見出し画像

電子決済大国で思うこと#3 まもなく登場!?デジタル人民元(後編)


先日投稿した「まもなく登場!?デジタル人民元(前編)」で、私が中国で調べたデジタル人民元の概要についてご紹介しました。今回は、調べた上で現時点の課題だと思われるところや、よく言われる「デジタル人民元にAlipayが喰われるか!?」等の疑問について、私の思うところを話したいと思います。

前編はこちら


4.デジタル人民元の課題とは?

現時点で、デジタル人民元については、以下2つの課題が指摘されており、中国人民銀行が対応策を検討しているものと思われます。

(1)資本の自由化が困難
(2)国外での利用方法が不透明

(1)資本の自由化が困難
中国は国際金融市場で、「為替の安定」「金融政策の独立性」を確保するため、「自由な資本移動」を制限し、資本規制を敷いています。国際間の送金が極めて困難であったり、現地法人の自由な増資ができなかったりするのはこのためです。
「国際金融のトリレンマ」の問題において、資本移動を制限する数少ない国の一つが中国です。
一方、今後デジタル人民元の国際化を推進していくためには、海外での資本移動の自由化は避けて通れない問題となることが予想されます。今後中国がどのような形で人民元の資本移動の制限を緩和していくのか、注目しています。

(2)国外での利用方法が不透明
2020年12月に、中国人民銀行が香港でデジタル人民元の実証実験の準備をしている旨が報道されました。導入に先駆け、複数の国での実証実験を行うものと思われます。
現在、世界中ほとんどの国において、通貨は紙幣・硬貨の形で流通しており、街中で外貨両替店を見つけて自国通貨との両替が可能でしたが、デジタル人民元の場合はどのように入手できるのか、現在のところ発表はありません。
少し話はそれますが、わたしは現在中国国内に口座を保有し、Alipay、WechatPayいずれも利用しますが、両決済システムに紐づいた身分証が日本国パスポートのため、中国国外で中国国外口座に対しての決済はできません。具体的に言うと、中国の銀行口座から直接お金が移動するAliPay、WechatPayを使って日本のビックカメラで買い物はできない、ということです。一方で、友人の中国口座に収斂する資金送金はできました。決済システムに登録する身分証が中国のものである訪日中国人の場合は、ビックカメラ他、世界中の加盟店でAlipay、WechatPayを利用して決済が可能となっています。
中国国内で収入を得ない、例えば一般の観光客の場合は、基本的に中国国外で人民元を購入し準備して中国に入国、残った人民元は帰国後に空港で両替する人が多いのではないでしょうか。北京オリンピック時には多く発生すると思われるこのようなケースに、デジタル人民元はどのように対応していくのか、中国人民銀行が検討しているであろう、対応策の発表が待たれます。

5.Alipay、Wechatpayと競合する?

「デジタル人民元にAlipayが喰われるか!?」という、よく日本の記事のタイトルで見る疑問について、わたしの考えは、「機能性のみを考えればAlipay、WechatPayの圧勝だが、政策によって強引なデジタル人民元への収れんがなされる可能性はある」です。

まず、Alipay、WechatPay、デジタル人民元について、私が調べた特徴は以下の通りです。

微信图片_20210414151148

性質や機能においてのデジタル人民元の優位性は、中国人民銀行により価値が担保されていることと、オフラインでの使用が可能なことですが、これだけで既存のAlipay、WechatPayからシェアを奪えるとは思えません。
また、Alipay、WechatPayの最大の強みは、それらの決済を利用するプラットフォームを持っている事です。AlipayでいえばEC最大手のタオバオ、生鮮品スーパーのフーマーなどでは、決済の段になると自動的にユーザーのAlipayにリンクします。一方、チャットツールWechatがスタートのWechatPayではどんなに遠隔にいる友人にも、チャット画面で送金ができるので、懇親会後の精算などに便利です。また、最近はWechat内にミニプログラムという各店舗が展開するホームページのような機能が充実していて、例えばこのミニプログラムからテイクアウトドリンクをオーダーし、WechatPayで店舗にいかず決済を完了させておくこともできます。商品の購入や友人への送金といったニーズの先に必然的に生じる決済に自社の決済システムをつなげているところが強みで、当然今後はここにデジタル人民元の選択肢が導入されるのでしょうが、わざわざ決済のみそちらに切り替えるメリットが、今のところは見えないな、と一消費者としては思います。

ただし、最近中国国内でアリババ、テンセント等大手IT企業やその金融子会社、金融事業への締め付けが急に厳しくなっており、様々な理由で罰金を科されているという報道を目にします。これらの規制が続き、罰金により当該事業で得られる収益が圧縮され続けるようであれば、両社が近い将来事業の見直しを行う可能性はゼロではないと思います。そうなったときに、中国で暮らす人にとって既にデジタル決済はなくてはならないものとなっていますので、決済手段がデジタル人民元に収斂していくのかな、というのが今の私の考えです。

本記事の作成中にちょうど、アリババグループが独占禁止法違反で中国当局より3,000億円規模の制裁金を課されるというニュースが飛び込んできました。

世界が注目するIT大国中国での、デジタル人民元の導入。せっかくこの機会に中国で生活できているので、引き続き追いかけていきたいと思います。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?