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白いダースの君へ

年の暮れ、母から「実家をリフォームするから片付けに来てほしい」と連絡があった。大学に進学するとき、就職するとき、結婚するとき、折に触れて少しずつ片付けてはいたけれど、学習机だけはそのままだった。

小学生の頃からずっと使っていた学習机。卒業アルバムや”当時の宝物”たちがそのままそこに残っていた。懐かしいなと思いながら、取っておいても仕方がないしなと着々とゴミ袋に入れていく。

片付けも終盤に差し掛かった頃、引き出しの奥から『白いダース』の空箱が出てきた。どうしてお菓子の箱?と見てみると、箱の裏に「がんばれ!」の文字があり、懐かしい記憶が蘇ってきた。

⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰

高校3年生の冬、毎日放課後に図書室で受験勉強をしていた。ある日の放課後、ついうとうとして机に伏せて眠ってしまっていると、「コト」という音が聞こえて目が覚めた。

音がした方に目をやると、机の端に白いダースが置かれていた。誰だろう?と周囲に目をやると、それを置いてくれた誰かはもういなくて。

手に取ってみると、箱の裏に「がんばれ!」の文字。姿を見ることはできなかったけれど、すぐに誰だかわかった。

ダースかあ。ふふ、白いダース。キットカットじゃないんだね。パッケージに受験応援メッセージといえばキットカットが定番なのに、白いダースなところに彼らしさを感じた。

⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰

彼も私も志望校には落ちてしまった。その後、彼は浪人して予備校へ通い、私は滑り止めの大学へ進学することになった。彼の予備校と私の大学は近く、お互いに一人暮らしだったのでいつでも会うことができた。

それでも、高校を卒業してほどなくして私は、彼に会うことをやめた。

これから勉強漬けで寮と予備校の行き来になる彼と、これから自由気ままなキャンパスライフを送る私とでは、あまりに生活に差がありすぎる。きっとその差に彼も私も耐えられなくなる。

新しい友達もできてアルバイトも始めて、勉強はそこそこに遊びに時間を費やす浮ついた私を見て彼は呆れるだろうし、私も彼の前で気を遣いすぎて疲れてしまうと思った。

正直新しい生活に浮き足立っていて彼のことを考える時間も少なくなっていたし、勉強の合間を縫って会いにきてくれる彼に後ろめたさを感じていた。

「私たち、距離を置いた方がいいと思う」そう伝え、私たちはそれきり会っていない。

「お互いのため」と正当化したけれど、そうじゃない。私は私のために別れを選んだ。1年間予備校に費やせる時間も労力も財力も、もしかしたら羨ましかったのかもしれない。

⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰

あのときの白いダースは、キュンとしたし本当に嬉しかった。

「どうしてダースなの?」「どうしてホワイトチョコレートなの?」「私のイメージで選んでくれたの?」といろいろ聞きたいこともあった。

私が「言葉が好き」と話したら、メールで詩や短歌のやりとりをしてくれたよね。いろいろな言葉にそれぞれ意味を込めて、お互いどんな意味なのかなどんな気持ちなのかなって、言葉遊びもたくさんしたよね。

楽しかったよ。嬉しかったよ。いつも言葉だけではなくて、行動ひとつひとつすべてに意味を込めてくれて。

白いダースの意味は何でしたか。

サクラサク季節の度に君に問う白いダースのお礼も言えず

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