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雑感番外編・私のADV録

 私の敬愛するクリエイターの一人である松山・ディモールト・ぴろし氏が、先日note記事内でADV好きを公言されていた。
 私もADVは元々好きで、生来よくない反射神経に更に陰りが見えてきた昨今、なお肌に合うジャンルだと認識するようになった。
 そこで今日は私の体験したADVから、何本かお話ししたいと思う。なお過去すでに記事にした作品も多いので、今回は縛りプレイとして、ADVの核たる物語に一切触れずに書いてみようと思う。

<DETROIT:Become Human>
 まずこれを挙げなければ、この企画が締まらない。恐らく前後3年の間でトップのADVと呼んで差し支えないのではないだろうか。
 物語、設定、デザイン、音楽、演出、完成度、話題性。どこを取っても短所らしい短所がない。かといって保守的ではなく、攻めきった先にこのバランスを完成させた奇跡の一本。
 何よりADVの醍醐味である、物語の広がり方が空前の規模なのだ。バッドエンドは事実上ない。すべての選択と結果がエンディングに連なるというのだから、ADVファンはむしろ恐怖するだろう。
 先日ITジャーナリストの服部桂氏にインタビューした際、本作を「未来の映画のよう」と評されていたが、用意された素材を連ねてあなただけの物語を編み上げる、まさに映画作りにも似た体験が味わえる。

<HER STORY>
 うってかわって、こちらはとにかくシンプルでライトなADV。しかして薄っぺらなものではなく、システムとシナリオでトコトン魅せてくれる快作である。
 ゲームはスタートからエンディングまで、ちょっと古いPCのデスクトップ画面しか出てこない。登場人物は一人の女性のみ。そしてさらに、あなたが向き合うその事件は……危ない、物語に触れるところだった。
 あなたは細切れの映像を見聞きして、その事件をなぞっていく。彼女が発する一語一語が事件の輪郭と細部を掘り上げ、刻一刻とできあがっていくその全貌に、あなたは目が離せなくなるに違いない。
 そして最後の選択を間違えさえしなければ、その結末に震え上がることは間違いないだろう。
 ADVファンを自負する方なら、きっちり押さえてほしい一本である。

<Everybody’s Gone to the Rapture 幸福な消失>
 女性一人のみのADVに続いては、登場人物ゼロという異色も異色のSFADVである。
 舞台はPCのデスクトップどころではなく、ちょっと昔の山間の集落を自由に歩き回れるサンドボックス型のステージ。そこで暮らしていた人々の息づかいさえ感じられそうな丁寧な作り込みが、ゲームへの没入感を高めてくれる。
 物語は、そこをてくてく歩いているだけで自然に始まる。いや、再生というべきか。とにかく確かにそこには人がいて、日々を過ごしていたのだ。
 ちょっと注意が必要なのが、ストーリーテリングの手法が独特で、混乱を招く恐れがあることだ。例えるなら、あちこちに散らばった別々のシナリオを、ランダムに拾い読みしていくような感覚だろうか。時系列も人物列も不定なので、整理しながら読む必要がある。
 そしてその先に完成する不思議な物語は、他のADVでは味わえない結末を与えてくれる。
 作品同様楽しみ方も異色な、しっとりと味わってほしい一本だ。

<428〜封鎖された渋谷で〜>
 サウンドノベルをADVに分類してよいか?という議論はとりあえず袖に置かせていただく。語りたいから語っちゃうのだ。
 発売から10年以上(!)経った今なお根強いファンを持ち、近年リマスターもされた、サウンドノベルのマスターピース。
 ゲームは実写の写真の背景に文章が表示される、絵と音の出る小説。同じ日、同じ渋谷に居合わせた「だけ」の5人の人物を軸に、時系列で進む物語を追いかける。途中の選択次第でふっつりと途切れたり、全く違う顔を見せるシナリオを正しく編み上げていくという、能動的に読む小説とも言える。
 どうしても物語に触れたくなるのだが、もしまだ遊んだことがないのであれば、可能な限り事前情報を入れずに遊んでみてほしい。

<ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者>
 おいおい間空きすぎだろう!というツッコミが聞こえてきそうだが気にしない。私のADV好きを決定付けてしまった傑作を、書かないわけにはいかないのだ。
 とにかく横溝小説的な不気味さの演出が、あの制約まみれの8ビット時代にここまで……否、あの時代だからこそ可能であったのだと思い知らされる。
 恐らくPS2以降のハードしか知らない世代がこれを遊んでも、私と同等の感動は獲得できまい。拙い性能の隙間を埋める想像力が、当時の遊びには不可欠だったのだ。
 これもどうしても物語に触れたくなるのだが、若い世代でドット絵のゲームに抵抗がないゲーマーは、一度その演出力に触れてはいかがだろうか?

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