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逆噴射高梨蒼

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よく来たな。ここは逆噴射記事、逆噴射小説大賞参加作品などを纏めたMEXICOだ。
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#逆噴射小説大賞2020

そして煙草は尽き、勇史帳は埋まる。

そして煙草は尽き、勇史帳は埋まる。

亡き祖父の自慢の店の残骸の真ん中で、元女主人の少女は肩を落としていた。少女は恨み言を吐くことはせず、代わりにただ、夜に佇む男に問う。

「あたし、これからどうなるの」
「おそらく、俺を匿っていた背信者として別の部隊が捕えに来る。その先は、運だ。祈れ」
「……ウェ」

漠然とした絶望を前に、少女は力なく落胆した。
彼女の問いに応えた男、ギエンはほんの一月前までこの一帯を支配していた大魔族である。彼は

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カグライ・ライジング!―英雄なき俺達の夜明け―

カグライ・ライジング!―英雄なき俺達の夜明け―

鋭い風が異様な気配を乗せて吹き抜ける。今の季節は街の誰もが刃から身を隠すように厚着をするのだが、防刃防神コートを着ている俺達の前では生温い。

「コグロ、今まで有難う」
「今更クソ真面目に何言ってんだ」
「礼節。お前に教わったこと」

相棒は殊勝に笑った。噂では、王都の協会はこのアホを儚い男前として売り出したいらしい。無理な目論見と気づくには雨季までかからないだろう。

「礼節弁えるんなら、王都行

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太陽の仮宿と月光の姫君

太陽の仮宿と月光の姫君

高度に体系化された魔術は科学と見分けがつかない。
リンゴを投げれば落ちるように、決まった手順で杖を振れば風が吹く。そういう風に出来ている。

〈座の一端/贖罪の木片/西から東〉
「黙れッ!」

俺は入り組んだ都市迷宮の上方、辛うじて詠唱の聞こえた方角へ一喝した。怒声は俺たちを狙う魔力の流れを遡り魔術師を卒倒せしめた、ハズだ。姿は見えないが、遠くで魔力の群れが消えた。

「やりすぎだよマハル!」

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