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運動器リハ 1.0の教科書✏︎第1章【運動器障害とは】

第1章では「運動器障害とリハビリテーションの大きな考え方」についてまとめています。

 運動器リハビリテーションの考え方としては損傷組織の治癒過程に基づいた必要最小限の不動期間の設定および可及的早期の運動を実践することが基本であるといえます。この考えのもとで適切なリハビリテーションが提供できれば,損傷組織の治癒は妨げず,拘縮や筋萎縮などの二次的合併症を可能な範囲で予防することができます。


運動器障害とリハビリテーションの考え方

 運動器を構成する組織には,骨,軟骨(硝子軟骨,線維軟骨),関節包,靱帯,腱,筋,神経があり,神経以外の組織は主にコラーゲンとプロテオグリカンなどの軟骨基質から構成される。

 運動器組織に強大な外力が加わることによって骨折,軟骨損傷,関節脱臼,靭帯損傷,腱断裂,肉離れ(筋筋膜間裂離損傷)などの外傷が発生する。一方,物理的な負荷が特定の組織に加わり続けることによって,組織内にコラーゲン線維の断裂や延長などの微細損傷が生じる。
 
 これらの損傷が生じると白血球から炎症性のサイトカインが放出され,これに呼応して組織内に血管が新生し,神経が侵入してくる。また,サイトカインの作用によって血管透過性が高まり,損傷組織内に血漿成分が漏出し腫脹する。

 これらの一連の変化は"炎症"と呼ばれ,熱感,腫脹,疼痛が生じる。さらに炎症部位には組織を修復するために線維芽細胞が集簇し,損傷した組織を修復するためにコラーゲン線維を産生する。新生されたコラーゲン線維は当初は無秩序に配列するが,組織に生理的な応力が加わり続けることによってその応力に沿わない線維は吸収され,最終的には最適な配列となり修復は完了する。この損傷組織の修復過程においては障害発生の原因となった物理的負荷を減少させることが求められるため,運動制限や安静が必要となる。

金岡恒治:スポーツ傷害 予防と治療のための体幹モーターコントロールより引用


 もし,安静や運動制限が行われず組織への負荷が加わり続けた場合,組織の微細損傷が生じ続け,炎症反応は収まらず,線維芽細胞がコラーゲン線維を無秩序に産生し続けることによって,疼痛や腫脹は継続し過剰に産生されたコラーゲン線維によって肉芽や瘢痕が形成され,新生した神経組織が侵入することによって有痛性肉芽となる。また,血流が豊富な部位では骨芽細胞が組織の石灰化を起こし,靭帯や筋腱の付着部に骨増殖反応を引き起こし骨棘形成などの変形性変化を生じさせる。

 一方,骨に過剰な負荷が加わり続けることによって骨代謝は局所的に阻害され骨吸収が生じ,最終的に疲労骨折へと進行する。また,軟骨に過剰な負荷が加わり続けることによって軟骨細胞による軟骨代謝が阻害され,プロテオグリカン産生が阻害され,関節の硝子軟骨量は減少し,半月板や関節唇などの線維軟骨は変性し易損性となり,椎間板内の髄核量や水分含有量は減少し椎間板変性へと至り,様々な障害へと進行していくことになる。

金岡恒治:スポーツ傷害 予防と治療のための体幹モーターコントロールより引用


 つまり,運動器リハビリテーションの考え方としては損傷組織の治癒過程に基づいた必要最小限の不動期間の設定および可及的早期の運動を実践することが基本であるといえる。この考えのもとで適切なリハビリテーションが提供できれば,損傷組織の治癒は妨げることなく,関節拘縮や筋萎縮などの二次的合併症を可能な範囲で予防することができ,早期の社会復帰やスポーツ復帰が実現できる。

金岡恒治:スポーツ傷害 予防と治療のための体幹モーターコントロールより一部改変


参考文献

・金岡恒治:スポーツ傷害 予防と治療のための体幹モーターコントロール.中外
医学社,2019.



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