マーベルのエモいブルネット男〜Subversiveなアンチヒーローたちについて

エターナルズ公開時、Tumblrが夢中になったのは他でもないドルイグだった。
ここまでファンダムが盛り上がってるのを見るのはラグナロク以来かもしれない。
演じるバリー・コーガンのInstagramフォロワーは爆増し、TwitterもTikTokから転載された(おそらく若いファンが作った)Fancamで溢れた。

最初はバリー・コーガンのようなアクの強い?俳優がアイドル的人気を博しているのは意外だった。
でもだんだん当然の帰結なように思えてきた。
確かにバリコはクリス勢のような典型的ハンサム役者ではないけど、MCUで一番おいしいキャラ類型を演じてるんだから、この人気は当然の結果である。
この類型を、私は勝手に「マーベルのエモブルネット男子」と呼んでいる。

MCUでカルト的ファン人気を得るエモブルネット男子には下記のような特徴がある。
全部が当てはまらないキャラもいるけど、だいたいこんな感じ。

・主人公と非協力的関係にある(敵対、非協力、裏切りなど)

・黒髪

・演者が男性

・でも男らしくない (≒「正々堂々」していない)

・ラブインタレスト(恋愛対象)がいない

例)ロキ、キルモンガー、バッキー、ドルイグ(new)

ではなぜこういうキャラ類型が人気があるのか?
たぶん、彼らが主人公=ヒーロー側とは異なる倫理を提供する「subversive」なキャラだからだ。

Subversive とはざっくりこんな意味らしい。

  1. 〔政府などの支配体制を〕転覆させる、破壊する

  2. 〔活動・組織・思想などが〕反体制的な、破壊的な

上に挙げた特徴は、そんなアンチヒーロー的性質を視聴者に伝えるものだ。
善なるブロンド男前のソーは地球人の女に恋し、根暗そうな黒髪のロキはそれが気に入らない。
理想家で仁義を重んじ、親の仇すら生かすティチャラに対して、キルモンガーは目的のためなら彼女を裏切り、射殺する。
ドルイグは映画前半のヒーローであるイカリスに反目し、自分では手を下さず人を操って戦う。
バッキーは…もはや説明不要。コミックではブラックウィドウとのカップリングがあるらしいが、MCU版はなんかすごいことになっている。

Subversiveなキャラクター造形自体は珍しくない。映画史に残る名キャラクターの多くは程度は違えど反社会的/インモラルで、subversiveな資質がない役の方が珍しいような気もする。
悪漢とまではいかなくても、ちょっと破壊的な人間の方がストーリーとして面白いし、演じがいもある。タクシードライバーのトラヴィスとかが好例だろう。

でも、MCUはある種の教訓も含んだ「ヒーロー映画」を意識的に作っているフランチャイズだ。
やっぱり主役はヒーローであり、最後は「正しい」道をゆく。結果、ストーリーの主軸も、正道にたどり着くまでの英雄の旅路になる。

そういう娯楽を楽しむ一方で、やっぱり異質なものが見たい、自分を揺さぶられたい、という願望は不変的なものだと思う。
上記のような「正しさ」が異性愛規範や伝統的家族観を(無意識にでも)孕んでいる場合は特に、そこに居心地の悪さを感じるファンが(ちょっと無理やりにでも)subversivenessを見出そうとするのは自然なことだ。
 e.g. クィアリーディング ですね

そんなファンの心理に刺さるのが、ストーリー上主人公に対するキャラとして用意された結果、主人公の正道を揺るがす概念を孕んでしまった「エモ黒髪男子」たちなのでは、と思う。

つまり、MCUに出て稼ぎたい、でも主役級のコミットメントはしたくない…
そんな若手俳優は、髪を染めよということです。
うまくゆけば一生のファンを獲得できるぞ!!

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