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全部なくなっても、私にはわたしがいるからね。|Tシャツとビーサンで過ごした23歳の夏

もう本当に、何もできなかった。

今までの自分が嘘みたいに、何も考えられないし、
したくないし、あーなんか、このまま全部終わらないかなーとか思った。


昨年の夏、突然の不当解雇で仕事を失った私は
抜け殻になっていた。


顔を洗おうと鏡の前に立ち、はじめて自分が泣いていることに気がつく。ご飯も、お気に入りのおやつも食べられない。ふとしたきっかけで、あの日の会議室がフラッシュバックする。

こんなんじゃ、人と会えないし電車にも乗れない。


今まで私の中にいた「わたし」がどこかへ行ってしまって、捕まえようとすればするほど、水蒸気みたいに掴めないまま消えてしまうのだ。そうして気がつけば、私は抜け殻になっていったのだと思う。



「何が」とかじゃなくて、全部がダメになっていた。




少し経って、ちょっとずつ好きなことだけしてみることにした。


最初は推しのコンテンツを見たり、犬と散歩をしたり。
家族の車に乗せられて、ただ大好きな海を見るためだけのドライブをしたり。

すっかり真夏になった日差しは、久しく太陽を浴びていなかった私には少しきつかった。ジリジリと太陽を感じながら「私がうずくまっている間にも時間は動いていたんだなぁ……」なんて当たり前のことをぼんやり考えた。


穏やかに、波風立てずに。



嫌なことは考えないように、お気に入りを掻き集める。
そうして過ごしていると不思議なことに、心に飼っているギャルがこんにちはしてきた。

「どうせなら、もっと何でもやっちゃえば良くね!?」

うーん、確かにね。いま私、何もないんだったわ。
何しても、誰にも怒られないんだったわ。

ちょっと面白そうじゃんか。




まず、髪を染めた。久しぶりのハイトーン。「夏やしね〜〜!」とか言って、明るめのピンク。仲良しの美容師さんが「無敵ピンクじゃ〜〜ん!マジ最強卍卍」って一緒に喜んでくれて、なんだか気持ちまで明るくなれそうで嬉しくなった。





それから数日後、鎌倉へ向かった。

ずっと大好きで、定期的に訪れるたいせつな場所。
仕事をしていて今までできなかった分、好きなだけ滞在することにしてみた。

家族には「気が向いたら帰るわ」とだけ伝え、1ヶ月近くいたかな。ハローワークに行かないといけなかったからしぶしぶ帰阪したけど、それが無かったらもっといれた。





鎌倉でのゆるい夏は、私の心をさらに穏やかにしてくれた。なんにも決めずに、Tシャツとビーサンだけでのらりくらりと過ごす時間は、1人で過ごすことも多かったけど、なんて言うのだろう、

「ひとりぼっち」とか「孤独」みたいな感覚とはまた別で。

「私の中のわたし」と一緒に過ごしているような感覚だった。

夕日が綺麗そうな時間を狙って海まで歩く時間。
いつもレモネードを頼みがちなお気に入りの喫茶店。
大好きな景色に夢中でシャッターを切る瞬間。




いつの間にか、手ぶらで何もない私の夏は
その瞬間に感じたこと、してみたいこと、見てみたいものをいつもより大事にしてみる期間になっていった。

わたしのことを、私が大事にしてあげるってこういうことなのかも……って思った。





心の声に耳を傾けるようになって気づいたことがある。
大事にしたいものって、思ったよりたくさんある。

好きな時間、人、もの、景色、感情、あげればきりがないほど。

そして幸福度は、そんな "わたしのお気に入り" をどれだけ私が見つけてあげられるかで上がっていくものなのじゃないかな。

だからみんな、他人と比べる必要はないっていうんだね。



「自分と他人を比較して落ち込むのはやめましょう」
よく言われるけど、ずっとそれができなかった。


けど、私とわたしの2人きりでシンプルに過ごした夏を経てやっと腑に落ちた感覚があった。


私が、わたしのお気に入りをちゃんとわかってあげているならそれだけで大丈夫。



もし見つからないなら、
その時はまた一緒に探しに行こう。

だからこれからも忘れないで、
いつだって、私にはわたしがいるからね。


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