反転世海の流星群 第3話

サナ「破壊神と成り果てたあんたでも、誰かに止めてほしいとは思っているんじゃないか?

   宝玉の主という事で恐縮しちまうが、オレが相手をしてやってもいいぜ」

隼人「サナ!」

サナ「隼人は黙ってな、何も出来ないんだから

   此岸の巫女様の力がどれほどか知らないが、かつて世界を創造したほどの力を持っているなら普通に勝つのは無理だ

   だがお前みたいにただボーっと突っ立っているだけでは、解決の糸口も見えない

   自身の保身が悪い事とは思わねぇし、お前にはそれが似合っているのかもしれん

   だがオレは、こういう場面でじっとしていられないタイプでね」

そう言って剣を構えるサナを見て、隼人は慌てて彼の腕を掴んだ。

隼人「まさか、姫花に手を上げるつもり;!?」

サナ「隼人、お前の幼馴染とやらが昔はどんなだったかは知らないが

   …少なくとも、今はただの破壊神だぜ…

   何せこの周辺に、化け物以外の気配を感じないからな」

確かに先程の姫花の言葉からするに、自分の知っている人や物や風景が昔のように存在しているとは思えなかった。

隼人自身にも、この火山周辺地域の環境が”空虚”にしか感じられなかったのだ。


姫花が持つオーラが、凶悪な色を帯びて立ち上がった。

サナ「やっぱりヤバそうな感じだぜ;」

威勢を張りながらも、少し不安そうな表情のサナが剣を振り上げて姫花に向かって行った。

隼人「姫花!」

だが隼人がそう言った瞬間、サナの持っていた剣が弾き飛ばされた。

そして剣と同じように、サナが隼人の後ろの方にまで薙ぎ飛ばされた。

隼人「サナ!?」

サナ「ちっ、予想通りだったが驚いたぜ;

   やっぱりもう、常人が向かって行ったところで手のつけようがなくなってるな;」

サナが自分の事を常人と呼ぶ程、今の姫花の力は強大なものらしい。


姫花「隼人、確かに私はこの世界が嫌い

   そして、貴方が羨ましかったの

   貴方は、何不自由ない環境で育ってきたはずだわ

   家はお金持ちだったし、何でも色々持ってたわよね

   私が忙しく働いている間も、思う存分勉強が出来たし与えられたもので遊べたはず

   私は下の兄弟も多かったから、そんな時間もなかった

   …恨んだり憎んだりしているわけじゃないの、ただ羨ましかっただけ…

   ただ一度で良いから、貴方と同じような生活をしてみたかった

   貴方の代わりに、親の愛を一身に受けてみたかった

   …私はもう、疲れてしまったの…」

そう言うと姫花は再び地の宝玉を輝かせ、地面から巨大な生物を召還した。

その姿は鮫のようで、地面の中を水中で泳ぐように近付いてきた。

隼人が避ける間もなく、鮫は隼人を真下から突き上げるように吹き飛ばした。

無意識に水の宝玉の力を使ったらしく、隼人は水のバリアのようなもので我が身を守った。

それでも砂埃と土埃にまみれた身体は、惨めでしかなかった。


姫花「今の私は、こんな世界にのこのこと帰って来た貴方すら憎らしく感じる」

そう言う姫花の手には、橙色の石がついた短剣が握りしめられていた。

その切っ先は、真っすぐに隼人に向けられていた。

姫花「あの安全な世界から帰って来てもらうほど、私は価値のある人間じゃない

   私に会いに帰って来たんじゃなかったとしたら、謝らなくてはいけないけどね」

そう言う姫花の目は悲し気な光を湛えつつ、容易に剣を振るえる残忍さを有していた。

だがそんな姫花を見て、隼人は正直に話をしようと思ったのだ。

隼人「いや、君に会いに来たんだよ

   その上で、僕を屠ってしまいたいならそれもいい」

姫花「え?」

隼人「君は知らないだろう、あの家で暮らす孤独を

   そもそもお金は僕のものじゃない、全部親のものだ

   それを一方的に与えられるだけ、まともに遊んでもらった記憶もない

   僕には兄弟もいない、確かに勉強にはお金をかけてもらったさ

   …そして、お金基準で全てを判断されて「貴方の為だ」と罵倒され…

   いや、大いに勉学に励むようにと叱咤されたものだよ」

姫花「…」

隼人「確かに君は、僕が知る由もない苦労をたくさんしたんだろう

   代わりに僕は全くの世間知らず、単純に学校の勉強が出来るだけじゃ駄目なんだ

   僕がここのところ、ずっと引きこもりだった事は知ってるよね

   君は、僕が優しい親のいる家でぬくぬくしていたいが為と思っていたかもしれないけど」

姫花「…私は…そんな事…」

姫花がそう言ったところで、諦めたような表情で隼人は言葉を続けた。


隼人「僕の親は、そんなに甘くはなかったよ

   君にこの火口に突き落とされる事になったあの日、僕は君に言われるまでもなく命を終えるつもりだったんだ

   それこそ、宇宙の色を映す綺麗な海にでも飛び込んでね

   でもそんな事を考えていた時、夜の海で立ち尽くしていた君と偶然出くわした」

姫花「…私達は、世界を厭う者同士だったのね…」

隼人「そうでもなければ、舟を盗んで君と一緒に火口に向かって漕ぎ出したりしないさ

   月並みだけど、これが運命かと思ったくらいだ

   だから僕は、それならそれで君と最期まで一緒に行きたかった

   だから君に火口に突き落とされた時、本気で驚いたんだよ

   どうして君は、自分だけこちらの世界に残ったのかと

   …その身から切り離す事の出来ない呪いのような力を、彼岸世界まで持って行ってしまわないようにだったんだね…

   でも残念だったな、僕は子供の頃から君の事が本気で好きだったのに」

隼人の言葉を聞き終わった姫花は、息をしているのか分からぬほどに動きを止めていた。

ただ彼女にとって大きすぎる短剣を持つ手が、少し震えているように見えた。


地面に仰向けに倒れたままの隼人は、いつしかこの世界そのものに怒りを感じ始めていた。

こんな感情、今まで抱いた事がなかったどころか思い付きもしなかったのに。

隼人自身が疑問に思いながら、ふと握りしめたままだった手の平が熱を帯びている事に気が付いた。

隼人《え?》

隼人がその気配の先、自らの手の平を開いてみると

…そこには、何故か真っ赤な光を放つ宝玉があった…

まるで心臓を掴んでいるように、確かな鼓動を伝えてくるその石は

…先程まで、水の力を持つ青い石であったはずなのに…。

何故に突然、火の力を持つ赤い宝玉へとなり替わってしまったのだろう?



姫花「隼人?」

隼人の変化に気付いた姫花は、思わず彼の名を呼んでいた。

先程まで自身の内にあった強い衝動は去っていたが、今度は隼人の様子がおかしい。

目の前で静かに立ち上がった隼人は、じっと姫花を見据えながら言った。

隼人「僕は君に、いくつかの選択肢を用意出来る

   一つは、君が今すぐ破壊活動をやめる事

   あのウサギモチ達は人の魂、君の力で犠牲になった者達でもこの宝玉が二つもあれば元に戻せるかもしれない

   もう一つは、僕が君の破壊作業を手伝いをする事

   何故かは分からないけど、僕が持っていた水の宝玉が火の宝玉に代わってしまった

   …そして僕に言ったんだ、自分達の力が消え去るのはこの世界が消え去る時だと…

   長いこと海の底にあった火の宝玉は水の力に支配されてしまい、変化してしまったと

   …それ故に力のやり場に困っていた火の力が、僕に反応してこちらに移って来たのだと…

   僕自身が、火の力を持つ生まれなんだと」

姫花「それ、どういう事;?」

隼人「さぁ、火の宝玉はそれ以上何も言ってはくれなかった

   でも火の宝玉は争いを助長するもの、君がこの世界を破壊し尽くして新たに生まれ変わらせたいならそれも出来る」

サナ「…此岸の姫巫女の本当の願いは、それなんだな…」


隼人「姫花、まだ二つあるんだよ

   一つは僕らで世界を破壊して、もう復活させない事

   何せ君の苦悩は、綺麗だったものが汚れていく事に対するもの

   美しいと思っていた世界が、人間の手によって破壊されていく事に対しての憤り

   君の願いが世界の再生だったとしても、その再生した世界もいずれは汚れていく」

姫花「…それは…」

隼人「そして最後の一つは、選択肢じゃなくてお願いだ

   …最初の選択肢だった、君が破壊活動を止める事の上に…

   破壊の力を持ってしまった僕の、息の根を止めてほしい

   この力は、本来目覚めるはずのないものだった

   でも、目覚めてしまったからにはどこかにぶつけなくてはいけない

   このままだったら、今度は僕が世界を破壊し尽くしてしまうだろう

   …だからお願いだ…僕を止めてほしい…」

そう言うと隼人は火の宝玉を剣の形に変え、その炎をまとった切っ先を姫花に向けた。

姫花も、その石の力の事はよく分かっているのだろう

姫花「いいわ、相手してあげる」

そう言う姫花に頷いて見せた隼人は、優しく微笑んだ。

隼人「じゃあ、お相手願うよ」

その刹那、剣の切っ先を触れ合わせた両者の間から強烈な光が放たれた。



…全てが白く染まる中、宇宙の色を映した海のような青に放り出された…。

その美しい青の中に、輝く無数の流星が散っていった。



うるさく鳴る目覚まし時計を止め、ベッドから降りてカーテンを開くと眩しい朝の陽ざしが揺らめいた。

…何のひねりもないような、ただの夢の世界…。

今日の夜は、親しい友人と夜の花火大会に行かなくてはならない。

あの火山島の麓に上がる花火を海辺で見るのは、さぞかし楽しい事だろう。


リビングの方から名を呼ばれ、返事をした。

部屋を出ようとした時、ベッドの上に透明のガラス玉が転がっている事に気付いた。

姫花「これ、なんだっけ?」

特に覚えがないので、目覚まし時計とウサギのぬいぐるみの横にその石を置く。

もしかしたら、良い夢が見れるお守りにでもなるかもしれない。

最近、あまり良い夢を見ていない気がするから。

それから何事もなく、姫花は部屋の外に出た。


今日からまた、新たな一日が始まる。


中高生の頃より現在のような夢を元にした物語(文と絵)を書き続け、仕事をしながら合間に活動をしております。 私の夢物語を読んでくださった貴方にとって、何かの良いキッカケになれましたら幸いです。