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55. 走馬灯の100万分の1秒

統一教会についてどこかの誰かが書いた記事OSO18についての記事を読み、大阪王将社員の告発を遡った。「高い壺を売りつける」は陳腐な冗談みたいな真実で、恐ろしく賢い巨大羆は今年の夏も捕まっておらず、どこかの餃子屋はナメクジまみれらしかった。悲しい。どうして熊害(ユウガイ、である。クマガイではない)についての記事はこんなに好奇心をそそるのだろう。三毛別も恐ろしいが、ワンダーフォーゲル部の件がかなり印象深い。野次馬の好奇心が一番おぞましい。
 永井荷風の『濹東綺譚』を退屈しきって読みきり、『僕は君たちに武器を配りたい』にカバーを付け替えた。これもなかなかつまらなそう。楽しみである。面白ければ出勤前の楽しみができるし、つまらなければ睡眠導入剤になってくれる。電車でスヤスヤ眠る。本、ご覧、これが満員電車と疲れた社畜だよ。
 電車、学校・職場、試験場(これは格別。寝心地が段違い)、寒い倉庫、暑い車内。家のベッド以外であれば、概ねどこでもよく寝ていた。授業中はもちろん、毎月の重要な模擬試験、大事な採用面接の説明を聞いている間にも最前列で眠った。手にペンを突き刺し、教授に鼻で笑われ、崩れた字を消しゴムで消しては書き直すという夢を繰り返し見ながら、眠り続けた。刃がついていたり、回転する系の機械には怖くて近づけない。五体満足をあと何年保てるかも怪しい。MRIでも受けた方がいいのかもしれない。
 遊んだ日の夜、ことに出勤前の夜は本当に最悪である。いつの間にか全く寝付けなくなってしまった。勤労への怒りでギンギンである。「真っ黒焦げ痛みで目が冴える」と米津玄師も歌っていたでしょう。そういうことです。
 寝付けない日にだけ飲む睡眠薬を倍量にしてもダメである。たったの4mgでこの怒りが鎮まると思うな。仕方がないので泊まりに来ている友人に小声で話しかける。フゴフゴ。そうねえ。グオー。でもそれは仕方がないよねえ。寝言を言っている人に返事をすると「帰ってこれなくなる」かはともかく、脳にダメージを受けることがあるらしい。くらえ、不眠の僻み。まつ毛を触ると確実に起きるとか、酔って寝ている人の手をお湯に浸すと高確率で漏らすとか、諸説ある。つい全てを試してみたい気持ちが沸き起こってくる。友情を失う前に安眠したい。
 大人しく一日を振り返る。デカくて近い太陽、暴力的な青空、突飛でとことん無駄な有名建築、何語か分からないのをまくし立てている家族連れ、胡散臭いひまわりの花、魚より人間の方が確実に多い水族館、アクリル水槽のひずみ、容赦ない陽光で干からびかけているペンギン、徐々に元気が無くなっていく友人、少しだけ我々に元気をくれる水槽の底の大きくて凶悪なウニ。これ走馬灯の何万分の1秒を占めるんだろうか。
 内気な犬だけを数十匹ドッグランに集結させたらどの犬も動かず、牧場のような様子になったという話をしたら、友人はゲラゲラ笑った。笑える側で良かったな。私は身につまされるものがありますよ。意外と食べるし意外と喋る、と皆さん言ってくれるけど、それは私があなた方のことかなり好きだからです。また出かけましょう。くだらない記事にされることについては諦めて。幡野さんをならって締める。「また書きます」。

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