(ⅰ)~(ⅲ)によって、ミュラー・リヤーの図を見たときに「あぁ、何時ものように下の線が短いなぁ」と錯視を自覚できればいいわけです。「あぁこの人は奇麗で魅力的だけど、ハロー効果かも」と認知できればいい、ということになります。

▽私たちが認知エラーを克服するためには、上記(6)に示した「観察」「記憶」「コントロール」の三段階の行為を有効に機能させることがポイントになるということを述べましたが、認知心理学の分野でジョン・H・フラベルが提唱した「メタ認知」という言葉があります。

(メタ認知)
 自己の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え評価した上で制御することである。「認知を認知する」 (cognition about cognition) 、あるいは「知っていることを知っている」(knowing about knowing) ことを意味する。またそれを行う心理的な能力をメタ認知能力という。 メタ認知は様々な形でみられ、学習や問題解決場面でいつどのような方略を用いるかといった知識や判断も含まれる。現在では多くの教育現場でメタ認知能力の育成は重要な課題となっている。またメタ記憶とは自己の記憶や記憶過程に対する客観的な認知であり、メタ認知の重要な要素のひとつである。

出典:脳科学辞典

▽「メタ」とは「高次の」という意味ですが、自分自身の思考や行動を別次元の自分が認知している、という状況です。「もう一人の自分」に頭の中で話しかけた経験は、誰にでもあると思います。この「メタ認知力」を鍛えることで、認知バイアスから抜け出せる可能性が高まります。

▽上記の説明では「認知を認知する」といった説明がでてきて少しややこしいですが、大阪大学の三宮真知子氏の「メタ認知(中央公論新社)」によれば、以下のような思考を例示しています。
・「今日は朝から、頭の調子がよくないな。体調が悪いせいだろうか。」⇒「頭の調子がよくない」という自分がいて、それを「体調のせいではないか」と推察するもう一人の自分がいます。
・「しまった!同僚のへの説明の中で、大事なポイントを抜かしてしまった。」⇒「大事なポイントを抜かした」自分がいて、「しまった!」とそれに気づいたもう一人の自分がいます。

▽「なんだそれだけのことか」と思われるかもしれませんが、こうした思考が幼少期から少しづつ蓄積され、人間の知能を発達させるそうです。子供の頃は自分の能力に関する認知力が備わっていないので、なんでもできる様な気がしています。プロ野球選手やサッカー選手になりたい子供たちは、ほとんどが本気でそう思っている、ということのようです。確かにそんな時期があったような気がします。
 また知能の定義については、こう書かれています。

① 知能とは、学習する能力である
② 知能とは、抽象的に考える能力である
③ 知能とは、環境に適応する能力である。

三宮真智子. メタ認知 あなたの頭はもっとよくなる (中公新書ラクレ) (p.59). 中央公論新社

①の学習能力とは実際に経験したことを理解する能力のことです。②の抽象化については、①による経験から個別要素を取り除いて、一般化して記憶するまでを言います。そして➂は②の一般化された情報を呼び出して、新たな個々のケースで応用していくことになります。
 特に②の抽象化は重要なポイントだと思います。抽象化(一般化)するためには、「経験を分解し論理的に整理したうえで、個別要素を外す」作業を行います。少し厄介ですが、これを日頃訓練しておくことで「一般化」が素早くできるようになり、ストックも増えます。新たな環境においても「一般化された記憶」へのアプローチがスムーズになり、引き出しも多いことから対応能力は飛躍的に高まっていきます。時折仕事でそういう人に出逢うと「あぁ、この人はなんて仕事ができるんだろう...。」と思ったりします。

▽認知エラーについての対処方法も本質的には、この知能の定義と全く同じと考えられます。ただ、ミュラー・リヤーの錯視のように抽象化・一般化しにくいケースもあるかもしれません。以前記載したカーネマンのアドバイスが「羽根のついた線が出てきたら、見た目の印象を絶対に信用しないこと」と個別具体的になっているのも、そうしたことに基づいています。

▽とはいえ、認知バイアスは何度も繰り返し起こっているものなので、本人にその気があれば、多くの場合一般化は可能だと思います。例えば「第一印象のいい方だなぁ」と思ったら「ハロー効果」と連想する、これによって特段害になることはないはずです。むしろそうすることで、ハロー効果による不必要な幻想はなくなり、ありのままの事実だけを受け入れて過ごすことができます。私は、なかなか素敵な境地だと思いますが、若い方にはどうでしょうか、やっぱりハロー効果の幻想の方が楽しいかもしれません...。

ミュラー・リヤーの錯視


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