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映画『花束みたいな恋をした』が響かなかった人たちへ

 映画『花束みたいな恋をした』をつい先程観終わったので、観終わったテンションのまま感想を書きたいと思います。

 先に断っておきますが、決して肯定的な感想ではありません。この映画は私には「響かなかった」ので。その響かなかった理由について、自分なりに考えをまとめつつ、今書いています。

 映画自体の完成度は高く、多くの人に響く映画だろうなと感じました。共感できるシーンもいくつかありました。でも、私には響かなかった。作品をディスりたいわけではありません。

 肯定的な感想ではないと言いましたが、否定的な感想でもないのです。映画自体にあれこれ言いたいのではなく、映画を観て感じたことを言いたいだけなんです。「『花束みたいな恋をした』響かなかった……」と落ち込んでいる人たちに、「大丈夫、あなただけじゃないから。私も響かなかったから」と伝えたいだけなんです。

 ここまで読んで既に不快な気持ちになられた方、すみません。どうかブラウザバックしてください。

では感想を書きたいと思います。

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 とにかく響かなかった。前評判が高く、Twitterのフォロワーさんたちがこぞって「良かった」「響いた」「刺さった」とツイートしていたので、どれほど良い映画なのだろう、私にも響くだろうと思って観に行ったんですが、まったく響かなかった。

 どうして響かないのか、映画を観ながらずっと考えていました。結論から言うと、「私自身がこんなに良い意味で普通の純愛をしたことがないから」なんです。

 まず、絹ちゃんも麦くんもメンヘラじゃない。お互い精神的に自立していて、穏やかで優しくて、思いやりがある。ケンカしてもお互いそこまで感情的にならないし、冷静で、切り替えが早い。付き合いたてはずっと楽しいことしかなくて、絹ちゃんの就活が上手くいかなかったり苦しいことはあったけれど、それがきっかけで同棲が始まったり、2人の関係は良好そのもの。……って、私はこんな恋愛をしたことがない。そもそも私自身がこんなに穏やかで思いやりのある人間ではない。お互い消耗し合うような、えぐり合うような恋愛ばかりしてきた(楽しい恋愛も少しはあったけれど……)。だから、ストーリーが進むにつれて、「この2人は私と住む世界が違う」と思ってしまったんです。2人とも恋愛上手じゃん、って。「社会から外れた2人」みたいな描き方をされていたけれど、別に外れてないし。大学卒業後2人ともフリーターになったけれど、ちゃんと卒業してるし(私なんか大学中退してるし)。しかもその後2人ともちゃんと就職してるし。結婚式に行くような、お葬式に行くような友達や仲間もいるし。全然、普通。全然普通の、社会の底辺でもなんでもない2人だよ、と思った。

 それから、私はこんなにも趣味の合う人と出会ったことがない、と思った。そもそも、恋人と趣味を共有したいと思うタイプの人間ではないのですが。そのせいもあって、あんまり入り込めず、2人がすれ違い始めるシーンも、「趣味が同じ人たちって片方が興味無くなったら大変だな……」と他人事のような感想しか持てなかったんです。

 要するに、この映画が私に響かなかったのは、作品のせいでもなんでもなく、私の人生経験及び恋愛経験のせいなんです。

 映画が終わった後に泣いている人がたくさんいて、羨ましいと思った。「この人たちはこの映画を観て泣ける人間なんだ。そういう人生経験、恋愛経験を送ってきた人たちなんだ」と思った。と同時に、「もしかしたら私は、絹ちゃんと麦くんが経験したことをこれから経験するかもしれない」と思った。1人の人と2年以上お付き合いしたことがなければ、同棲をしたこともないので。

 好きなシーンはいくつかあった。絹ちゃんが麦くんに対して「この人"電車に乗っていたら"じゃなくて"電車に揺られていたら"と言った」と心の中でときめくシーンとか、絹ちゃんが朝帰りしてきて、家族が色々話しかけてくるのを「もったいない もったいない」と言いながら、耳を塞いで自室に入るシーンとか。

 2人の趣味も良かった。まさか全国ロードショーの映画で「穂村弘」「長嶋有」という名前が聞けるとは思わなかったので。しかも有村架純の口から。「お〜これは(私を含む)文学かぶれは好きそうだな〜道理で短歌クラスタがこぞって良い良い言うわけだ〜」と思った。ガスタンク散歩も海辺の写ルンです撮り合いっこもさわやかのハンバーグを諦めて帰るのも一緒に『宝石の国』読みながら泣くのも明大前から調布まで歩いて帰るのも良かった。

 でも、私には響かなかった。私はこの映画が響かなかった人とじゃないと一緒になれないんだろうなと思った。「『花束みたいな恋をした』響かなかったね〜〜〜!」と言い合える人がいい。そんな人と幸せな家庭を築けるかどうかは分からないけれど。

 私もこの映画のような、まさに「花束みたいな恋」をしてみたいと思うけれど、でも「『花束みたいな恋をした』が響かなかった自分」も嫌いじゃない。泣いていた人たちを羨ましいと思ったけれど、そういう人生を送ってきたかったか、そういう人間になりたいかと聞かれたら、そうではないから。私は「『窮鼠はチーズの夢を見る』が響く人間」のままでいいと思った。

 色々書いたけれど、穏やかで温かくて素敵な映画だった。作り手の皆さんも素敵な人たちばかりだったんだろうな。ただその光が、私が抱えている闇には眩しすぎただけで。

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