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青春の叫びが地域を動かす〜Z世代の叫び、ふたたび。

2022年12月。エイサーの街・沖縄県うるま市。「季節が2つしかない」といわれるこの島にも、ようやく冬が訪れようとしていた。
 
前回のイベント(リンク有)からはや4ヶ月。沖縄県の「Z世代」が、文字通り1から100までイベントを自分たちの手で作り上げる高校生団体、「Manabi-ya(学び夜)」が再始動した。第2弾は学び夜フェス、略して「まなふぇす」と銘打って、地域の活性化にコンセプトを絞った音楽祭企画をぶち上げた。

伝統の獅子舞。中身は可愛らしい地域の小学生であった。


たったふたりから始まった「まなふぇす」


今回のコアメンバーは、前回の主軸を担った3年生たちが引退したため、前回イベントで地肩を作ってきた久保田玲仁(くぼた・れいじ、N高等学校2年)、森田真珠(もりた・しんじゅ、前原高校2年)のふたりからスタートした。そう、最初はたったふたりだったのだ。
 
圧倒的に人が足りない中、彼らはイベントの企画や理念を練り、貴重な時間と足を使ってがむしゃらにメンバーを集めた。スポンサーに頭を下げて周り、文字通り汗と涙を流しながら、当日まで必死になって動き回った。

それはまるで、彼らの耳に「青春」という時計の針の音が聞こえているかのようだった。「青春」にも、いつかは終わりが訪れる。彼らも、それを知っていたのかもしれない。

時計の針はやがて、ぐるん、ぐるん、と音を立てて勢いよく回り始めた。それは大きな竜巻を生み、周りの高校生や大人たちを吸い寄せ、巻き込んだ。

高校生という生き物はいつの時代であっても多感だ。エネルギーを持った周りの他人にすぐに影響を受け、その渦に自ら飛び込んでいく。高校生メンバーは、1等星のごとき光を放つふたりを中心に、どんどん増えていった。
 
エネルギーを持った他人に感化されるのは、「大人」だって同じだ。本気で生きている人ならば、高校生と同じくらいの熱量を持って、その渦に飛び込んでいくことができる。ただこちらも本気だから、高校生だからと言って、子供扱いしない。優しくする時は優しくするし、厳しい時は徹底的に厳しくする。

イベント準備はいつしか佳境を迎え、さすがの彼らもいよいよ忙しくなってきた。しかし、「めげそうだった」と口を揃えるコアメンバーの顔はさっぱりとすがすがしく、見違えるように成長していた。

そうして、高校生と「大人」の境界線は、だんだんと曖昧になっていった。

躍動する実行委員長・久保田玲仁(くぼた・れいじ、N高等学校2年)。将来の夢は政治家で、所属高校の政治部で活動している。名刺を用いての挨拶も、すでに大人顔負けの慣れようである。
副実行委員長・森田真珠(もりた・しんじゅ、前原高校2年)。ふだんは親しみやすいひょうきんなキャラクターだが、新入りの実行委員を集めて話す姿は真剣そのものである。

迎えた本番当日


迎えた本番当日。高校生が苦心して押さえた会場は、うるま市役所から程近い「うるま市地域交流センター」。屋根を備えた屋外ステージを有し、しかも幹線道路沿いという絶好の条件が揃った、まさに絶好の舞台である。

司会は前回に引き続き、沖縄のスター「ひーぷー」さん。実行委員長の久保田玲仁からの再オファーを二つ返事で引き受けてくださった、ウチナンチューならば誰もが知る大御所である(ギャラ交渉も、高校生が行っている)。

またイベントについて事前にお知らせしていた中村正人うるま市長も、会場設営の視察に訪れた。

あくまでコンセプトは地域活性化。地元の特産品や、SDGsの概念をどのように地域に還元していくか、工夫を凝らしたパネルも同時に展示した。


屋外ステージでの出場者は、直前まで高校生が交渉を重ねて出ていただいた地域の才能たちである。厳選されたキッチンカー4台も全て大盛り上がりとなり、出演者キャンセルのトラブルも、事前に用意したバックアップ企画とキッチンカーへの誘導でことなきを得た。イベントは、大成功のうちにフィナーレを迎えた。

キッチンカー4台も全て大盛り上がり。常時長蛇の列ができた。これも高校生が厳選したお店ばかりである。


ひーぷーさんに促され、実行委員長の久保田玲仁が来場者に締めの挨拶をした。

「たくさん辛いこともあったけど、来てくださったみなさんが拍手をしてくれ、楽しんでくださり、本当によかった」

彼の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。委員長としての重責が、彼の両肩から解放されたカタルシスの瞬間である。がむしゃらに走り回ってもメンバー集めは難航し、イベントのコンセプトや出演者が決まったのも直前であった。

顔をぐしゃぐしゃにし、声を詰まらせながらも、しっかりと来場者の方を見て感謝の言葉を述べる実行委員長。そしてこれを成功させた実行委員たち。その場にいる全員が心を動かされ、また彼らのことを心底羨ましく思ったことだろう。

来場者に感謝の言葉を述べる実行委員長と実行委員


「Z世代」が全身全霊で社会にぶつける、「発信すること」の重要性


今回のイベントを経て、改めて確信したことがある。それは、この世の中を生き抜くためには、自らを発信しつづける他ない、ということである。

「発信者」とは何か、今一度振り返っておきたい。
それは、「現状を正確に根拠を持って把握し、自らの知識、経験、バックグラウンドというフィルターを通して解釈した情報のかけらを統合して、形を作り、社会に発信することを十分な熱量を持って行う人間」。そう筆者は解釈する。
 
この人間同士のつながりが薄いと言われる情報過多社会に埋もれないために、よりよい社会を作っていくためには、各々が社会に何を還元できるかを懸命に必死に考え、泳ぎ続けるしかない。バタ足でもいい、犬かきでもいい。とにかく前に進むしかないのだ。こうしてZ世代の青い叫びは、こうして地域全体を動かした。

「コロナ直撃世代」なんてもう言わせない。彼らは、自分たちの意志で、自分たちの力で、社会を納得させたのだ。

「Manabi-ya」は、次のステージへ、また一歩ずつ歩んでいく。

祭りの後。無数の手作り牛乳パックランタンがうるま市の夜を彩る。「学び夜」はまだ始まったばかりだ。


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