丸山 篤郎

丸山 篤郎

マガジン

  • 空よりも軽い

    これはすべて、現実のこと。

  • パースペクティブ

    冒険は、日常の中にあるのだ。

  • 森とクジラ

    都会を離れて海辺の町へやってきたミトは、海岸沿いのカフェでオオノと、森のなかでキタムラさんと出会う。静かに降り積もる時間とそれぞれの思い。

  • Game Start

    子供と一緒に始めたオンラインゲームのなかで、ぼくは知らない男に声を掛けられた。彼に託されたものは…。

  • 神様がきた

    郊外の町を舞台に、日常に差す光を描く小説です。

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出会うタイミング

書店に行くと、読みたいと思う本、面白そうだと思う本がたくさんある。 青山ブックセンター本店が好きなので、月に一度の散髪のあとに立ち寄ることが多い。美容師さんに髪を切ってもらったあとはフレッシュな気分になるので、そのフィーリングのまま店内に入っていくのが好きだ。 入ってすぐ左手に洋書のファンション誌コーナーがあって、いつもそこで立ち止まる。男性誌の表紙を見渡し、気に入ったものがあれば手に取ってページをめくる。ファッション誌特有の重みも、指先に吸いつくような紙質も、心をワクワ

    • 14年

       大江健三郎の著作に、『新しい文学のために』という新書がある。1988年に刊行された本で、カバーの袖にはこのように書かれている。  この本は僕の本棚にずっと眠っていたものだ。奥付を見ると、2010年4月15日 第35刷発行、と書いてある。2010年は僕にとってターニングポイントとなった年だったが、その年に購入したのだと思う。だがそうして買ってみたものの、本書を数ページをめくって、本棚にしまってそのままになっていたのだった。  買ったタイミングで本書を読まなかった理由。僕は

      • 足跡

         気がつけば秋になっていた。よくおぼえている秋の気候に比べれば暑いけれど、光と風はもう秋だ。  九月に入ってから会社の仕事が忙しく、あっという間に十月の半ばになってしまった。今年の誕生日はさまざまな方からお祝いのご連絡をいただいたのに、忙しさにかまけてお返事もできず、この場を借りてお詫び申し上げます。  最近の忙しさというのは、ある案件について社内の稟議を回しているのだけど、あるところでどうにも先に進めず、その説明のためにあれこれ準備をしたり根回しをしたりと、その仕事で毎

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        • 空よりも軽い
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        記事

          アゲイン

          映画『ルックバック』をもう一度観てきた。 悲惨な結末ではあるし、突然の凶行によって人生半ばで死んだ京本はもっと、もっと絵が描きたかっただろうと思う。 それでも、終演後、これでよかったのだという思いが深くあった。 京本は憧れの藤野との出会いによって、外の世界に出ることができた。そして、自分一人の力で生きてみたいと思えるようになった。 自分の人生を生きようと決意し、そうして生きた彼女は、幸いだったと思うのだ。

          ルックバック

          原作を読んでいたけど、声と動きのあるアニメの方がグッときた。藤野と京本の声優さんが名演。上映後、何か言ったら器いっぱいの水が揺れて溢れ出しそうで、何も言えなかった。本当に素晴らしかったです。もう一度観たい。

          ルックバック

          僕たちのできること

          僕たちのできること

          空よりも軽い (4)

           部下の子がね、泣いちゃって、もう泣くなんてやめなよって思ったけど会議室で二人だったからうんうんって話すのを聞いた、わたしも若い頃あったな、あれ、つらいとか口惜しいとか、そういうんじゃないんだよね。なんだかわからないかたまりがブワッてあふれてくるの、自分でもどうしようもないんだよ、それで泣いたらあとはスッとするんだよね。浄化っていうの? そう、わたしたちは自分で浄化できるんだ、それって側から見たら滑稽かもしれないけど、美しいことだってわたしは思うんだよね。  キッチンで話し

          空よりも軽い (4)

          空よりも軽い (3)

           毎朝六時に起きて、顔を洗って中公園に行くのは大変だ。もっと寝ていたいのに外が明るい。ビニールの紐が通された青い台紙に白いざらざらした紙が貼り付けてあって、ラジオ体操が終わると大人がハンコを押してくれる。元気そうな男の子のハンコ。七時前には太陽が高く上って公園の広場にほとんど日陰はない。広場を取り囲む森から蝉たちの合唱が響いていて、池田くんも大木くんも初日だけ来て、あとはずっといない。大木くんの弟は毎朝来ている。まだまだ先だと思っていたらいつの間にかハンコはいっぱい押されてい

          空よりも軽い (3)

          空よりも軽い (2)

           私が出会った小学生のなかで、広田くんは一番いろんなことを知っていた。学校の勉強は苦手のようだったが、彼は私の知らないことをいっぱい話してくれた。広田くんには中学一年のお兄ちゃんと、小学二年のコウタくんが弟にいて、時々彼の話に出てきた。  ゴールデンウィーク明けの教室は窓の外がやけに青くて、日の差さない室内は暗かった。短い休み時間に私の隣にやってきた広田くんは、しんちゃん、バイクに乗ったことあるか? とたずねた。私は首を振った後、あ、でも、お祖父ちゃんのバイクの後ろに乗せて

          空よりも軽い (2)

          空よりも軽い (1)

             空よりも軽い 丸山 篤郎     光が流れ落ちてゆくのを見ていたら、それは明るい雨のようだった。  ゆっくりと光が白く溶けて、私はキッチンの壁を見上げていた。壁には五十音のポスターが貼ってあって、〈く〉だと茶色くてまるいクマ、〈ふ〉だと白いカバーに包まれた布団、そうやって文字の横にイラストが描いてある。  これは? あ。これは? い。  母親が指さす文字を見上げ、私は答える。私が文字を読み上げるたびに母親はおかっぱの髪を軽く揺らし、嬉しそうな顔をして、そう、

          空よりも軽い (1)

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          Season's Greetings

          Season's Greetings