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№5 僕たちの平和

真っ逆さまに赤い火の玉が落ちた
命が転がり続けている
拾われもせずに

昨日聞いたことが
今日聞いたこととは違う
ほどきようが無いほどに
幾重にも 歴史と理屈がもつれていく
人が同質なことよりも
異質なことを強調し始めるとき
聞き覚えのない物語が語られるとき
言葉を重ねても ただ異なる言葉だけが
平行線上に 降り積もっていくだけのとき
僕たちは絶望を理由に 戦い始めるのだろうか

我慢を教え込むなという人がいる
でも見渡してごらん
確かに我慢を強いられる者ばかりが割をくっている
だけど我慢を知らない人間はまるで獣ではないか

言葉が無力になることを知っても、
それでもまだ言葉を繋いでいるのは ただの悪あがきかもしれない
僕たちが何気なく夢とともに見つめてきた
海の向こうには 思い描いてきた希望も憧れも
もう何もないのかもしれない

こんなときだからこそ みんなで
祈りを捧げよと 誰かがいうけれど
僕はどうにもそんな気分にはなれないんだ

こんなときだからこそ
僕は みんな、ばらばらなことに
一生懸命になっていればいいって思うんだ

歌唄いは愛を語り、嘆き、賛美していればいい
鳥遣いは、森の中で小鳥たちのさえずりに耳を澄ましていればいい
働き者は、汗をかいて たくさん 働けばいい
もし空が好きなら、いつまでも空を眺めてただ佇んでいればいい

政治家の声に従って
何やら正しそうな正義漢に従って
何やら救ってくれそうな宗教家に従って
右向け右 左向け左
それが僕が1番恐れていることさ

今日もどこかで命が転がり続けている
そんなことは重々承知しているんだ
だけど平和しか知らない僕には
祈り方すら分からないんだ
それだったら なにもいわずに
今日稼いだのなけなしの金を
募金でもするほうが ずっと
いいことに思えるんだ

ねぇ 人は生まれながらにして皆平等
人の基本的な権利は保障されるって
僕たちは信じてる
だけどその全てが、人が頭の中で生み出したフィクションなんだよ
僕たちの社会は、そんなフィクションを少しでも
現実に近づけていこうと、互いに約束しあったから 言葉が意味を持つだけなんだ

僕は言葉の力を信じられる国で生を受けた
もし歌唄いが、今日もまったく世界と関係のない
自己愛を歌い続けているというのなら
僕は たとえ罵られようとも その平和に感謝するしかないんだ

僕が享受するこの平和だって
たくさんの火の玉が落ちて、
若者たちがその身を火の矢にして、
晴れ渡る青空に、2度も、
髑髏のような大きなキノコ雲が立ち昇って、
夥しい数の罪のない命が転がって、
そして そして
ようやく存在しているんだ
僕はそれを忘れたことは一度だってないよ

僕は祈り方を知らないけれど
いま起きていることから
目をそらすことはしないよ

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