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【超日記?】暗い光

くらった。それは鈍器でガツンとぶたれるのではなく、ピアスを開けた後にじんわりと広がる痛みのような、火をつけた煙草の火種がだんだんとフィルター部分に近付いてくるような、ゆっくりと、重く、深く、そういう類のくらい方だった。渋谷駅から青山方面へ徒歩十分のアパートの四階に構えられたギャラリーには、駅から遠のくにつれ人影の減る道とは裏腹に多くの人で賑わっており、楽しそうな人々の笑顔が私の気持ちをざわつかせた。壁に並ぶ温かい文章も、見覚えのある可愛いらしい絵画も、思い切り息を吸い込みたくなるほどに充満する珈琲豆の匂いも、心地の良いBGMも、噛めば噛むほど私の心に感動と焦燥感を残す。今日は来てくれてありがとう!と笑顔の友人に声をかけられると、来れてよかった、これ良かったら食べて、と駅前で買ってきたクッキーをそそくさと渡し、御礼と共にかけられたベランダで煙草吸えるよという言葉ですぐ逃げるようにベランダへと向かい煙草に火をつけた。冷えて乾燥した夜の空気に私が吐き出す白い煙が溶けて消える。室内からの温かい灯りが、すっかりと日が暮れて暗くなった空を眺める私を照らしていた。

友人の展示会に来るのは初めてではないのに、以前は抱くことのなかった感情が私の中に生まれている。丸の内で働いていた頃、自称建築家である男が肩を落としながら、この辺りはすごいなと感じる建物ばかりだから刺激を受けるために見に来たけど、改めて凄すぎて今ずっしりとくらっているよ、と話しかけてきたことがあった。当時の私は男の言葉を何の関心もなく聞き流していて、そもそもくらうって何?くらいの気持ちで、はあ、みたいな適当で軽い返事を続けていたのを覚えている。けれど私は今、あの男の気持ちを恐らく理解することができる。この展示会を開いている彼や彼女らを、ひどく羨望している。一度きりの人生好きなことしよう、なんて言葉は実際に行動した人間しか言えない言葉だが、それを頭では理解しつつも理由をつけて行動に移さない自分の愚かさが露呈していた。変わろうと夢を追いかけていく友人達の中で、私だけがこのままこの場所で何も変わらずに立ち尽くしていた。

ひどく長い時間を過ごしたように思えたが、煙草は一本しか吸っていなかった。室内に戻るとやはり人が溢れていて、壁にかかる文章を読みながら泣きそうだと呟く女を見て何故か私も泣きそうになる。ギャラリーの隅で珈琲を売る友人にグアテマラを注文し、周りと同じように展示された文章や絵画を見て室内をまわる。目に映るものはどれもが温かくてやわらかく、さらにこのギャラリー内にも同じ空気が流れていて、常にアングラみたいな感情で生きている私には作り出せない世界だと思った。自分がこの場にいること自体が場違いだと感じてしまう。しばらくすると部屋の照明が薄暗くなり、ギターを抱えて登場した男と共に弾き語りライブが始まった。友人から受け取ったグアテマラを飲みながら椅子に座って男の綺麗な歌声とギターの音色を聴き、同時に扉の外から聞こえる友人の笑い声にも耳を澄ます。晴れた日の校庭で、陽の光を浴びながらはしゃぐ友人達を、木陰に座って眺めている気分だった。無邪気に走り回る友人達を眺めて、いいな私も混ざりたいな、と思いながらも、じめじめとした木の下に体育座りをして草いじりをしている自分の姿が目に浮かぶ。友人達は、陽の光を浴びてキラキラと笑っている。走り回って疲れたのか立ち止まり、肩を上下に揺らして大袈裟に息を吐き出しながら笑う友人。その友人を振り返り、心配そうに駆け寄る者や、もう疲れたのかよと笑い出す者もいる。太陽の光も友人達も全てが眩しくて目が眩み、私は草いじりをやめて隣に大きく佇む木の幹を眺め始めた。力強く地面に根を張る幹を見て、生命力を感じる。剪定によって切られた枝の断面からは新たな芽が出始めていて、図太い木だなと思う。けれど生きるということは多分こういうことで、自分にしっかりとした芯があれば力強く根付くことも、たとえ枝を切られてもささやかに芽吹くことも、そうして完成した木の影によって私みたいな人間に休息の場を与えることもできるのだ。途端に惨めな気持ちに浸っていた自分が馬鹿らしくなり、前を見る。そこには太陽の光も、キラキラ輝く友人達の姿もなく、弾き語りをする男とその歌声に感嘆する人々が存在していた。グアテマラを飲み干すと、次で最後の曲ですと男が呟く。男が歌い始めた音楽は私の全然知らない音楽で、床の一点を見つめながら綺麗な音をマスク越しに飲み込んだ。

この空間の終わりはもう近いのに、人はまだまだはけそうにない。憧れの人に会えた感動、好きな文章を見つけた高揚、そういった展示会の充実感を目の当たりにした今日を、私はしっかりと目に焼き付ける。早く文章が書きたかった。今感じたこの気持ちを、私の全部を使って言葉に残したかった。光の下で生きれない私は、木陰で生きる覚悟を決めていた。二十五歳。同じ年に生まれた人達が作るこの展示会は、私に強い刺激を与えた。じゃあまたねとドアを抜けると、惨めな自分を遠くから笑って手を振った。




最近の出来事。嫉妬してしまうくらいに素敵な展示会だった。私も頑張るぞってポジな感情と私には出来ないかもってネガな感情が入り交じって、自分で自分が分からなくなって、でもきっと自分を分かって生きている人間なんて数少ないし、いろいろやって自分に合う道を見つければいいのかなって数日経った今思えてる。何よりも強い刺激と希望をくれた友人達にリスペクトです!年齢が近い分焦燥感も増すけど、やっぱり私も頑張りたい。みんなラブだよ🫶
私の友達すごいんだよ!っていろんな人に話しちゃうんだけど、私もみんなにそう言ってもらえるように頑張るぞうさん🐘

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