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砂ぼこり運ぶ つむじ風

東西線に座っている時から、
どうしてもチョコレートが食べたかった。

だから、地上に出てすぐあったコンビニで
チョコレートを探した。

ビスケットはいらない、
苦いのも気分じゃない、
かといってホワイトチョコもなんか違う。

チョコレートを吟味する私の頭上で
レミオロメンが歌っていた。
天井の黒いスピーカーから流れる
3月9日。

今日はもう3月12日。
卒業式は終わった。
私の卒業式は2年前に終わった。

選ばれたのは手につきにくいチョコレート。
一つ手にとってレジに並ぶ。

レジで前に並んでいた女子高生は
制服ディズニーがどうのこうのと
はしゃいでいたので、

私は
思いっきり楽しめよーー!!
時間は気づいたらなくなってるんだぞーー!!
と心の中で叫んだ。

その想いが通じたのかもしれない。
女子高生たちは後ろを振り返って、

ねぇはやく!はやくして!

とこちらを手招きした。
正確には、後ろの冷蔵庫で飲み物を選んでいた子を手招きした。
その子はまだ飲み物を選んでいたようで、

ちょっと待って!5秒で行く!

と答えた。

5秒も待てない!!

と返す声を聞いて、
私は女子高生の時間の流れの速さに驚いた。
こうやって彼女たちは
疫病だって災害だって吹き飛ばすような
瞬足で駆け抜けてきたんだ。
大人が追いつけないスピードで。

もう私にそのスピードは無いし、
走れる体力もないだろう。
それはそれでいいと思っている。
遅かろう悪かろうなんてことはない。

でも、
彼女たちが舞いあげていった砂ぼこりを運ぶ
つむじ風くらいには、まだなっていたい。

チョコレートは予想外の出費で、
万年金欠生活の私には少々痛手だったなぁ
なんて考えながらコンビニを出ると、
高い空に白い月が出始めていた。
いつものように綺麗だったけれど、
なんだか今日は月に見惚れていたくなくて、
下り坂を早足で歩き出した。


「砂ぼこり運ぶ つむじ風
 洗濯物に絡まりますが
 昼前の空の白い月は
 なんだかきれいで 見とれました」


もつなべ



卒業シーズンは毎年卒業ソングが聴きたくなりますね、しんみり。しんみり。

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