マガジンのカバー画像

蒼の彼方のフォーリズム 鳶沢みさき小説(毎週火曜更新)

47
蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - 著者 渡辺僚一 原作 sprite 蒼の彼方のフォーリズム 鳶沢みさきシナリオをみさき視点で描いた小説で… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #48

11 あたしと明日香は休みなく動き続けている。蜂と蜂が戦ったらこんな風になるかもなって、頭の隅で考える。近づいて絡み合うように飛び続ける。針を刺す機会を探す。  あたしは肩を斜め下に落とすフェイント。明日香が引っかかって、下向きに移動しようとするのに合わせて上昇。  やった!  脇を抜けて、斜め上から背中にタッチしようとした瞬間、また明日香が消えた。これは見えた! 縦の動きのエアキックターンで上へと逃げたんだ。 「まだまだ!」  あたしはすぐに明日香を追う。  一瞬の加速だ

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #47

10 スタート位置のファーストブイで、明日香があたしを待っていた。 「やーやー明日香。元気にやってる?」 「はい! 元気にやってます!」  明日香は嬉しそうに微笑む。 「んじゃ〜。元気にやろうか?」 「ですね。よろしくお願いします!」 「こちらこそ」  あたしはスタート位置について静止する。真っすぐ前を向く。心臓が早鐘を打ってる。呼吸が乱れそうだったので、口を真一文字に結んで耐える。  緊張する。  気を抜いたら、飼い主に強烈に怒られた犬みたいにしっぽを股の間に入れて震えち

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #46

8 ──試合は19対0で終わった。  覆面選手が必死に泣くのをこらえている。 「うぐっ……うううっ……………」  ボイスチェンジャーは切れちゃってるけど、そのことを指摘する人はいない。  やりすぎたとは思うけど、手を抜きたくなかった。そんなことしたら、覆面選手を傷つけることになるんじゃないかって思ったのだ。  部長が、ぽんぽん、とみなもちゃんの肩を叩く。 「泣けるくらい悔しいってことは、まだまだ成長できるってことだぜ、みなもちゃん」 「みなもじゃないもん!」  うっかり口を

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #45

6 「うひ〜、なんとか勝ったー!」 「よくやった。偉かったぞ!」  晶也は部長が乗り移ったみたいに、力を込めていった。 「乾さん怖かった! 圧迫感が凄すぎた。同じ人間とは思えなかったよー」 「その相手に善処しますって答えるのも凄いけどな」 「あ、聞いてたの? 覆面選手との会話の癖がしみついてた」 「で、どうする? その時は真正面からやるか?」 「真正面から……うん。無理。その時が来たらまた一緒に作戦を考えよう」  真っ正面からぶつかる、というのはあたしのやり方じゃないと思う

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #44

5 「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」  何が起こっているのか理解してない人が見たら、疲れる要素がどこにあるのか? って考えるかもね。でも、凄い疲れるんですよ。だって、隙を作らないように集中しなきゃいけないし、乾さんがあたしの想像を超える動きをするかもしれない。ずーっと気を張ったままなのだ。  心も体も繊細なガラス細工になっちゃったような気がする。ふーっと息を吹きかけられただけでボロボロに壊れてしまいそう。あとどれだけこんな時間が続くんだろう? 「晶也、時間は!?」 「

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #43

4 乾さんがセカンドブイにタッチして1点を奪ったあとに、あたしはセカンドラインの中央辺りに到達する。  スピーダーらしく、猛スピードでラインに沿って真っすぐに飛んできた。 「みさき! 乾の頭を押さえろ!」 「わかってる!」  あたしは乾さんの頭を押さえる場所に入る。  乾さんは速い。だけど、あたしは乾さんよりも速い部長を相手に、スピーダーの頭を押さえる練習を続けてきたんだ。それに、白瀬さんには全国大会での乾さんの動画を見せてもらった。乾さんの飛び方は、その時と同じ。タイミン

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #42

3 開会式が終わり、白瀬さんのブースの側で作戦会議。  部長はぶんぶんと両手を振り回して叫ぶ。 「鳶沢ッ! リラックスしつつ気合を入れて、集中力を高めて全力で根性を見せろよ!」 「あたしにいろいろ望みすぎです!」  白瀬さんはぽんぽんとあたしの肩を叩く。 「はははは、いいじゃないか。そのくらいやってもいい相手だよ。まー、僕から言えるのは練習通りにやればいいってことだ」 「……そのつもりですけど。練習通りにやれば勝てますかね?」 「勝つも負けるも時の運って言うよね? 運で勝敗

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #41

2 「一回戦で乾とはな! 予想をはるかに超える幸運だ」  部長がぐぐっと胸の筋肉を盛り上げて叫んだ。横に立っている白瀬さんも嬉しそうにニコニコだ。 「そこで当たるのが希望だったからね。よかったじゃないか」 「覆面と当たる二回戦では地獄へ直行だから、今は幸運を味わっているがいい!」 「あ、はい。幸運に打ち震えます」 「勝っても負けてもいいから、観客にFCをアピールするド派手な試合を頼むよ。僕の出してる出店の売り上げに貢献して欲しいな」 「が、がんばります!」 「プロじゃないん

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #40

第四章・届く心。青い空とあたしの心臓。継続。1 空を仰いでフィールドを見上げる。 「……はー。いよいよかー」  秋の大会が終わるまでは、明日香や真白とは別行動ということになったので、あたしの隣にいるのは晶也だけ。覆面選手とはあとから合流する予定。  ──トーナメントだから、いきなり明日香や真白と当たる可能性があるんだよね。というか、もし勝ち進むことができれば、どこかで明日香と当たる可能性は高い。  教室では明日香と普通に話しているけど、試合当日はあまり会いたくない。きっと、

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #39

15 ──夏休みが終わって、始業式が来てしまった。  気が重い。夏休みの宿題が終わらなかったとか、そういうことではなくて……。FC部のみんなとどんな顔して会えばいいのかわからないのだ。部を二つに割ったのは晶也だけど、その切っ掛けを作ったのはあたし。休みたかったけど、休めば休むほど学校に行きづらくなってしまう。これで登校拒否になったら、FC以前の問題。  逃げようかな、と何度も思ったけど……結局、教室のドアを開けてしまう。  明日香はもう登校してるかな? いなければ即座に机に

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #37

「トーナメントってさ、一回戦が終わったら半分は敗者なんだよ。それって厳しすぎるというか、残酷じゃないかにゃ〜」 「同感だな」 「は〜〜〜〜〜〜〜っ。あたしはな〜んでFCをやってるのかにゃ〜」 「負けたくないからだろ」 「それだけじゃ言い足りないよ。もっと何かあると思うんだけど……」 「……それを知るためにFCをやっているのかもな」 「うぐ〜〜。正論っぽくもあり、詭弁っぽくもある言葉ですな」 「正論にするか詭弁にするかは、俺じゃなくてみさきの問題だろう?」  あたしのこと好きな

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #36

12 「お疲れ様。本当によくがんばったな」 「いつもの練習より汗かいちゃった。早く着替えたい」 「そうだな。ほら、中に入れよ」  晶也が部室のドアを開けて入るように促す。 「着替えるから、晶也も部室に来て」 「ん? なんか日本語が変じゃないか?」 「いいから晶也も部室に来て。いいから! ほら!」  あたしは晶也の腕を引っ張る。 「わかった。わかったから腕を引っ張るなって」  晶也を部室に入れて、あたしはセミみたいな音をたてるドアを閉める。体だけじゃなくて、心が熱い。まだ熱が

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #35

11 「行け!」  晶也が行けって言っているから行かないと。あたしは晶也を助けるって約束したんだ。まだ、飛べる。飛べるんだ。あたしの為だけじゃなくて、晶也のためにだって飛ぶ。体にまだ力は残ってるはずだ。 「ほら、がんばれ! まだまだできるだろ!」 「れきりゅ!」  らりるれろ、がうまく言えない。疲れるとこうなるんだ。知らなかったな。  行かないと、飛ばないと。もう体は動かないって何度も思ったけど、行け、って晶也に言われたら行けるんだから不思議。疲れの限界が見えない。もうダメ

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #34

10 久しぶりに来た廃バスの部室でフライングスーツに着替える。窓から差し込む月明りで見た感じだと、前と何も変わっていない。でも、今の自分の居場所じゃない、という気分があるから落ち着かない。泥棒に入った家で着替えをしたら、きっとこんな気分。  着替え終えて、外に出る。  晶也はブイの向こう側にある大きな月を見上げていた。  いつも練習している海岸だと人目について、警察とかに怒られるかもしれない。でも、久奈浜の練習場なら街から少し離れてるから見つかることはないだろう。  あたし