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蒼の彼方のフォーリズム 鳶沢みさき小説

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蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - 著者 渡辺僚一 原作 sprite 蒼の彼方のフォーリズム 鳶沢みさきシナリオをみさき視点で描いた小説で… もっと読む
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記事一覧

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #20

8 「くっ!」  叫びながら前傾姿勢で突進してきた部長の頭を抑えようとして失敗する。目で部長の背中を追いながら必死に考える。えっと、えっと……こういう時のショートカットは……。うー、もう! とにかく急いでショートカットしないと! 体を捻って向きを変えて、次のラインに──あー、ダメだ! 部長が先まで行っちゃってる。ここは、次の次のラインに……。  ──あたしってこの程度の選手だったんだ。  強い焦燥に肺を突き上げられて、呼吸が乱れる。自分で考えて試合をしようとしたら、想像以上

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #19

7  砂浜を全力疾走してきた部長があたし達の側で立ち止まって、ボディビルダーみたいにポージングを決めた。相変わらず凄い筋肉だ。ちゃんと受験勉強してるのかな? 「だっははははは! ようやくこの日が来たか!」 「晶也が呼んだのって部長だったの?」 「そうだよ。よろしくお願いします部長」 「呼び出されるのをドキドキしながら待ってたぞ! 部を二つに割ったんだって?」  晶也は深く頭を下げた。 「スミマセン。部長の作った部なのに勝手な行動をしてしまって」 「あやまる必要は皆無! 乱な

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #18

5  帰宅する晶也を送るために外に出る。夕焼けが消えそうになっていた。  二人でFCのこと考えていたらこんな時間になっちゃったのだ。頭は疲れてるけど、今までに感じたことのない爽やかな疲労。  あたしの家系は先祖代々、四島。だから、家は古くて立派な門と塀まである。  門を出たとこで立ち止まった時、母屋から醤油の甘い香りが漂ってきた。おばあちゃんが煮物を作ってるんだと思う。年頃の乙女的には、ちょっともじもじしちゃうかな。 「あははは。この匂い恥ずかしいな。あたしは好きだけど」

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #17

 あたしはいつの間にか、しゃがみ込むような姿勢になっていた。手にしているシトーくんが床すれすれまで押し込まれている。 「スペースが狭くなってる。立場は逆だけど、あたしと市ノ瀬ちゃんの試合と一緒だ」 「あの時の市ノ瀬と一緒でもう横にしか移動できないな。あの時、みさきは結果としてこれをしたけど乾は計算してするんだよ。……で、これからどうする?」 「1点とられてるからショートカットはしたくない」  ショートカットした時点で、次のブイにタッチする権利を放棄するので、2対0だ。 「とり

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #16

「素に戻るな」 「じゃ、再び感情移入してと。……右にフェイントをかけてからリバーサルで上に!」  リバーサルとは上から来る相手の脇を抜けて、逆に自分が相手の上へと出る技だ。 「乾は腕を伸ばしてみさきの頭を押さえ込む。上が冷静ならリバーサルは難しいからな」 「……確かにリバーサルってそう簡単に成功する技じゃないけどさ」  そう簡単に否定されると、軽くイラッとする。 「タイミングをよむこと、意表をつくこと。この二つがそろわないと成功しない。乾が相手だと10回に1回も成功しないよ」

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #15

4 晶也は床に胡坐をかいて座る。前にも晶也が家に来たことあったけど……。そわそわする。男の子が自分の部屋にいるなんて異常事態だもん。部屋は適度に片付いてない状態だけど、晶也はそういうこと気にしないと思う。……というかそうであって欲しい。  部屋に入れる前に綺麗にしようかと思ったけど、晶也を意識しているみたいで恥ずかしいから止めておいた。 「シトーくんを二つ持ってきたんだけど、みさきも持ってたんだったな」 「晶也だと思って大事にしてた〜」  前にゲーセンで晶也に取ってもらった

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #14

3 「ラストだ! 最後まで力を抜くな! 腕を振れ! もっと強く!」 「でりゃあああああぁぁぁぁあぁぁぁっ!」  叫びながらラストの1本を走る。声を出して必死にならないともう走れない。厳しすぎる! 全身が無理だって言っているのに、膝を高く上げて走るとか限りなく拷問に近い。  あたしは仰向けに倒れて、肩と胸とお腹の力を使って呼吸をする。 「ひうっ、はあっはあっ! んっ! 死ねる。マジで死ねます。これから死にます!」 「よくがんばったぞ。手首を貸して。脈拍を測るから」  あたしは

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #13

第二章・あたしがいるということ。心が望むこと。努力。1 指定された海岸に時間通りに到着。先に来ていた晶也はあたしを見るなり言う。 「砂浜ダッシュから始めるからな」 「うへ〜〜〜」  この男は昨日の甘い余韻に浸らずに、練習に入るつもりだ。望むところだけどさ〜、落とし落とされの仲なんだから、もっと優しい言葉から入ってもいいと思う。  明日香や真白とは一緒に練習せずに、部を二つに割ってあたしと二人っきりで練習することにするそうだ。明日香や真白には申し訳ないけど、そっちの方がいい。

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #12

「それって明日香のいる場所にってこと?」 「違う。今のその滅茶苦茶な感情から目をそらさなくても歩ける場所だ」  とくん、と時間をかけてゆっくりと心臓が鳴った気がした。 「目をそらさなくても……」  あたしは目をそらしてた。見ないように努力していた。 「みさきが歩いてくれないと俺も歩けないんだ。だから、そこまで絶対に届ける」  ずんっ、と太い一本の線が縦に体を貫いた気がした。自分が今、立っているんだってことを変に実感する。 「絶対に届けるから。だから、俺のために飛んでくれ」  

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #11

「俺はみさきを見て挫折して、みさきは明日香を見て挫折したんだな」  ……その言い方、気に食わないし、認めたくない。だけど、心が滅茶苦茶すぎて、抵抗する余裕がない。でも、そうだ。あたし……明日香を見て、FCをやめたくなったんだ。明日香が凄すぎて、あたしは明日香みたいになれないってわかって……。だから!  心が走り出す。なんで、こんな時に明日香のこと考えてるの?  あたしの方が強かったのに! あたしが明日香にFCを教えたのに! それなのに、明日香に負けるなんて──そんな現実、見た

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #10

──も、もしかして、告白? いや、このタイミングでそれはないか。……でも、そうじゃないなら、どうしてこんな真剣に見つめてくるんだろう?  晶也から視線を外す。これ以上、見つめ合っていたら、自分でも制御できないような、変で凄い気持ちが噴火して、わけのわからない行動をしてしまいそうで恐かったのだ。  顔を伏せても晶也の視線を感じる。だって、肌に突き刺さってくるもん。この男は視線であたしに穴を開けるつもりか? あたしは変な形に固まってしまいそうな顔に力を入れて無理矢理に微笑む。 「

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #9

5  あたしは西日を遮っていたカーテンを開けて、窓を大きく開く。海風が髪を大きく揺らした。外はオレンジ色の鮮やかな夕焼け。 「もう夕方になってたんだね」  いつもより饒舌に、口が動くままにどうでもいいこと話しているうちに、こんな時間になってしまった。冷静になるとちょっと恥ずかしい。これじゃ、晶也に久しぶりにかまってもらったから喜んでるみたいだ。あたしは晶也の犬じゃないんだからさ、もう。  クラスメイト達は、帰宅するか部活に行くかしてしまったので教室に二人だけ。グラウンドの方

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #8

4  夏休みの前半さえ終わっていないというのに、制服を着て学園に来ている。久奈浜学院には登校日があるのだ。かなり前に、非行、暴走、犯罪といった暗黒ワードがずらりと並ぶ事件を起こした生徒がいたらしい。それからというもの、一夏の過ちを防ぐ意味も込めて作られたのだ。  とはいっても、強制度は低めで、事情があれば登校しなくてもOK。FC部のみんなと顔を合わせたくなかったので、適当に事情を作ろうかと考えていたけど、ちょうど高藤への合宿の日程と重なっているのに気づいて登校することにした

蒼の彼方のフォーリズム - Fly me to your sky - #7

「明日香がこの試合をコントロールしてるわけ? でも0対5。何もコントロールできてないんじゃないの?」 「得点差と試合のコントロールは、今の明日香にとっては別の問題なんだろう」 「別の問題だったら意味なくない? FCは点を取り合うスポーツなんだから」 「だから今の明日香には、って言っただろう」  フィールドでは佐藤院さんの前を飛んでいた明日香が、背中をタッチした。  ポイントフィールドが広がり、1対5。 「明日香が1点取ったな」 「まだ1対5……1対、5」  言ってから3分後に