マガジンのカバー画像

ブルーベル奇譚

4
奇妙な短編連作。
運営しているクリエイター

#短編小説

凛樹

凛樹

イチイの葉を一枚摘んで、指先で根元と先端をつまみ、そのまま耳もとで折る。チッという音、これは甲虫の脚を引き抜くときの音と同じ。

袖のパフスリーブを捲りあげて、山吹色のワンピースと生成り色のタブリエを翻して、栗色の少女は庭園を歩いていた。

松の木の向こう側に、雇われ庭師がいるのが見える。小さな頃からいた、住み込みの庭師が死んでから彼がやってきた。彼の仕事は申し分ないけれど、においがよくない。前に

もっとみる
ダンデリオン、フェンネル、リンデン

ダンデリオン、フェンネル、リンデン

玄関の明かりを消して、奥の階段を上がって正面のドアにある上から2番目のノブに手をかける。3つあるドアノブは同時に首を傾げ、リビングへ通じる。
横に2.5m、縦に1.3mある胡桃の木で組み立てられた机の上に牛革の通勤鞄を置く。机と対面する全面窓からは既に、熟れ落ちた太陽の面影もなく、僅かに蒼い光が閉じたままの西陣織のカーテンを透かして机上のドライフラワーと画用木炭の欠片を照らしていた。

手元もよく

もっとみる