見出し画像

春に、忘れ物

「あなたは誰なんだろう」
記憶の外に追いやられたあなたのピースを夢に描く
もうずっと知らなくて分からない "誰か" を描き止まないの


窓の先から揺れる木漏れ日と春の風
あなたの奏でる鍵盤と相性がいいみたい
ふせたまつげ、それから少し上がった唇のはしに
私まで揺られるの

器用に動く指先 スキップするメロディーに
林檎の色に染められた鼓動
隠すことはできなくなるの


桜を揺らす風と、音に揺られる私
桜風みたいにはなれないけど
気まぐれに揺られていたいの
あなたの声が、あなたの音が
ひどく狡(ずる)くて惹かれてる



日常だったものが消えて消えて消えるの

水飛沫と桜花を空一面にまいた色に戸惑った
ピアノの 音に揺れた日はいつのことだろう
誰かの声に揺れた日はいつのことだろう
行方など知らないまま、ひどく誰かの影が浮かぶ
ひどく誰かを想ふ



懐かしの春にいたあなたは記憶の外にある
確かに 存在(い)たあなたを描ききれないの

姿形ひとつ、
通学路によく見かける他人よりぼやける
わけもわからず空を切る 
靄(もや)は晴れないまま

描ききれないのに、ひどく苦しい
記憶のあなたに触れたい


桜を揺らす風と、音に揺られる私
桜風みたいにはなれないけど
気まぐれに揺られていたいの

あなたの声が、あなたの音が
ひどく狡(ずる)くて惹かれてる
何度も揺られて涙に変わった