無人島

すべてフィクションです。好きな文章からの引用多め。

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鮮明な午後

亡霊に囚われているような。 浮いているのに溺れているような。 いつのまにか冬が過ぎていった。 夏は嫌いと言い切ってしまえるけれど、 春はかなり微妙なところだ。 正体をなくした季節が名前を思い出すみたいに、呑気に風の中に溶けてただやり過ごしているだけの時間な気がする。 いくつかの真理。ある種の狡猾さ。それらを引っ提げて、私は随分と心のありかたそのもののかたちを変えてここに立っているように思う。 真理もなにも、この世には本当の事も間違いでない道理もなくて、すべては角度の違いや

    • 鯨の葬式

      遊惰。 すべてが白々しくなってしまうことに薄々気付いていながら、祈るみたいに終電を逃していた。 追伸。 写真が嫌いだった。 花火を見ようが祭りの最中にビールを飲もうが最果てに取り残されたような気分のままだった。 ぐるぐると同じところを回っていた。 それがいつまで続くのかも分からず雑然とした気分でホームに立ち尽くしていたことが結構ある。笑ってしまうくらいそんなことの繰り返しの夏だった。ひょっとしたら本当に笑っちゃってたかもしれない。 アルコールを嚥下しては、 気持ちいいと

      • フィクションの星

        月の底に打ち捨てられた宇宙船を修理している。 いくつか光の輪の中に浮かぶ遊覧船を見付けては見送っている。 その要領で、生きにくさとずっと向き合い続けている。 表層を撫でるようなうわべだけの付き合いがどうも肌に合わねぇな、と思っていた。 あまりに人間を愛しすぎている。 見たもの、触れたもの、感じたことをすべて聞かせて欲しかった。 日常を取り込んでは、透き通ったうつわが光を反射するのを眺めていたら、全てが白に塗り変わっていた。思うよりずっと、人の心というものは茫洋としているみ

        • 夏。

          あまり「これが嫌い」ということで 自分を語りたくはないけれど、夏が嫌い。 苦手。超苦手。 夏特有の、なにか思い出を作ることを強要されているような空気感。 充実して他人と過ごさなくてはならないような長い休み。楽しまなくては損だよと言わんばかりの天気の良さ。 気温の高さ。ぴかぴかの太陽。 それを反射するコンクリート。海。海。祭り。 花火。浴衣。他者との触れ合い。 バーベキュー。川遊び。キャンプ。 キラキラした毎日。一生に一度しか来ない、 〇歳の夏ーーー。精いっぱい楽しんで、 沢

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