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修行の通学路

混見合うバスは終点の停留所についた

ゾロゾロとブレザー姿の学生が降りていく。

初めての定期券を握りしめて
後ろから押されながら降車した

高校一年生
初めてのバス通学
初めての定期券

2回の乗り換え
ガラガラのバスから
満員(ほとんど学生)のバスで
終点につく頃にはクタクタだった

だが、これで終わりではない

ここから、苦行が始まる

ゾロゾロと生徒達が列をなして進む先は
竹藪。
竹藪の中のコンクリートで固められた道を歩く。全て坂道だ。

「慣れれば20分くらいで到着できる」

誰かが言っていた

本当か?本当に登れるのか、
それくらいなら。
私は安易に信じてしまった。

甘かった!

学校までの通学路は
軽い登山コースだった

登り切り平坦な道になると
汗だくなっていた

上級生達はスイスイと先を歩く
こんな山道だというのに
革靴の人もいた。

たけのこが生えてる!
なんて、喜んでいたら
次の日にはなくなっていた

「登下校でたけのこにイタズラする学生が
いると通報があった

この道は私の通う生徒しかいない
という事は…

そして、
恐怖の冬が来る

雪が降り、コンクリートの道は
カチカチに凍りつく

慣れてくれば、上手に歩けるが
慣れるまでは地獄の道となる

革靴で前を歩く女の子が
滑り降りて来て
危うくぶつかりそうになった事がある。

しなだれた竹の葉にしがみつきながら
登る生徒もいた

ある大雪の日

バスがなかなか来なかった
遅刻してしまうと
次の乗り換えのバス停まで歩いた。

が…
来るバス来るバスが満員で乗れない

仕方ないと歩いた
満員バスは、どこまでも満員だった

例の竹藪の通学路までたどり着いた時は
汗だくだった

「結局、ここまで来ちゃった」

滑らないように慎重に坂道を登りきり
学校の正門までたどり着いた時には
3時間が経過していた

教室に入ると授業はまだの様子で
ホッとした

クラスの同級生もまばら…

ふと黒板を見ると…
「休校」

全身から力が抜けた

今のようにスマホがなかった時代
連絡網が唯一の手段だったが、
学校から連絡網が回る時間に家にいなかったら、伝わらなかった。

学校に来ていた生徒達は
その「伝わらなかった」生徒達だった。

やがて
先生がやって来て

「休校ですから、休んだら帰宅するように。
君達はこの雪の中、学校に来たので、出席扱いとします」

と言った。

学校の公衆電話から母に電話した。

「無事着いてよかった」
母の第一声はそれだった
「休校になった」
「連絡網来たんだけど…」

あぁ、やっぱり…

電話を切り帰り支度をしていると
「歩いて来たのか?」
先生に呼び止められた
「はい、3時間かかりました」
先生はびっくりしたような顔で
「なんで途中で帰ろうと思わなかった?」
と言われ、逆にびっくりした。

(だって、学校休みって聞いてなかったから行かなきゃと思ったんだよ!)

心で叫んで下校した。

帰り道…どうやって帰ってのか、どうしても
思い出せない。歩いたのか、バスに乗ったのか…そこだけ、ぽっかりと抜けている

あれから何十年と経っているが
あの坂道はまだ、あるのだろうか?
たけのこはちゃんと竹になってるだろうか?

雪の日、滑り降りて怪我してる生徒は
いないだろうか?と
ふと思う事がある。

すごい通学路だったけど
実は好きな道でもあった。

春の陽射しが暖かく
夏は涼しく
秋は紅葉を楽しめる
冬は…

懐かしくはあるけれど
また、あの道を使うとなると
話は別

多分
あの坂道は登りきれない気がする…

だから
私は想い出の中で
あの坂道を登るの事にした。

高校生だった私のままで

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