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蒼の彼方のフォーリズム 鳶沢みさき小説(更新終了)

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蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - 著者 渡辺僚一 原作 sprite 蒼の彼方のフォーリズム 鳶沢みさきシナリオをみさき視点で描いた小説で… もっと読む
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#あおかな

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #28

4 「にぃにゃあああぁあぁぁああっ!」  ももを高く上げ、後方に砂を撒き散らしながら走る。最初にやった時よりずっと力強く砂を蹴れているってわかるし、体も軽い気がする。体力がついてるってわかる。 「がんばれ! がんばれ! その調子で最後まで!」 「が、がんばってください。……がんばって、鳶沢さん」  今日は白瀬さんと部長と覆面選手が来ない代わりに、白瀬さんの妹のみなもちゃんが応援に来てくれている。 「んにゃーすっ!」  倒れこむように胸を前に出しながら、砂浜に引いた線を越える

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #27

「そういう現実離れした話じゃなくてもさ。例えば、大会の会場で石油が噴出して使用不能になるとか、そういうこと起こんないかな? 道を歩いてたらバイクが突進してきて足の骨が折れちゃうとかでもいいんだけどさ」 「ん〜? 怪我をしたいのか?」 「そうだね。……うん、怪我をしたい」 「真顔で言われてもな。怪我をしないように気をつけるって話なら、理解できるけど」 「自分に落ち度がない理由で怪我したい。あたしのせいじゃなく、大会に参加できなかったり、大会が中止になったりしないかって、思う」

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #26

3  今日、空を飛んでいるのはあたしだけ。みんなの都合が悪くて、晶也と二人っきりだ。だからって別に甘くなったりしない。というか、いつもより晶也の声が厳しい。 「もっと速く! グラシュの加速能力を限界まで搾り出せ! みさきならまだ出せる!」  今やっているのはスピードの限界を見極めるための練習。限界までスピードを出さなきゃいけないんだからつらいに決まってるんだけど……本当につらい! 「もっと出せるはずだ。行ける、行ける、行ける!」 「くにやぁぁあぁああぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁ

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #25

2  動画が終わり、モニターにリピートマークが浮かぶ。真藤さんは身じろぎもせずに動画を見つめていたあたし達に質問する。 「どうだった?」  あたしは覆面選手に目をやる。覆面をしてるからわからないけど多分、同じような顔であたしを見つめ返したと思う。 「覆面達の練習とこやつらの練習試合は同じ内容だ」 「なるほどね。覆面選手と鳶沢くんもここまでは達しているわけだ」  真藤さんは感心したように言った。  明日香と乾さんの試合内容は基本的に、上のポジションを取られたら即ショートカット

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #24

第三章・止められない心。走り出す。行きたい。1 下のポジションにいるあたしは、自分から覆面選手に接近して距離を潰す。覆面選手がそれを嫌って上昇。今度はあたしが下降。覆面選手は距離を縮めようと接近してくる。  その動きを何度か繰り返して、覆面選手との間合いを測る。  ──行ける!  覆面選手が下降したタイミングに合わせて、ぐん、と上昇する。 「くぅ!」  覆面選手が慌てて上昇するけど、遅い。こういう細かい動きはあたしの方が得意。横を抜けて、上のポジションを奪う。 「よし! 今

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #23

晶也の顔が近づいてくる。心臓は持つ? 肺も破裂しそうなんだけど……あれ? キスする時って、みんなどんな気持ち? 相手のこと好きだって気持ちでするよね? それなのに、あたしは自分の体の心配ばかり! なんか違うよね! ちょっと待って! やり直しを要求します!  ンッ!  ぴんっ、と電流が走り抜けた。晶也の唇があたしの唇に当たったのだ。  すぐに離れると思ったのに、晶也は唇を微かに左右に動かした。  こ、殺す気か!  晶也が唇を動かすたびに、ハンマーで後頭部を殴られているような気

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #22

「え? ええ!?」 「お、驚くな。あたし、晶也のことが好き。晶也は?」 「ちょっと待て! そういう話の流れじゃなかっただろ」 「細かいことを気にするな! 覚悟を決めたんだから、こっちの覚悟だって決めないとアンバランスになるじゃない!」 「あー、くそ!」  晶也は自分の額に手をやって、心の底から悔しそうに言った。なんだ、この反応。こんなことになるとは思ってなかった。 「くそ? 告白した女の子をくそ扱い? どういうつもり?」 「因縁をつけるな。そういうことは俺から言おうと思ってた

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #21

10  夕焼けが消えたばかりの道を晶也と並んで歩く。互いの顔が青っぽく見える夕方と夜の間の曖昧な時間。昼間の暑さも和らいでいて気持ちいい。歩いているだけで、疲れが空気に溶けて消えちゃいそうだ。こんな時間になってしまったのは、練習後にみんなで今後の予定や乾さん対策について話し合っていたからだ。  話をしているうちに、あたしの家についてしまう。晶也は歩調を緩めて、門の側で立ち止まる。あたしもそれに合わせる。  晶也がまだ話したそうにしてるから、促すようにあたしは正面に回ってあげ

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #20

8 「くっ!」  叫びながら前傾姿勢で突進してきた部長の頭を抑えようとして失敗する。目で部長の背中を追いながら必死に考える。えっと、えっと……こういう時のショートカットは……。うー、もう! とにかく急いでショートカットしないと! 体を捻って向きを変えて、次のラインに──あー、ダメだ! 部長が先まで行っちゃってる。ここは、次の次のラインに……。  ──あたしってこの程度の選手だったんだ。  強い焦燥に肺を突き上げられて、呼吸が乱れる。自分で考えて試合をしようとしたら、想像以上

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #19

7  砂浜を全力疾走してきた部長があたし達の側で立ち止まって、ボディビルダーみたいにポージングを決めた。相変わらず凄い筋肉だ。ちゃんと受験勉強してるのかな? 「だっははははは! ようやくこの日が来たか!」 「晶也が呼んだのって部長だったの?」 「そうだよ。よろしくお願いします部長」 「呼び出されるのをドキドキしながら待ってたぞ! 部を二つに割ったんだって?」  晶也は深く頭を下げた。 「スミマセン。部長の作った部なのに勝手な行動をしてしまって」 「あやまる必要は皆無! 乱な

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #18

5  帰宅する晶也を送るために外に出る。夕焼けが消えそうになっていた。  二人でFCのこと考えていたらこんな時間になっちゃったのだ。頭は疲れてるけど、今までに感じたことのない爽やかな疲労。  あたしの家系は先祖代々、四島。だから、家は古くて立派な門と塀まである。  門を出たとこで立ち止まった時、母屋から醤油の甘い香りが漂ってきた。おばあちゃんが煮物を作ってるんだと思う。年頃の乙女的には、ちょっともじもじしちゃうかな。 「あははは。この匂い恥ずかしいな。あたしは好きだけど」

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #17

 あたしはいつの間にか、しゃがみ込むような姿勢になっていた。手にしているシトーくんが床すれすれまで押し込まれている。 「スペースが狭くなってる。立場は逆だけど、あたしと市ノ瀬ちゃんの試合と一緒だ」 「あの時の市ノ瀬と一緒でもう横にしか移動できないな。あの時、みさきは結果としてこれをしたけど乾は計算してするんだよ。……で、これからどうする?」 「1点とられてるからショートカットはしたくない」  ショートカットした時点で、次のブイにタッチする権利を放棄するので、2対0だ。 「とり

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #16

「素に戻るな」 「じゃ、再び感情移入してと。……右にフェイントをかけてからリバーサルで上に!」  リバーサルとは上から来る相手の脇を抜けて、逆に自分が相手の上へと出る技だ。 「乾は腕を伸ばしてみさきの頭を押さえ込む。上が冷静ならリバーサルは難しいからな」 「……確かにリバーサルってそう簡単に成功する技じゃないけどさ」  そう簡単に否定されると、軽くイラッとする。 「タイミングをよむこと、意表をつくこと。この二つがそろわないと成功しない。乾が相手だと10回に1回も成功しないよ」

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #15

4 晶也は床に胡坐をかいて座る。前にも晶也が家に来たことあったけど……。そわそわする。男の子が自分の部屋にいるなんて異常事態だもん。部屋は適度に片付いてない状態だけど、晶也はそういうこと気にしないと思う。……というかそうであって欲しい。  部屋に入れる前に綺麗にしようかと思ったけど、晶也を意識しているみたいで恥ずかしいから止めておいた。 「シトーくんを二つ持ってきたんだけど、みさきも持ってたんだったな」 「晶也だと思って大事にしてた〜」  前にゲーセンで晶也に取ってもらった