BUTTER

『女で生きていく』ということ。
人はみな、心のどこかで救われる場所を求めていること。
本当の意味で誰かを救えたとき、それはきっと無意識であること。

【BUTTER】という小説を読んで、これらについて考えた。

誰よりも「女」であることを意識し、「女」である自分を最大限利用して生きる容疑者 梶井真奈子。そして、「女」であることを意識し、「女」である自分を最大限利用しないように生きる町田里佳。

きっと私は町田里佳に似ている。女は弱くて、料理が上手で、男性を引き立てることが仕事という現代では煙たがられる固定観念を真っ直ぐに信じで自分自身の生き様でそれを証明しようとする梶井に本の中で何度も苛立ちが募った。

そう、私はこの本を読みながら終始怒っていた。それは、登場人物や社会に対してではなく。自分自身にだ。女であることを武器にするのが嫌い、といいながらそれを武器にしてしまっている瞬間もあるかもしれない。そういう自分自身の矛盾に痛いほど向き合わされた。結局どうすることが自分にとっての適量で、自分が心地よくいられる自分なのかまだ私にもわからない。それを悶々と考え続ける本だった。

結婚もせず、恋愛に重きをおかず、仕事や自分自身に必死になることはいけないことなのだろうか。23才になって「結婚」「出産」という言葉を周囲の人に投げかけられることも増えた。その度に私が感じていた違和感の正体が、その正体のヒントが、この本の中には眠っている気がした。
結婚がゴールではない、結婚＝幸せとは限らない。という前提は分かっているのに「結婚はしたほうがいい」「子供を産むなら早いほうがいい」と周りが言ってくる理由はなんなのだろうか。私の人生だ。私のタイミングで、私が私らしくそれを決断できるタイミングで、自由に選ばせてほしいと思う。
登場人物がそうであったように、様々な出来事を経験して少しずつ自分の適量を知っていきたい。

昔と比較すると、現代は性別による差別なく様々な選択肢が得られると思っていた。しかし、この本を読んだり、自分の生活で起きた出来事を考えたりすると、私が抱いていたそうした希望も自分の願望が入り混じった幻想なのだろうかと悲しくなる。

けれど結局のところ、全ての物事の根本は「自分の正しさを人に押し付けてはならない」ということに尽きるのではないだろうか。誰かには誰かの正義があって、それはその人にとっての正しさである。今回の本でも登場人物には、それぞれが持つそれぞれの正しさがあった。私が見ているあの人も、あの人の一部でしかないし、私があの人に見せている私も私の一部でしかない。すべてをわかり合う、だなんて無理だと少し前から悟っている。しかし、分かろうとすることは大事で、だからこそ自分の考えを押し付けてはいけない。押し付けた時点でわかり合うことは不可能になってしまうから。

そしてきっと皆、時々自分の思う正しさに不安を覚える。自分自身の正しさに自信をなくすからこそ相手と自分を比べ、妬み、攻撃的な思考になり、自分も相手も傷つけてしまう。
そんな時に、人は誰かに救いとなる場所を求めるのだと思う。
自分が誰かに救われる時、救ってくれた本人は無意識であることが多い気がする。何気なく言ってくれた言葉がずっと自分のお守りになるように。そこに「この人を救ってやろう」というエゴはひとつもなく、その人の本当の気持ちが存在するから。きっと私は救われるのだと思う。
だから、私も誰かを救いたいと思ったら無意識を大事に、自然体で相手と向き合いたい。そういう何気なさで誰かを救えるような、そんな人になりたい。

女で生きていくということ。それを軸にこの物語は進むけれど「女だから」とか「男だから」とかそんなのは関係なくて。性別で分ける前に、まずは一人の人間として。この先どう生きていくべきなのか。何度も、何度も、誰かと関わりながら自分を生きていく。そのなめらかな舌触りが何度も再生されるようにバターのように。そうやって生きていくための道標のようなものをこの本はそっと教えてくれた。