見出し画像

忘れられない景色

一年と少し前、長年かけて溜めてきてしまったものが抱えきれなくなって、体に心が追いつかなくなってしまった時期、東京の友人の家に1週間ほど転がり込んだ。

その初日、ふと夕日が見たくなって東京から湘南に向かった。他の日に後回しにして天気が良い日を逃すなんてことをしたくなかったのだ。

目的地は鵠沼海岸。時刻は午後3時過ぎ。その日は晴れで、昼寝するのに最適な暖かさ。小田急に揺られながら本を読んでいた。

寝落ちする所だった、危ない危ないと目線を外へと上げた時、ちょうど電車が真っ白な集合住宅に差し掛かった。

傾いたオレンジの、朝の時間のそれとは違う輪郭を失った柔らかな光が真っ白な家に差し込む。

その景色が美しくて、美しくて。向かいに座るサラリーマンはうたた寝をし、おばさまは本を読み、立っている高校生達は話に花を咲かせ、隣に座ってるおばちゃまは私にもたれかかって眠っている。

誰もこの景色の美しさに気付いてない。こんなにも綺麗なのに。こんなにも暖かい光景を、ここにいる私だけが眺めている。

みんな同じ場所にいるのに、どこか遠い違う場所にいるような気がして、それでも、この暖かい光景の中に等しく包まれている不思議な感覚に陥る。

電車の中で写真を撮るのは気が引けたから、写真は一枚も残っていないけれど、旅を続けて沢山の美しいものに出会った今でも、今まで見た景色の中で1番鮮明に、色濃く脳裏に焼き付いている。

多分一生忘れない、私の頭の中にしかない大事な記憶。






この記事が参加している募集

休日のすごし方

眠れない夜に

いつも、応援ありがとうございます!いただいたサポートは10月までのデンマーク旅に使わせていただき、そこで感じた物を言葉や写真、アートを通してお返しできたらなと思っています。