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12年の中国「反日デモ」:テレビでは絶対に分からなかったリアル

今日もこんにちわ !!  在住者の立場でお話します。『上海に限って言えば、日本の総領事館周辺の半径数百メートルだけで整然とデモが行われているだけで、その他の地域での反日運動はほぼ皆無、通常の生活が続いていたのが実情だ』(共同通信グループNNA編集委員江上志朗 書籍『日中対立を超える「発信力」』日本僑行社 寄稿文より)

 Amazonで、中国の人たちの生活や社会など身近な方面を、これでもかとばかりに幅広く詳しく紹介したシリーズもののボリュームいっぱいの本を、まもなく出版予定です。その中から、2012年の中国「反日デモ」について書いた部分を抜粋で公開します。

第三巻に、日本人が「中国を誤解する7つの背景」という章があり、その背景のうちのひとつ「デモ」です。ひとことで言えば、私自身は、普段とまったく変わりなくのどかそのものの日常でした。恐らく多くの在中日本人の日常も、普段とさして変わらなかったと思います。

当時、日本国内の日本人がテレビや新聞の報道から受けた印象と、実際に在中日本人が身の回りの日常生活から受けた印象は、恐ろしいほどのギャップがあったのではないか、と思っています。

確かに、山東省の青島のジャスコなど、暴徒に店舗を破壊されてたいへんなダメージを受けたところもあります。しかし、それは一部で、全国的に大きな破壊行為があったり、日本人が排斥されたわけではないのです。

以下、出版予定の本の記述からの抜粋です。

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4. デモ

これは、2012年に日本政府が、中国との間で領有権が問題となっている島を地主から購入した際に中国国内の多数の都市で起こったデモについてです。デモというより、焦点はその際に起こったスーパーなどへの破壊行為および北京大使館への卵やペットボトルの投げつけ等だと思います。これが日本人の中国社会、中国人認識に与えた影響はきわめて大きいように思います。日系スーパーが大勢の犯人(といってよいと思いますが)によって破壊される映像が、多数の都市のデモ、大使館に卵などが投げつけられる映像とともに繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し、全国の家庭のテレビ画面に映し出されました。その影響は甚大なものがあったと思います。このイメージは、視聴者の目に焼き付いたはずです。10年程度の短期スパンで言えば、このデモと一部の破壊行為の映像は日中関係を決定付けてしまった感があります。

しかし、私も2012年に中国にいたわけですが、私の周囲では、街は普段とまったく何も変わるところありませんでした。私が日本人だと知っている周囲の中国人の私に対する態度もまた、なんら変わることがありませんでした。友人から私の住んでいる街の中心部でもデモがあったらしいという話も聞きましたが、たいしたものではなかったようです。日本のテレビで見ている限り、視聴者の目には当時の中国は在中日本人にとっての「地獄」と見えたのではないかと思いますが、大多数の在中日本人にとって当時の身の回りの様子は「豆腐屋の横丁を曲がると、猫があくびをしていた」とか「本日も晴天なり」みたいな、いつもと変わらない平凡な毎日だったと思われます。その認識ギャップは凄まじい(すざまじい)ものです。

「ただ、今回のデモは自宅待機していればまったく問題はなかったのも厳然たる事実だ。上海に限って言えば、日本の総領事館周辺の半径数百メートルだけで整然とデモが行われているだけで、その他の地域での反日運動はほぼ皆無、通常の生活が続いていたのが実情だ」(共同通信グループNNA編集委員江上志朗 書籍『日中対立を超える「発信力」』日本僑行社 寄稿文より)

テレビ東京プロデューサーの小林史憲の「テレビに映る中国の97%は嘘である」講談社という書籍では、著者は、100都市でデモというとすごい感じだが、人口が13億あって、且つ都市数の多い中国では、それほど多くなく、参加者は人口からするとごく一部、通りすがりの野次馬や、動員された人も多い、とし、短時間のデモが終われば街は普段通りで、しかもデモが行われている道路以外ではデモ中も普段通り、と書いています。(同書96ページ) この筆者は、中国南部の、深圳、広州以外の最大都市成都でのデモの人数を目測で勘定したようですが、この成都のデモの人数を三千人としています。(37) 同時に、「中国人は、デモやら喧嘩やら、街で騒ぎがあると、野次馬として大勢が集まる習性がある。そのため、実際にはデモ隊より野次馬のほうがはるかに多いのだ」(36)とも書いています。これは私は理解できるところで、台湾、香港は別でしょうが、「境内」と表現される中国で「デモ」というのはまず見ることがありません。私は中国に十年も住んで、デモの類は記憶では一度も見たことがありません。ですから物珍しさの程度では、日本で見るデモの非ではありません。しかも中国はどの都市もひじょうに人口が多く、地方都市でも街の中心部の繁華街だと日本の渋谷のような人の多さです。友人、親戚など多人数で行動する傾向も強く、人が大勢集まっているのを見ると、物珍しさに集まってくる人も多いと思われます。さらに、前掲同書の筆者は、デモの人数は目測での勘定であるため報道各社によりの推測に大きな差があり、報道した時のニュースインパクトは人数が多いほうが強くなるので、記事に記載されるデモの人数は多く推定した社の人数に引きずられる傾向がある、という主旨のことも書いています。この成都のデモでは、千人と見た記者から一万人と見た記者まであったようです。筆者の言うところにしたがって考えると、一万人と見ている社があるのだから、うちも一万人近くで記載したい、となった社が複数あったとしても不思議ではありません。

テレビ局、新聞社、通信社の記者の寄稿文を集めた『日中対立を超える「発信力」』という書籍を読むと、2012年のデモ報道の各記者の総括としては、「事実を伝えることは大切だ、当時の報道のありようはあれ以外なかった」、論旨を要約すれば、そう読む他ない書き方をしている人が大半です。しかし一方で、各記者の文章を順番に追って蛍光ペンでマーカーでもしていけば一目瞭然ですが、中国全土が危険な状態になっているような誤ったイメージを視聴者に与えたのではないか、という懸念の感想を記している記者がかなり多いのです。懸念というよりも、自分と同業者の仕事を否定しない、という目的と、日本語記載の修辞上の一般的習慣から、「誤ったイメージを視聴者に与えたのではないか?」というように「疑問形」を使って書いているだけで、実際には、 (記者として自分がやったことは間違いではなかったが)マスメディア全体としては、結果として誤ったイメージを視聴者に与えた、という気持ちは、みなさん共通に明確にあるように感じました。

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抜粋終わり

Amazonで出版予定の本では、第3巻で、他の部分でもこの時にデモについて書いています。

noteの過去記事もリンクしておきます。上海観光のを除いて、すべてまもなく出版予定の本の一部です。

反日という言葉は、意味の実質を亡くした死語

心をとろけさせる、超スター、台湾 周傑倫の輝き曲 紹介

中国報道がおかしくなるメカニズム ー 需要に作られている報道

中国: スマホ支払い事情,都市住民大部分は団地住まい etc.

寛容な中国人 その意外な実像:出版予定の本から

在住者が教える上海観光で見逃せない4スポット

中国ローカルな人たちとも楽しく話せた

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