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トイレ、ココア、愛と音

「あんたが使ったあと、水がちょろちょろ出っぱなしなのよ。レバーは軽く押してね。」

ここ最近、何度もそう言われてたのだけど、また水がちょろちょろ出っぱなしになっていた 軽く押したのになぁ…と思いながら用を足したあと、水を流してから数分間便器と向かい合った 水が止まるか確かめなければ、水が止まるのを見届けなければ、と思った それにしても水は一向に止まってくれないので暇つぶしに踊った トイレでひとり踊った 来週の試験のこととか疎遠になった幼馴染みのこととかトイレの水が止まらないこととかどうでもよくなった

『キャッ』
そとから小動物の声がした もしや!ついに!と期待してトイレの小窓を開けてみると、近所のガキが歩いていた 真顔で閉めた わたしは動物を飼いたい 野生動物を保護する夢は何度も見てきたのに、野良猫を保護することにずっと憧れてきたのに、散歩中の犬を誘拐する妄想ばかりするのに、愛する準備はできているのに、なかなか思い通りにならない

ホットココアを飲もう、と思ってマグカップを机に置いた ホットココアを飲むだけで日々は愛おしくなると思っている なのに、牛乳がなかった 無調整の豆乳野郎しかなかった 昼時とはいえ、雨の日に部屋の電気をつけていないもんだから、うちもそとも薄暗くて、退屈してる家電も冷えたイスもさみしそうだった ホットコーヒーでいいや、と思ってお湯を沸かした そろそろティファールがカチッと言いそうだと思って取手をにぎってから、数分間、わたしはそのままジーっと待った 待ちつづけた 世界の何にも焦点を合わせず目の前を見つめた ココアだとかコーヒーだとか牛乳だとか豆乳だとか、本当どうでもいい ただ、これから薄暗い雨の日にはかならず部屋の明かりをつけようと思った 


文字の治安が良くない日 
自分の部屋にもどってこんな文章を書いていた今、ブーッと携帯が鳴って届いた恋人からの「夜ちょっと声聞かせて」と、何となく流していたnever young beachの「やさしいままで」が美しく共鳴して、涙がでそうになった なんでかな わかんないけど幸せってこれかな 言葉にできない 目に見えないんだけど、ホットココアより甘くてあったかくて愛おしいもの あなたのね、やわらかいとこを僕は知ってるよ〜 目を閉じたらいつも、そこにはあなたがやさしいままでいるんだ〜 私もやさしく生きていけるかな そうしたい

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