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小説『ルイという男』


#創作大賞2023

〈あらすじ〉

時は、2040年の近未来。
舞台は、新宿区の高田馬場(たかだのばば)。

ルイという美しい男が、
仲間達の力を借りながら。

何者かに操られた、
AIロボットとの戦いを通して、
命とは何かを。見詰めあう物語。

【第1話・ルイ】

今日。28体、AIロボットを破壊した。
昨日は13体。まだまだ、だ。

「プロフェッサー、行くぞ。」
俺がそう告げると、その声に従う。

ホワイトタイガーの。
優雅で、しなやかな。毛並みが躍る。

時は、2040年。

太陽のフレアが強すぎて。
都市は、砂漠化が進み。

生態系を維持する為には、
全てが限界な、世界だった。

そんな時代に。
ある者によって、操られた、
AIロボット達が、
人々を、襲っていた。

それに対抗するように。

とうとう、日本にも。
政府軍という、軍隊が、
誕生していた。

「ルイ、おかえり。」

そう呼ばれた男。
ルイは、美しい男だった。

長身で、八頭身。

少し切れ長で二重の、
綺麗なモスグリーンの瞳に。

品の良い、薄めの唇が、
美青年のそれだった。

おかえり、と声を掛けた、
おばさんは。酒場の店主。

ルイに酒と、
プロフェッサー用の、
エサを用意してくれる。

ルイ達がいるここが、
昔でいう新宿区の高田馬場。
(たかだのばば)

駅前に残った、
大型複合施設の、ビックボックス。

他のビルは、
全てが、建て直されているのに。

何故、このビルだけ残ったのかは、
永遠のナゾだ。

そんなビックボックスの中は、
ハッキリ言って、ごった煮状態。

幾つもの多彩な、料理店が。
フードコートさながらに、並んでいる。

ルイが酒を飲み、
つまみを頼もうとした時。

テーブルの真向かいに、
1人の酔っ払いが、ドカッと座ってきた。

「よう兄ちゃん、いい男だねぇ~。」
昔も今も。この手のオヤジは、同じだ。

「そりゃ、どうも。」
ルイは少しだけ微笑むと、そう答えた。

その一瞬で。
オヤジの目はハートマークになっていき。

「おいおい、本当に綺麗な顔だね~。」
そう言うと、

「今晩一晩どうだい?」
と、続けるオヤジ。

それに、「いいですよ。」と、ルイ。

オヤジはスケベ面を、尚更、濃くし。
「じゃぁ・・・。」

「ただし。この子も一緒ですよ。」
ルイは、そう言いながら。
プロフェッサーを、静かに撫でる。

「!」
「食うか、食われるか。やってみます?」

ルイのその一言に。
オヤジは泣き笑いし、
震えながら、店を飛び出して行った。

「またやったの?ルイ。」と、店主の声。
「あーゆーの多いね。
この店、セキュリティー大丈夫?」

「ははは。
あんたがいれば、大丈夫でしょう。」
「俺がいない時には、
プロフェッサー、貸そうか?」

「・・・やめとくよ。
客が怖がって、来なくなる。」
「確かに。」

「ところで。あんたのコート、
穴が開いてるけど、直そうか?」

「え?あ、本当だ。」
「気付かなかったのかい?」

肌にピッタリとした、
黒のタートルネックと、黒のズボン。

それらは、
ルイのスタイルの良さを、協調していて。

その上に軽く羽織った、瞳と同じ色の。
モスグリーンのロングコートに、
直径3cm程の、穴が開いていた。

「その穴、心臓の上じゃ・・・。」
「まあ、俺、生きてるし。」

「!。死なれちゃ困るよ。
なんせ、うちの娘の婿になる、
男なんだからね!」
「・・・なに、それ?」

「ほら、ツバサも。
そんな所にいないで、こっちへおいで。」

店主の声の先には、赤毛の。
ソバカスが可愛らしい、女性が立っていた。

「母さん!ルイさん、困ってるじゃない!」
そう言いながら、2人に近づく。

「別に、困ってないけど。」

「ほら。ルイもそう言ってるし、
結婚式の日にちを決めて・・・。」

「もうっ!母さんのバカ!!」

そう言うとツバサは。
持っていたお盆を、大袈裟に振りながら、
厨房の方へと、逃げて行ってしまった。

「どれ。コートを、およこし。」
「どうも。」

コートを手渡すと、
ゆっくりと、酒をあおる。

いつも通りに食事を済ませ、
店主から、直してくれたコートを。

礼を言いつつ受け取ると、
1人と1頭は、店を後にする。

馬場の駅から18分。
ルイは、ねぐらにつく。

無機質な。必要最低限な、
家具類が置かれている、
広めのワンルーム。

「プロフェッサー、今日もお疲れさん。」

額の、黒いハートマークのぶちを、
やさしく撫で、おやすみと告げる。

ルイはコートを脱ぎ、
そのまま、シャワー室に直行する。

暫く。水の音が、部屋中にこだまする。

その後。
冷蔵庫から、缶ビールを取り出し、
うまそうに口にする。

缶ビール片手に、
リビングへと移動する。

そこで。
今日1日のニュースを、
チェックするべく、テレビをコールする。

暫く見ていたが、
めぼしいニュースは無い。

最後のひとくちのビールを飲み切ると。
歯磨きのキシリトールを、口にほうる。

ソファー兼、ベッドに体を横たえ。
テレビをコールして消すと、
そのまま、眠りにつく。

タンタンタン。

スマートガンの音が響きわたる。
右手に握った、一丁の弾が切れる。

すかさず左手のガンを、
生体認証システムで作動させ、
次の弾丸を、AIロボットに、
打ち込む。

毎日の様に。ルイは、
こうした破壊作業を行っている。

それでも。
ターゲットは、一向に減らない。

いや、むしろ増えているのか?

そんな事を考え、
無防備になった、一瞬。

真後ろに、
AIロボットの銃口が、当たる。

やられる!

そう感じ、振り向いた時。
目の前でグシャッと、
ロボットが、斜めに割かれた。

「プロフェッサー!」

何をしているんだ?
とでも言いたげな、
プロフェッサーが、そこにいた。

今日は36体。

「帰るか、プロフェッサー。」
と言いながら、ガンをホルスターに戻す。

そして。
いつもの様に、ルイは、居酒屋にいた。

【第2話・アデル】

が。
今日は、少し様子が違っていた。

ルイの目の前の席には、
ルイと対等に張り合える程の、
美女が座っていた。

こちらも。長身の八頭身。
スタイル抜群で、長い黒髪に。

ルイと同じ、
モスグリーンの瞳をした・・・

そう。この美女、
どことなくルイに似ていた。

「で、なんの用?」

ルイは、
美女に、無愛想に投げ掛ける。

「姉に対して、なんて態度だ?」
「その物言いの方が、ひどくない?」

美女の正体は。ルイの姉の、アデル。

美しい2人組は、
居酒屋で、異常に目立っていた。

赤いタイトな、
ジャンプスーツのアデルは。

これまた。
ルイの相棒の、ホワイトタイガー、
プロフェッサーと、正反対の。

ブラックタイガー、
真っ黒なトラを連れていた。

2頭は。おとなしく、
エサを、待っていた。

アデルのブラックタイガーを、
手慣れた様子で、撫でながら。

「黒いのにミルク、
なんて名前付けられて、可哀相だな。」
と、ルイ。

「女の子なんだから、
可愛くて、いいだろう。」
と、アデル。

「アデルのくせに。」
「なんだ、それは!」

一触即発?
と思われたが。店主の持ってきた、
ビールジョッキを。

「ち~す!」と、言いながら。

2人同時に掲げると、
これまた同時に、グビッといく。

ルイが、つまみを何品か頼むと、
店主は、「まいど!」と、
厨房へと消える。

「いい店だな。」

暫くして。
アデルが、口を開く。

「だろ。
ここのザーサイは、ピカイチだぜ。」

「ザーサイってなんだ?」
「これだから、貴族は嫌だね。」

「お前もだろう。」
「俺は違うぞ。」

またもや、嫌な空気になる2人。

「お待たせしました!」と。
2人のつまみと、2頭用のエサを、
持ってツバサが現われる。

プロフェッサーとミルクは、
静かにエサを、食べはじめる。

ツバサに礼を言い、
アデルを紹介すると。
飛び切りの笑顔を残して、
去っていく。

「チャーミングだな。」
「だろ。」

「嫁さん候補か?」
「候補って。
俺、そんなにモテないよ。」

「だろうな。」
「くそ。」

「それに・・・俺には、
もったいないくらいの、いい子だよ。」
と、続けた。

「そうか。ところで、
そろそろ私の所へ、戻ってこないか?」

「遠慮しとくよ。」
「だが、1人では、限界があるだろう。」

「それでも。これは、俺のけじめだから。」
「あの事は、お前のせいじゃないぞ。」

「それに。俺は1人じゃないよ。
プロフェッサーが、いてくれるから。」

「しかし。いつか、大怪我を。
それどころか、もしかしたら・・・。」

「大丈夫だよ。」
「・・・頑固者め。」

「姉さんも、だろ。」

「さてと。どれが、ザーサイだ?」
「いまかよ。」

束の間。
2人と2頭は、居酒屋を楽しんだ。

【第3話・博士】

時を、同じくして。

「博士。例の件。
1週間後に、決行の運びとなりました。」

そう、恰幅の良い男が告げる。
左目に。黒のアイパッチを、つけている。

見るからに、研究室という感じの室内。

博士と呼ばれた男は。この部屋に、
不釣り合いな程の、美貌の持ち主で。

赤と緑の、
オッドアイが、妖しく光っている。

「わかりました。では、
それで宜しくお願いします。隊長。」

そう返事をするが・・・
博士と呼ばれた、この男。
何かが、変だ。

まず。何歳かわからない。

若くも見えるし、年寄りにも見える。
それ程、達観した、
オーラをまとっていた。

そして。1週間後。

AIロボット達が、街や、人間達への。
一斉攻撃を、仕掛けはじめた。

特に、高田馬場への攻撃は酷く、
ビックボックスは、
無残な姿になっていた。

何故、このビルだけ、
建て直されずにいたのか。

その理由は、地下にあった。

大型のコンピューター・サーバーが。
しかも。政府のビックデータを、
管理する、要が。

まさか、こんな所に・・・だ。

AIによって操作された、戦車。
自爆型・ドローン。火炎砲を携えた、
AIロボット等が、街中を闊歩していた。

「おばさん!ツバサちゃん!」
「ルイ!」
「ルイさん!」

ビックボックスの残骸の前で、
途方に暮れていたルイは、店主と、
ツバサの無事な姿を見て、安堵した。

「2人共。無事で良かった。」
「今、仕入れに行ってて。助かったよ。」
「ルイさ~ん。」

緊張の糸が切れたのか、
ツバサは泣きじゃくっていた。

「さあ、2人共。
すぐにここを、離れるんだ。」

「・・・でも。ルイさんは?」

「俺は、やる事があるから。さあ、早く。」

そう言うと。なかば強引に、
見付けたガードマンの男達に、
2人を託す。

【第4話・プロフェッサー】

ルイとプロフェッサーは、
AIロボット達の破壊を、再開する。

しかし。
じきに弾が尽き、
それは、AIロボット側も同じ様で。

銃撃戦から、白兵戦へと、シフトする。

接近戦での格闘は。
生身の人間には、そうとう不利だ。

だが。ルイ達は、怯まない。

ルイは、一撃必殺。
ダブルナイフで、仕留めてゆく。

プロフェッサーも、
負けじと、それに続く。

シュッシュッという、息遣いと。
モノを砕く音が響く。

AIロボットの急所。

それは、人間と同じく、心臓部分にあり。
その部位を、銃弾で撃ち抜くか、
鋭利なモノで、断てば破壊完了となる。

如実に。
ルイ達は、次第に、押されていった。

ルイも、プロフェッサーも。
いうならば、ボロボロだった。

破壊していったAIロボットから、
飛び出てくる、黒いタールの様な、
オイルのヌルヌルが。

ナイフを持つ、ルイの手を、
滑らせてゆく。

その上。相手の攻撃は、多彩だ。

力でくる者。ナイフでくる者。
それら全てを、相手にするのは、
無理がありすぎた。

ボキッ。
ルイの左肩から、嫌な音がした。

「ぐっ!」と言いながら。
ルイは思わず、しゃがみ込む。

AIロボットに、
羽交い絞めにされた、ルイを。
プロフェッサーが、助けに来る。

間一髪。
ルイは、魔の手から逃れる。

左肩を、押さえながら、
フラフラと立ち上がり、

「プロフェッサー。
・・・なんだ、それは。」

と、言いつつ。プロフェッサーが、
くわえ込んだモノを、指差す。

そこには。
AIロボットの、頭部があって。

顔の部分に、
人の顔らしきものが、
見えていた。

その顔に。ルイは、見覚えがあった。

「父さん!」
その顔は、ルイの父
=博士と呼ばれていた男の。
それだった。

ルイは突然、地面に転がっている、
AIロボットの、マスク部分を。
次々に。引きはがしはじめた。

それらの全てから、
父の顔が、現われて。

「狂ってるよ。・・・父さん。」
そうつぶやいた。

いままで。銃撃戦が主だった、
ルイ達は、AIロボットの顔が。

全て、父の顔になっていたとは、
知らずにいた。

なぜなら。倒したAIロボット達は、
そのほとんどが、金に換えられる為に。

拾い屋といわれる、
職業の者達によって、
処理されていたからだった。

全てが父の顔。
そんな、刻印めいた事を・・・。

正直。父のやっていた事は。
全て、知っていた。

AIロボットをつくり、
人々を、攻撃していた事も。

けれど。それらは、全て。

15年前に亡くなった、母の死を。
悼む為の事だと、思っていた。

当時、まだ少年だったルイを。
母は、庇って。死んでいった。

それも、たまたま。式典で花束を、
政府の高官に、渡す役目を。
ルイが、受けていなければ。

そんな悲劇は、起きなかった。

後に。その高官は、汚職事件により、
政府側のスナイパーが狙い、
その誤射に・・・
という事実が判明した。

なのに。政府は、それらの事実を。
全て、隠蔽した。

そして。父は・・・切れた。

元々、AIロボットの、
研究者兼、開発者だった父は。

政府を、転覆させる為に。
それらの技術を、磨いていき。

今の。
戦闘専門のAIロボットを、
つくりだしていた。

今回の攻撃で。
一体、何人の。人間が、
死んだのだろう。

もう、父を止める事は、
出来ないのか?

諦めに近い。
溜め息をつく、ルイ。

その周りには。AIロボット達が、
続々と、集まってきている。

その中に、1体。
あきらかに、恰幅の良い。
ロボットが交っていた。

こちらに向かってくる。その動作に。
妙な、違和感を覚えた、ルイは。

スマートガンの、生体反応を、
検知できる、スコープを向ける。

プロフェッサーが、
そのロボットに。
攻撃しようとした、瞬間。

「やめろ!プロフェッサー、
生体反応がある。そいつは、人間だ!」

ルイが叫ぶ。

瞬時に、
プロフェッサーは、攻撃を止めた。

その男は、「うわーーっ!」
と、雄叫びをあげながら。

バンバンバン。

と、プロフェッサーの腹を。
拳銃で撃つ。

そして、ルイの方を向き、

「お前が生きている限り、
博士は、世界征服を、実行しない!
あの方は、人を殺せないシステムを。
AIロボットに、入力しているからな!」

と、捨てゼリフを放つと。
ルイに、銃口を向ける。

すかさず。
傷を負った、プロフェッサーが。
その男の腹に、体当たりを食らわせる。

その拍子に、男のマスクがはずれる。
その左目には、黒のアイパッチ。

男は。
呻き声をあげながら、失神した。

後に。この男が、父(博士)と、
一緒にいた、隊長だと判明する。

ドサッ。という音と共に、
プロフェッサーが、倒れる。

「プロフェッサー!」
傍らに、座り込む、ルイ。

ハアハアという、
荒い呼吸のプロフェッサー。

腹から出ている血は、
どんどん濃くなる。

「ここからは、1人で大丈夫。
もう、お逝き。俺もすぐに追い付くから。」

そう言いながら。
額の。黒いハートマークのぶちを、
優しく撫でて・・・

「ありがとう。」

と、告げる。
それを、待っていたかのように。

大きく1つ息を、吐くと。
プロフェッサーは、旅立っていった。

「終わりか・・・。」

ルイは、しゃがんだままで。
天を仰ぐ。

AIロボット達の。
銃の弾丸が、発射される音が。
少しずつ。後方から、近付いてくる。

何発かの、銃弾が。
ルイの頬や、腕をかすめていく。

ルイが。生きることを、
諦め掛けた、その時・・・。

蜃気楼の中に。
前方から、黒い影の様なモノが。
現われる。

なんだ?

ルイは、その方向を。
息をのみながら、見詰める。

次第に。
影達は、数千もの数になっていく。

影が、ひときわ大きくなってきて。
その正体を、知る。

アデルだ。

傍らには、ミルクがいる。
アデルは、政府軍の大将だった。

ルイの、後方にいたAIロボット達は。
前方に現われた、政府軍の放つ銃弾で。

1体。また、1体。と、倒れてゆく。

アデルが、大軍を率いて、
現われてくれなければ・・・俺は。

次第に。
軍の戦車や、ヘリも見えてくる。

ルイは、1つ。深く息を吐く。

逝ってしまった、プロフェッサーを。
撫でながら、

「もう少し、
生きててもいいかな。プロフェッサー。」

そうして。静かに、涙した。

ルイは、アデルと共に、生還し。
高田馬場の。
無残な姿になってしまった、
ビックボックスに、辿り着く。

そこで。居酒屋の店主と。
ツバサを、見付ける。

2人は、せっせと。
瓦礫の処理をしていた。

無事に帰ってきてくれた、ルイに。
ツバサは、泣きながら抱きついてきた。

「いたた、肩、肩・・・。」
「ご、ごめんなさい。
左肩、どうかしたんですか?」

「大丈夫。折れてるだけだから。」
「それって・・・
大丈夫じゃ、ないじゃないですか!」

ルイを、よく見てみると。
綺麗な顔の。頬や、腕に。
銃弾で出来た、傷跡が、
生々しい。

アデルが、この後。
ちゃんと病院に、連れていく。
と、約束してくれた事に。

ようやく。
ツバサは、安心した様子だった。

そして。あれ?と、
少し、ルイの。違和感に気付く。

アデルの横には、ミルクがいる。

けれど。ルイの隣に、
いつも寄り添っていた、
プロフェッサーが。
いない事に、気付いた。

「プロフェッサーちゃん。
どうしたんですか?」

一瞬。ルイが、真顔になる。

「俺を庇って。死んだんだ。」
「!」

「あいつがいなければ。
俺は、ここに。
いなかったかもしれない。」
「プロフェッサーちゃんが・・・。」

ツバサは、思いっきり。泣いた。
それを見ていたルイは。

「プロフェッサーの為に。
泣いてくれて、ありがとう。」
と言った。

【第5話・隊長】

その頃。

「なぜ、ルイを。
殺そうと、したのですか?」

以前と同じ、研究室で。
博士は、隊長を。問い詰めていた。

「それは・・・。」
「返答次第によっては、
私にも、考えがありますよ。」

赤と緑のオッドアイが。
隊長を、追い詰める。

そうして、続ける。

「私は。人間を殺せない、
という訳では、ないのですよ。」
「・・・。」

「特に。
政府軍の人間達は、尚更です。」
「・・・。」

「アデルと、ルイは。
大切な私の、子供達です。
でも。私の側から、
2人共、離れていった。」

博士はそこで、一呼吸おくと、

「言うなれば、愛しいが故に。
普通には、殺さない。
ということです。」
「・・・。」

「殺すタイミングは、私が決める。
それでも、待てませんか?」
「いえ。それを聞いて、
安心致しました。でも、あの・・・。」

「まだ、何か?」
「1つ、質問があるのですが・・・。」

「どうぞ。」
「はい。どうして、
私達の銃は、政府軍の様な、
スマートガンではなく。
オーソドックスな、
昔の拳銃なのですか?」

「それは・・・。」
「はい・・・。」

「死ぬ時に、相手が苦しむからです。」
「?」

「スマートガンに比べて。
昔の拳銃は、銃弾が、
致命傷になる確率が、低い。」
「?」

「すなわち。それだけ、
体内に、銃弾が留まる。」
「?」

「よって、死に至る時間や。
苦しみが深い・・・。」
「・・・。」

「その顔が。
たまらなく、好きだからです。」
「!」

「あ、もちろん。まだ私は、
人を殺した事は。ありませんよ。」
「では・・・。」

「はい。あくまでも、
想像です。妄想の様なものです。」
「そうですか・・・。」

「隊長も、気付いていたのでしょう?」
「何が、ですか?」

「政府軍の軍人や、政治家達は。
いつでも、潰すことが出来る。と。」
「・・・。」

「なのに。
そうしなかったのは、なぜか。」
「なぜですか?」

「もっともっと。
苦しめたいからです。」
「!」

「特に。あの、
汚職事件を起こした。政府の高官。」
「・・・。」

「あの人などは、
体中の骨を。1本1本、
折っていくのも。見物でしょうね。」
「!」

「隊長。AIロボットの、
開発にとって、1番大切な事。
それは何か。わかりますか?」
「いえ、勉強不足で。すみません。」

「AIロボットに、命はありません。
役に立つか、否か。それにつきます。」
「はい。」

「今回の戦闘で。様々な、
戦闘パターンの、データが、とれました。
これらを元に。AIロボットを、
パワーアップさせる事が出来るでしょう。」

それと。と、博士は続ける。

「完璧なAIロボットが、つくれたら。
永遠の命を持った。ヒューマノイド。
そんなモノを、創造出来たなら・・・。」
「・・・。」

「どうなると思います?」
「・・・わかりかねます。」

博士は。
一瞬、恍惚とした表情を浮かべ。

「神になれるのですよ。私が!」

と、言い。
そして、続ける。

「AIロボットは、永遠の命への。
研究材料でしかありません。
いずれは、人間の脳を移植する。
そんな時代が。必ずや、やってきます。」
「永遠の命・・・。」

「そうです。決して死なない命。
その様な事を、考えただけでも、
ほら。よだれが出てくるでしょう。」
「はい!」

「大切な、大好きな者に囲まれて。
永遠に生きるんです。
隊長にも、そんな方がいるでしょう?」
「はい!私は一生、
博士についてゆきます!」

「頼りにしていますよ。隊長。」

2人の男は。
完全に、狂っていた。

【第6話・店主】

戦闘から、3カ月後。

「ルイ。
もう肩は、大丈夫なのかい?」

居酒屋の店主が。
いつもの様に、声を掛ける。

「絶好調だよ!」と、ルイ。

商魂魂?とでもいうのだろうか。
高田馬場。特に、ビックボックスは。

恐ろしいスピードで、
復活を、遂げていた。

とはいえ、全て元通り。
とまではいかないけれど。

ただ。AIロボット達や。
プロフェッサーを、
殺した男(隊長)の行方は、
わからずにいた。

当然。父の行方は、全く。だった。

あれだけの戦闘で。
人々に、不幸が無かった事が。
奇跡だった。

居酒屋の店主は、あっという間に、
店をオープンさせていて。
今日が、その再開の初日だった。

「ルイさん。はい、どうぞ!」

ツバサは、元気な声で。
ビールジョッキを2つ、
テーブルの上に置く。

ルイの前には、アデルがいた。

そして。
その足元には、ブラックタイガーの。
ミルクと。2頭の、子トラ達。

子トラ達の。
1頭は、ブラックタイガー。
もう1頭は、ホワイトタイガー。

ホワイトタイガーの額には。
黒い、ハートマークのぶちが。

そう。2頭の子トラ達は。
プロフェッサーと、
ミルクの、子供達だった。

プロフェッサーを、偲ぶ為に。

ルイと、アデル。
そして、店主とツバサも。
献杯を捧げた。

【第7話・プロフェッサー・ジュニア】

トントン。

ドアをノックする音。
「入れ。」と、中からの声。
「失礼します。」と、入室する。

部屋の中には、アデルとミルク。
と、2頭の子トラ。

こころなしか、この間よりも、
少し大きくなっている。

入って来たのは、
国宝級の美丈夫。

濃紺の軍服を纏った、ルイだった。

「よく、戻ってきてくれたな。」
「あの時は、
助けてくれて、ありがとう。姉さん。」

「プロフェッサーは。
本当に、残念だった。」
「本当に。」

あの、居酒屋での献杯以来。

アデルも、ルイも。
会うのは、久しぶりの事だった。

「いまさら。言い訳にしかならんが、
あの、高田馬場への攻撃で。
政府軍は、パニック状態に陥っていて。
援護にゆくのが、遅れてしまった。
本当に、すまなかった。」

そう言って、アデルは、ルイに。
席を立ち上がると、頭を下げた。

「もう、いいんだ。姉さん。」

その言葉を聞いて。
アデルは、少し笑みを浮かべると。
席に座る。

「で、姉さん。」
「なんだ?」

「父さんの部下らしき男が。
気になる事を、言っていたんだけど。」
「気になる事?」

「うん。攻撃してくる、AIロボットが。
人を殺せないシステムを、入れている。
とか。そんな事を、言っていたんだけど。」
「本当か?」

「そう。で、実際に。
俺は、怪我はしたけれど、死んでない。」
「ふむ。」

「どう思う?」
「あらかじめ、
プログラミングされていたとしたら。」

「そ、でも。
あのAIロボット達の顔は・・・。」
「私も、見たが・・・」

アデルは続ける。

「全て、父さんの顔だなんて。
常軌を逸している、という事。
それだけは、言えるな。」

束の間。2人は、黙り込む。

暫くして。
アデルが、口を開く。

「お前は、まだ。
父さんの事を、諦めていないのだな。」
「・・・かもね。」

「しかし。犯罪者なのは、変わらんぞ。」
「わかってる。」

「今回の、戦闘で。
1人の死者も出なかった、というのは。
たまたまの事、だったのかも・・・。」
「それでも!」

「それでも。俺は。
父さんに、人を。人間を。
この先も、絶対に殺させはしない!」

そう、ルイにしては珍しく。
大きめの声で。言いきった。

「お前の。けじめ、か?」
「そうだね。それに、俺を。
人間を守って、死んでいった。
プロフェッサーが、うかばれない。」

「そうだな。」
「姉さんも。本当のところは、
諦めていないんだろ?父さんの事。」

「まあな。でなきゃ、
政府軍になど。おらんだろうな。」
「やっぱり。」

「ここだけの話だぞ。ここ日本に。
銃や武器の所持を、許されている組織など。
そうそう無いからな。それに・・・。」
「それに?」

「無茶で、無鉄砲な、弟を。
守る為には、力を持つ事も。大事だからな。」
「・・・なんか。ありがとう。」

エッヘン。
と、アデルがおどけて。胸を張る。

「それで。お前の、
役職だが。こんなに下で、いいのか?」
「十分。」

「お前なら、もっと上を。
時代が時代なら、隠密の様なものだぞ。」
「いいんだこれで。」

そして。こう続ける。

「今までも、これでやってきたし。
ただ。着る物だけは、勘弁して。
昔のままでいいかな?優しい姉さん。」

「・・・なんか、ムカつくのだが。
いいだろう。衣装の件、許可しよう。」

「ところで。」
と、アデルが、ルイに問う。

「その子を、どうする?」

その子。
と言われたのは、子トラの1頭。

ホワイトタイガーの。
プロフェッサー・ジュニアが。

ルイの足元に、
纏わり付いて。離れない。

「もう。あんな思いは、
したくないから、アデルの所で・・・。」

と、ルイが言いかけた時。

プロフェッサー・ジュニアが。
ルイの手の甲を。ペロリと、舐めた。

「!」

「その子は、もう。
自分の相棒を、選んでいるようだぞ。」
「ジュニア。俺の所に、来るかい?」

ミャー。と、
ジュニアが。返事をする。

「決まりだな。これからも宜しく。
ルイ。プロフェッサー・ジュニア。」
「了解です。アデル殿。」

「・・・そういうのは、よせ。
柄でもない。って、とこだろうが。」

クスッ。と、ルイは笑うと。
敬礼のポーズを、解く。

「で。父さんの、その後の行方は?」
と、ルイ。

「まだ、なにも。
ただ。日本から出たという情報は、
入っていない。」と、アデル。

ルイは、それを聞き。

「絶対に。見付け出してみせるよ。」
と、静かに拳を握りつつ。そう言う。

「もう、無茶はやめろよ。ルイ。」
「了解。」

「1人じゃないんだ。
たまには、私も頼れ。」
「それも、了解。」

「なら、いい。また、
ザーサイを。つつきに、行くぞ。」
「喜んで。」

「では。居酒屋・馬場(ばば)で。」
「あの~。」

「ん?なんだ?」
「今更だけど。正式名称、間違ってるよ。」

「正式名称?って、なんのだ?」
「あそこの居酒屋。」

「え?」
「あそこ。居酒屋・ジャイアント。だよ。」

「・・・と、いう事は。」
「そう。ジャイアント馬場。」

「もしかして。
あの、往年のプロレスラーの・・・。」
「そう。」

「・・・で。
なにか、関係が。血縁?とか。」
「違うみたい。」

「では。」
「うん。店主のおばさんが、
大のファンらしい。って、聞いた。」

「あの店主、何歳だ?」
「それは。あそこでは、
トップシークレット。な、話題らしい。」

「ますます。
ナゾだな。恐るべし、高田馬場。」
「確かに。」

2人は。静かに、
見詰めあうのであった。

【第8話・ツバサ】

ツバサは、大いに悩んでいた。

あの戦闘で、
左肩を骨折していた、ルイを。

ツバサは、かいがいしく、
主に食事等の、世話をしていた。

それが。3カ月前の、戦闘直後。

あの頃の、ルイは。
ハッキリ言って、しおらしい?
というか。おとなしく。

そんなルイの看病を。
ツバサは、張り切ってやっていた。

なんと。合鍵まで渡してくれて。

ルイの住んでいる、部屋にまで。
おじゃま出来ているなんて。

念願の、いや、
ツバサにとって、嬉しい日々で。

が。
怪我が治ってゆくにつれ、元のルイに。

つかみどころが無い。
ひょうひょうとした。

居酒屋で、いつも見ていた。
そんなルイに、戻っていってしまい。

ツバサは、なんとなく。悲しくて。

怪我が治って、嬉しい反面。
3カ月前のルイが。
懐かしく感じていた。

でも。その頃と、今と。
変わっていない、姿があって。

時おり、プロフェッサーが、
寝ていた。敷物の上を。

悲しそうな瞳で。
見詰めていたりして・・・。

そんな時は、ツバサも。
何も声を掛ける事が、出来なかった。

それだけ。
ルイにとっての、プロフェッサーは。
大切な存在。だったんだ。

と。
今、一緒にいられる自分を。
幸せで、ありがたい。と、思った。

ルイの怪我も。
治りかけた、ある日。

もう、四季もなくなり。
年がら年中、暑い日本は。

空調機器から、
いつも冷気を、出し続けていて。

したがって。
ルイの部屋も、キンキンに冷えていた。

「寒くないですか?」
と、ツバサがルイに聞いた。

ソファーに座っていた、ルイが。
「大丈夫。だって、ツバサちゃん。
暑いでしょ?」と、答える。

「え?」

ツバサは、その時。
キッチンで、夕飯の、
クリームシチューを、作っていた。

「ひょっとして。私の為ですか?」
「まあ。いつもありがとう。」

それを聞いて、幸せすぎて。
真っ赤になる。ツバサだった。

「クリームシチュー。いい匂い。」
「お好きですか?」

「大好きかな。
よく母さんが、作ってくれてたから。」
「そういえば。ルイさんのご両親、
お見舞いとか、来られないんですね。」

「父さんは、行方不明。
母さんは、子供の頃。死んでる。」
「えっ?ご、ごめんなさい。
私ったら、余計な事を・・・。」

「いや。もう、大丈夫な話だから。」
「でも。・・・本当に私ったら。」

そう言いながら、
涙ぐんでしまう、ツバサ。

「ごめん。俺、ツバサちゃんを。
泣かせてばかりいるね。本当にごめん。」
「いえ。私こそ、涙もろくって。」

「今日は、居酒屋のお手伝いあるの?」
「いいえ。今日はないです。」

「そうか。
しかし、ビックボックスが、
建て直されてる間に。
その前のロータリーで、
屋台をするとは。さすがだね~。」
「ええ。本当に、
おばさんらしくて。パワフルで。」

「そろそろ、俺も、酒を・・・。」
「ダメです。
怪我が治らなくても、知りませんよ。」

「ツバサちゃん。厳しい~。」

と、おどけてみせる。ルイに。
ツバサは、笑顔になっていた。

「作ってくれた人に、なんだけど。
ツバサちゃんも一緒に。食べない?」
「え。いいんですか!喜んで!」

暫く。
とりとめもない会話をしながら。
クリームシチューを、食べる2人。

「久しぶりに。誰かとご飯食べたよ。
美味しかった。ごちそうさま。」

そう言う、ルイは。
3杯も、クリームシチューを、
おかわりしていた。

「久しぶり、ついでに。少しだけ、
話を聞いてもらってもいいかな?」
「はい!」

「俺の、家族の話。してもいい?」
「はい。どうぞ。」

「俺と、姉のアデルは。2人姉弟で。
現在、姉さんは、政府軍の大将で。
簡単に言うと、俺の、上官なんだ。」
「はい。」

「で。俺達の両親は、2人共。
政府の仕事についてたんだけど。」
「はい。」

「母さんは、15年前。
ある事件に巻き込まれて。俺を庇って、
死んでしまったんだ。」
「・・・。」

「父さんの事は、ごめん。
詳しくは、言えないんだ。」
「?」

「なぜなら、その話をすると。
ツバサちゃんの身に、危険が、
及ぶかもしれないからなんだ。」
「危険?ですか。」

「うん。だから今日は。
母さんの話だけ。してもいいかな?」
「ええ。」

それから、ルイは。
母親の事を、話はじめた。

綺麗で。優しい人だった、と。
仕事もバリバリで。

主に、政府の広報を、担当していて。
そんな人なのに。たまに、天然で。

夕食に、よく作ってくれた。
クリームシチューが、絶品で。

なのに。付け合わせが、パンではなく。
ゴハンを、焚いてしまうような人で。

愛らしくて。愛しい人だった。と。

ルイは、ツバサに。
優しい瞳で。語っていた。

そんな姿を、見ていたツバサは。

本当のルイは。
実はデリケートで。繊細で。
沢山の心の傷を、持ち合わせた。
そんな人だったんだ。と感じた。

肉体的にも、精神的にも。
強いルイが、好きだったツバサは。

自分だけでも。
ルイの、心のオアシス、
みたいになれたら。と、本気で思った。

そうして。
楽しい会話を、いくつかすると。

「暗くなると、危ないから。
もう、帰った方がいいかもしれないね。」

と。ルイに言われ。
後ろ髪がひかれる思いの、
ツバサだったけれど。
その言葉に、従った。

「なんだか今日は。よく眠れそうだ。
聞いてくれて、ありがとう。」

と。ルイ。
そして、続けて、こう言ってくれた。

「クリームシチュー。
懐かしい、母さんの味に。似てたよ。
美味しかった。本当に、ありがとう。」

「それで。ツバサちゃんに、
貰ってほしいものが、あるんだけど。」

と、ルイは言うと。部屋の中で、
唯一。生活感がみてとれる、
クローゼットの中から。
小箱を、取り出してきた。

「これ、受け取って、くれないかな。」
「え、私に。ですか?」

そう言って、小箱を受け取り。

「開けてみて。」
「はい。」

と。
開けてみると、中には。
小振りな、ネックレス・タイプの、
ロザリオが、入っていた。

「え、これって。」
「それ、母さんの形見なんだけど。」

「形見って、そんな大事なもの。
私なんかが、貰えません。」
「いや。ツバサちゃんには、
一杯、世話になったから。」

「でも・・・。」
「君に。貰ってほしいんだ。」

「・・・。」
「ダメかな?」

「いえ。喜んで、いただきます!」
「良かった。
母さんもきっと、喜んでるよ。」

と。そう言って、笑顔で。見送られた。

で。
ここまでが、幸せだった。
ツバサの3カ月間。

ルイの、怪我も完治し、
早速。仕事にも、復帰していた。

子トラのホワイトタイガー、
プロフェッサー・ジュニアも。
ルイに、くっついて歩いている。

ルイも、それが。
幸せそうで・・・。

少しだけ、ジェラシー。
な、ツバサ。

それだけ。
2人だけだった、
3カ月の時間は、
ツバサにとって、格別で。

いや。いかんいかん。
私は、ルイの。
心のオアシスになるんだから!

と。
元気を取り戻した、ツバサだった。

【第9話・セバスチャン】

ルイが、怪我をしていた期間。
不思議と、AIロボットの攻撃は、
パタリとやんでいた。

怪我も治り、
完全復活していたルイは。

今がチャンスとばかりに、
プロフェッサー・ジュニアの。
戦闘訓練に励んでいた。

ドーム型の、巨大なホールの中で。

政府軍の作った、
対、AIロボット用の、
アンドロイドが。
ルイ達の、相手だった。

ジュニアは、
だいぶ大きくなっていて。

力は、やはり父親には、
まだ及んでいないものの。

戦闘のセンスは、
素晴らしく良かった。

そんな、ルイ達のもとに。
アデルと、1人の男がやって来た。

「もう、すっかり元気だな。」
「おかげさまで。」

会話もそこそこに、
アデルが、口を開く。

「実は、提案があるのだが。」
「なに?」

「こいつ、
セバスチャンって、いうんだが。」

と、アデルは、
連れて来た男を、紹介した。

その男は。
小柄な、愛くるしい感じで。

ルイが、美青年ならば。
セバスチャンは、美少年な感じ。

丸くて薄い、
青色のサングラスをかけていて。
青いハーフコートを着ていた。

ルイに対して。
失礼だと思ったのか、
サングラスを、少しだけ取って、
挨拶をしてきた。

その顔は。
二重でアーモンド形の。
クリクリとした、ブルーの瞳が、
印象的な男だった。

アデルが、話しはじめる。

「ジュニアが、大人になるまで。
お前1人では、任務に就けまい。」
「いや。大丈夫だよ。」

「私に、頼ると。
約束したのを、忘れたのか?」
「う・・・。」

「どうだろう。
セバスチャンを、相棒にしてみないか?」
「相棒って。ジュニアがいるよ。」

「だから、ジュニアが。
一人前になるまでの間、
というのは、どうだ?」
「う~ん。」

返事を渋っている、ルイに。
アデルは、もう一声、という感じで。

「セバスチャンには、
メリットと、デメリットがある。」
「?」

「気になるだろ?」
「ん~。まあ・・・。」

「メリットは。
特殊能力を、持っているという事。」
「特殊能力?」

「そう。
スーパーコンピューター並みの、
計算能力がある。」
「スパコン並み?」

「そうだ。瞬時の計算によって、
敵がどう攻めてくるか・・・
って。言葉では、難しいな。」

と、アデルは、
「おい、セバスチャン。実践してみろ。」

そう言うと。
アンドロイドを、3機、選ぶ。

そして。
ルイと、セバスチャンに、
インカムを渡す。

「なにこれ?」
と、ルイ。

「いいから、やってみろ。」
と、アデル。

あまり、
気乗りしないルイだったが。
アデルの言う通りに、
インカムをつける。

セバスチャンも、それに倣う。

そして。
アデルは、
アンドロイドの起動を、コールし、
ターゲットを、ルイに指定する。

ブンッ。という音と共に、
アンドロイドが、攻撃態勢に入る。

「僕の声、聞こえますか?」
と、セバスチャン。

「おう。って、
もう、はじまっちゃってるよ!」
と、慌てるルイ。

右と、左に。
2機のアンドロイドが、
其々、攻撃を仕掛けてくる。

右は、キック。
左は、パンチ。

それらを。
余裕をもってかわす、ルイ。

すると。イヤモニから、
「前方から、
モンゴリアンチョップがきます。」
と、セバスチャンの、声がする。

「え?」
一瞬、ルイは止まる。

と。
アンドロイドが、ルイの頸動脈を狙い、
ダブルチョップを、振り下ろしてくる。

それを、どうにかかわし、
「モンゴリアンって・・・。」
と。呟くルイ。

すかさず。
前方の、かなり近い所まで、
近付いてきたアンドロイドに。

「次。地獄突き(じごくづき)
が、きます。」
「え・・・。」

と、喉元を狙いチョップがくるが、
それをかわす。

今回の戦闘シミュレーションは。
あくまでも、技の出し方を、
重視しており、武器も持たない訓練で。

アンドロイドの、心臓部分を。
拳で打てば、倒したとみなされる。

とりあえず。
2機は、倒せた。

すると。
3メートル程離れた所から、
3機目のアンドロイドが、
左腕をしならせながら、走ってくる。

「ウエスタンラリアットがきます。
気を付けて。」
と、セバスチャン。

言われた通りに、それをよけると。
アンドロイドの後ろを取り、
抱き着く形で、急所を突く。

「ちょっと、アデル!」
「なんだ?」

「なんだ、じゃないよ。
あの掛け声は、なんなんだ?」
「セバスチャンのだろう。
それが、デメリットの1つで。」

「1つ、って。もしかして、
モンゴリアンチョップはキラー・カーンで。
地獄突きはブッチャーで。
ウエスタンラリアットは、スタン・ハンセン。
って、往年のプロレスラーの決め技じゃ?」
「やはり、気付いたな。」

「いや、やはりじゃなくて・・・ん?」
「もう1つ気付いたな。」

「デメリットが、
1つ目とか、言ってたけど・・・。」
「そう。こう見えて、
セバスチャンは、銃撃戦や、白兵戦が。
超がつく程、苦手なんだ。」

「え?それじゃ何が、出来るんだ?」
「だから。唯一のメリットが、
相手の動作を、いち早く伝える事が、
出来る。ということ。」

「?」
「つまりは。防御に長けている、
という事なんだ。」

「防御、って・・・。」
「すみません。僕、どうしても、
相手の技を、プロレスの決め技に。
例えるクセがあって。」

と、セバスチャンは、ルイに謝る。

「いや、そこじゃなくて・・・。」
と、ルイ。

「戦闘ランクが、政府軍一のお前なら。
セバスチャンを、使いこなせるだろう。」
と、アデル。

「すまん。私も忙しくてな。
セバスチャンを、頼んだぞ。」

そう言うと。アデルは、
さっさと、ホールから出てゆく。

取り残される、2人と1頭。
ジュニアは・・・遠くの方で、
眠っていた。

「あの、宜しくお願いします。
ルイさん。」
「あ、ルイでいいよ。
その方が伝えるの早そうだから。
それと。良かった~プロレスファンで。」

「え?プロレス好きなんですか?」

それから。
セバスチャンは、プロレスについて、
熱く語り始めた。

ルイと、セバスチャン。
出会ってから30分後。

「ルイ。凄いじゃん、プロレスの知識!」

セバスチャンは、酒が入ると、
遠慮なく、グイグイくるタイプらしい。

ルイの背中を、バンバン叩きながら。
マシンガントークを、炸裂させていた。

2人と1頭は。
居酒屋、ジャイアント馬場にいた。

ルイが、アデル以外の人間を。
ここに連れて来たのは、初めてだった。

「それにしても、
ここの居酒屋の名前、最高です!
馬場さんの16文キックなんてもう~!」
「おや、あんた。センスあるじゃないか!」

と。セバスチャンと、店主は。
すぐに打ち解けていた。

しかし。
ツバサだけは、違っていて。

ルイに、馴れ馴れしい、
セバスチャンに対して。
良く思っていなかった。

その感情は、なんとなく。
嫉妬に近かった。

その、ツバサの読みは当たり。
ルイも。セバスチャンを、
友人の様に、扱う様になっていった。

ドームでの戦闘訓練が終わると、
居酒屋で食事をする。という、
生活パターンが、2カ月程続く。

その頃。徐々にだが、
AIロボットの目撃情報が、
入るようになっていた。

しかし。
奇妙なことに、AIロボットが、
以前の様に。人間を襲った、
という情報は入ってこない。

それを、不審に思ったルイは。
セバスチャンと、ジュニアを連れて。

目撃情報が多かった、
新宿の都庁周辺を、重点的に。
見回る事にしていた。

すると。ビンゴ!

AIロボットを、2体。見付けた。
と、同時に。あちらも、我々に気付く。

早速。実戦で、
インカム戦法を。試せる時がくる。

ジュニアは、
セバスチャンの隣に、つかせる。

「セバスチャン、用意はいいか?」
「OKです。いつでもどうぞ。」

先手必勝。とでもいう様に、
AIロボットめがけて、ルイは舞う。

攻撃が、右のヤツからくる。
セバスチャンの、言う通りだ。

その調子、という感じで。
左右の2体を、連続して倒す。

そこで。ルイは気付く。
呆気なさすぎる。

そう。AIロボットが、
以前よりも、弱く感じるのだ。

ただ。それは、
ルイ達が強くなったからなのか。
わからない。

カチカチカチ。

変な音が、足元から聞こえる。
倒したAIロボット達が、
発信源だった。

「あぶない、みんな逃げろ!」

そう叫ぶと。ルイは、セバスチャンと、
ジュニアと共に、飛んだ。

グオ~ン!バ~ンッ!

と、2体の、
AIロボットが爆発した。

暫くして。
「・・・大丈夫か?」
と、ルイが起き上がる。

「・・・なんとか。」
セバスチャンは、ジュニアを庇って。
右手に、軽いヤケドをしていた。

「セバスチャン。
すまない、ジュニアをありがとう。」
「いえ。みんな無事で良かったです。」

爆風で吹き飛んだ、グシャグシャの。
セバスチャンの、サングラスを。
ルイは、すまなそうに。そっと渡した。

「怪我の手当てをしよう。うちに来るか?」
「いいんですか?じゃあ、ありがたく。」

そう言うと、セバスチャンは、
立ち上がろうとして、・・・立てなかった。

「な、なんか。腰抜けちゃって。ははは。」
「おぶっていこう、ほら。」

ルイは、軽々とセバスチャンを背負うと。
ジュニアに、ついてくるように言い、
自分の家へと向かう。

「へぇ~。ルイっぽい部屋ですねぇ。」
と、素直に感想を告げる、セバスチャン。

「ぽい、ってなんだ。それは。」
「いや。無機質?というか・・・。」

「さあ、出来たぞ。」
手際よく、怪我の手当てをするルイ。

「ありがとうございます。」
そう言う、セバスチャンが。
少し目を細めた。

「目、眩しいのか?」
「すみません。
ちょっと、光に弱くって。」

「じゃあ・・・。」
と、ルイは立ち上がると。
洗面台に行き、何やらゴソゴソしている。

「これで、どうだ?」
と。セバスチャンに、
サングラスを渡す。

「少し、
濃いかもしれないが、応急処置だ。」
「いえ。十分です。お借りします。」

「いや。あげるよ。他に何本かあるし。」
「でも・・・。」

「では、ジュニアを庇ってくれた、
お礼に。でどうだ?」
「それだったら。いただきます。」

と言うと、
そのサングラスをかけてみる。

「おっ、似合うじゃん!」
「どうも!」

その時。
セバスチャンの、
腹が。盛大に鳴った。

真っ赤っかな、セバスチャン。

「すみません・・・。」
「確かに。腹減ったな。その手じゃ、
酒はやめた方がいいだろう。」

「それじゃ、僕、帰ります。」
「いや、何か作ろう。」

「え?ルイが?」
「なんだその、?は。
俺、結構料理上手いぞ。」

で。
チャーハン、餃子、スープ付きが。
2人分。テーブルにあがる。

「おっと、ジュニアはこれだ。」
と、エサを持ってくる。

暫し。
2人と1頭は、食事に励む。

「美味しかった~。ご馳走様でした!」
セバスチャンが笑顔で、礼を言う。

「少しゆっくりして、
・・・って、寝てるぅ~!」

そう。
セバスチャンは、グーグーと。
イビキをかきながら、眠りこけていた。

ソファー兼、ベッドを、占領され。
仕方なく、ジュニアの寝床へゆくルイ。

ジュニアは、
嬉しそうにゴロゴロしてくる。

こうして。
一夜が、開けてゆくのであった。

事件?は、次の日の朝に起こった。

なにやら、喧嘩をしている様な声で。
目覚めるルイ。

「なんで、
あなたが此処にいるんですか?」
と、怒鳴っているのは、ツバサ?

「いやいや、ちょっと、聞いて・・・。」
と、セバスチャンの声。

「なにがあったんだ?」
と、ルイが2人に、割って入る。

「ごめんなさい!」
と。5分後の、ツバサ。

任務の際に、ジュニアを庇って、
怪我をしたという一件を。
ツバサに説明する。

そして。
ルイとセバスチャンは、

「俺は、女性が好きだ。」
「僕もです。」
と、キッパリと言った。

「そもそも、
なんで、ツバサちゃんが?」

と。ツバサが朝に、
ルイの家に居る事が不思議だった。

すると、
「昨日、ジャイアントに。
来なかったから・・・心配で。」
と、ツバサ。

「そりゃ、どうも。でも1日くらいで。」
「本当に。すみませんでした。」

これ以上言ったら、
泣いてしまいそうで。

ルイは、
「ありがとう。心配してくれて。」
と言うと。ツバサは、笑顔になった。

みょーな誤解が解けて、
一件落着。した、ツバサは。
晴れやかな笑顔で、去っていった。

残された、2人と1頭は・・・

「朝メシ、食うか?」
「いただきます。」
と、食事をした。

「ところで。昨日の、
AIロボットの、爆破だが。」

と。おかずの鮭をつつきながら、
セバスチャンに、話しかける。

「はい。なんか、みょーですよね。」
「気付いたか?」

「今までは、あんな、気生臭い事。
したりしなかったのに。ですよね。」
「うん。」

「少し、焦っている?
って、感じでしょうか。」

そんな事を話しながら、
食事を済ませると、

「僕。一度、家に帰って、
着替えてきます。」
「わかった。」
と。2人は離れた。

【第10話・決戦】

ルイとセバスチャンが。
離れてから、3時間後。

セバスチャンは、博士=ルイの父。
の研究室に居た。

「それで。ルイの弱点は、
見付けられましたか?」
博士は、セバスチャンに問う。

「いいえ。まだ、わかりません。」
「嘘だ。」

「え?」
「そんな嘘を、
信じると思ったのですか?」

「でも・・・。」
「この女だろう。ルイの弱点とは。」

と、操作パネルの中にある、
ボタンを押す。

前面のシャッターが、
少しずつ上がっていく。

そこに現れたのは、
両手両足を縛られた、ツバサだった。

「ツバサちゃん!」
セバスチャンの顔色が変わる。

「何故、彼女を?」
「どう見ても弱点でしかないでしょう。」

そう言いながら、
博士は、尚も続ける、

「しかも、母親の形見のネックレスを、
付けているなんて。憎たらしい。」

セバスチャンと、
博士の押し問答が、続く。

「良かったですよ。
隊長に貴方の後を、付けさせておいて。」
「・・・。」

「しかも。此処の場所、
アデル達に知らせたでしょう?」
「・・・。」

「貴方の通話を傍受したので。
結構簡単でしたね。では、宜しく隊長。」
「くっ!」

セバスチャンを、アイパッチの男。
隊長が、締め上げる。

「貴方には、
此処で散ってもらいましょう。」

博士は、そう言うと。
隊長に殺せと、指示する。

その時。
研究室のドアが、爆風で吹っ飛ぶ。

埃と煙で、
目の前が真っ白になる。

そして。そこに、
ルイとアデルが現われる。

その横には、
ミルクと2頭の子トラ。

舞台は整った。
とばかりに、相まみえる。

「セバスチャン、大丈夫か?」

ルイは、隊長を蹴り上げると、
セバスチャンを逃がす。

「ルイ!ツバサちゃんが!」
セバスチャンが叫ぶ。

「彼女は、任せろ。」
と、アデル。

博士=父親、と対峙するルイ。

「父さん。こんなバカな事、
もう終わりにしないか?」
「バカな事?私から離れておいて、
それを言うのですか?」

「やり方が間違ってるよ。
それに俺は、父さんに人を殺して
ほしくない。」
「では、母さんは。何故死ななければ
いけなかったのですか?」

「それだよ。こんな事、
母さんだってきっと、望んでいない。」

ルイは、父親を説得し続ける。

が。
「セバスチャンは、
お前の母のかたきですよ。」

と、父は。AIロボット達を集めて
バリケードをつくりながら、
ルイに話し続ける。

「かたき?」
「そう。あの、汚職事件を起こした。
高官の息子なんですよ。」

そして、父は続ける。
「ほら、私を殺すよりも、
その男を殺しなさい。」

「・・・殺す?だって。」
ルイが返す。

「俺は、誰も殺しはしない。
人が人を、殺しあうなんて。
絶対に、あっちゃいけないんだ。」
「・・・。」

「それを、AIロボットにやらせる
なんて。もっと、ダメだ!」
「・・・。」

「俺は、あなたを。
父さんを殺したりしない。
それに。セバスチャンを
殺したりなんて、もっとしない!」

ルイは続ける。

「アデルに、道中。話を、全部聞いた。」
「全部、ですか?」

「そう。セバスチャンがスパイ。
要は、あなたの味方のふりをして。
此処のアジトを突き止めた。
という事も。」
「では、母のかたき、と聞いて。
恨まなかったのですか?」

「恨む?もちろん、最初は動揺したよ。
でも、セバスチャンはセバスチャンだ。
高官の息子だろうが、関係ない。」

「ルイ!」
セバスチャンは、ルイの元へ駆け寄る。

それを見た、父は。
アデルとやりあっていた、隊長に。
「戻れ!」と、叫んだ。

その瞬間。
AIロボット達が、一斉に動きを止め。
次々と倒れていった。

カチカチカチ。

また、あの音が。
研究室の中に、鳴り響く。

「まずい、こいつら爆発するぞ!」
と、ルイが叫ぶと。
皆を誘導し、研究室から撤退する。

そののち。
研究室が入ったビルが。
勢いよく、大爆発した。

「皆、無事か?」
ルイが、辺りを見回す。

一同から、「大丈夫だ。」と。
皆が怪我もなく、逃げられた事を。
確かめ合う。

その夜。

居酒屋・ジャイアントに。
皆の姿はあった。

まず最初に。
ルイはツバサに謝った。

「ツバサちゃん。
怖い思いをさせて、ごめんね。」
「いいえ。大丈夫です。
必ずルイさんが、助けに来てくれると。
信じてましたから。」

そう言うと。ツバサは笑顔で、
給仕に勤しんでいた。

「いつからスパイ行動に、
気付いていたんですか?」

セバスチャンが、ルイに問う。

「最初から、かな・・・。」
「僕。そんなに、演技下手でした?」

「いや、むしろ自然すぎて。
いわば、カンかな。スパイの方は。」
「カン、ですか?」

「そう。後は、その瞳かな。
高官のお父さんに、ソックリだ。」
「僕が、お母さんのかたき、
の息子でも。許せます?」

「研究室でも、言ったけど。
お前は、お前だ。」
「本当に?」

「ああ。アデルも、全てを知っていて。
俺にセバスチャンを、あずけたんだろう?」
「図星だ。」と、アデル。

「やっぱりね。」
「じゃあ・・・。」
セバスチャンは、ルイを見詰める。

「これからも宜しくな。相棒!」
それを聞いて。パッと笑顔になる
セバスチャン。

店主とツバサ。そしてセバスチャンは、
プロレス談義で、盛り上がっていた。

「父さん達、逃げたんだろう?」
ルイは、アデルに呟く。

「だろうな。次には同じ手は使えんな。」
「使うなよ。一歩間違えれば、
セバスチャンが、大変な事に、
なっていたんだ。大切な命だぞ。」

「まあ、そう怒るな。
これでも、反省はしている。」
「ツバサちゃんに、護衛を付けて
くれるか?」

「承知した。」
その時。アデルの会話ツールが
開いた。

「了解した。」
アデルは、そう言うと。席を立つ。

「任務か?」
「ああ。隊長と呼ばれていた男が、
政府軍に、自首してきたらしい。」

「え?そんな事が、起こるか?」
「うむ。怪しいな。」

「俺も行くか?」
「いや。とりあえず、
私があってみよう。」

「じゃあ、連絡をくれるか?
プロフェッサーを殺した男だ。
俺も話をしてみたい。」
「わかった。
お前もねぐらを、変えておけよ。
父の事だ。万が一を考えて行動しろ。」

そう言い、
店主達に挨拶すると、
アデルは居酒屋を出て行った。

「隊長。あいつが、自首する柄か?」
ルイは、低く呟いた。

新たな幕が明けてゆく。そんな夜だった。

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