いちばん近くで支えてくれた人は、なぜ一緒にいられないのか。『海のはじまり』
津野さんは、そんな言葉を夏くんに振りかざせるくらい南雲親子を支えてきて、そんな言葉を振りかざしたくなるくらい疎外感と孤独に打ちひしがれていたんだろうなあ。
ずっとそう思っていた。
海ちゃんがまだ赤ちゃんの頃から、シングルマザーの水季を一番近くで支えてきた津野さん。
誰にも頼りたくない水季が、唯一頼ることができ、フラットな関係性でいられる相手。
見返りも求めず、献身的に親子を支える津野さんは、純粋に南雲親子を人として好きだったのだと思う。
水季が亡くなったあと、祖父母宅に引き取られ、父親である夏くんとも会うようになった海ちゃんが口にしたセリフは、とてもピュアで、残酷だった。
これまたシンプルで、切ない回答。
わかるけど、わからないし、できればわかりたくない。
「遠くの親類より近くの他人」とはよく言ったもんで、血縁にかかわらず、物理的な距離や精神的な距離が近い人には、その人にしか果たせない役割がある。
でも、その関係性はすごく脆い。
毎日顔を合わせて、お互いに支え合って生きていたのに、一度引越してしまえば、2度と連絡すら取らなくなるお隣さん。
一方、何年も連絡を取っていなかったのに、冠婚葬祭の場で再会すれば、一瞬で会えなかった時間を埋めることができる親族。
そういうものなのか、とも思うけど、なるべくそうなりたくないなと思う。
たとえ海ちゃんが夏くんのもとに身を委ねたとしても、そのまま祖父母宅で暮らすことになったとしても、たまにでいいから津野さんが働く図書館に連れて行ってあげてほしい。
閉館中の図書館で、2人でワーワー騒ぐ時間を作ってあげてほしい。
そして、水季さんの法事にも快く参加させてあげてほしい。
お父さんが1人でもいいし、2人いてもいい。そういう感覚を持つ海ちゃんなら、夏くんとも津野さんともずっと良い関係性を築いていけるはずだから。
水季の死を当事者として受け止め、多方面からの疎外感を抱きつつも、突如現れた弥生さん(夏くんの彼女)に、
と声をかけられる津野さんは、ちょっぴり不器用だけど、誰よりも愛が深くて、信頼できる“他人”であるに違いない。
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