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個人的な体験/大江健三郎

サルトルに影響された著者が、"意志ある選択"を主題に小説を書こうとしたところに、自分の体験を重ねて生まれた物語なのだそうだ。
著者が自ら青春小説と呼ぶように、主人公の鳥(バード)の視点であっという間の日々を、激しく旋回しながらくぐり抜けた感覚を持った🦜欺瞞が膨れて大きくなるほどありもしない想像は広がり、鳥(バード)の心は侵蝕される。
いつかアフリカを旅することを夢見るまだ若い彼は、脳ヘルニアを患って産まれた赤ん坊の存在にとことん追い詰められ、ひたすら葛藤しているのだ🦜

異国への夢想、瘤のある赤ん坊、火見子の部屋、赤いMG、それぞれの引力で物語を引き合い弾きあって作品に見事な混沌さをもたらしている。
昭和特有の混沌さもあるのだろうか?
妻を放ったらかし女友達の火見子の家に入り浸り、ひたすら酒を煽り赤ん坊の死を願う鳥(バード)🦜
どう見てもクソ男なのに、そのエゴイズムっぷりからなぜだか目が離せないのは私たちの生活の地続きの果てにそれがあるような気がするからかもしれない🦜気がつけば、目に余るほどの愚行を包み隠さず描くこの作品に好意すら抱いていた🦜

著者の作品は好きで色々読んでいるのだけど、こちらは好きな方に入ります🦜
発行されたのは今から40年前の昭和56年。
当時、ラストにいたる数ページに関して批判的な声もかなり多かったようなのですが、突然希望を感じさせる、その白々とした終わり方が私的には大好物でした🤤
明日を見出すことが実に難しいからこそ、嘘っぽいものの中に希望的なものを感じたくなるし、我々が縋りたくなる希望とは実に嘘っぽいものなのかもしれません📖
人は簡単に人の死を願うこともできてしまうし、呆気なく人によって殺されてしまうものでもある。自分を棚に上げてよその命を無視するなんてこと、そこらじゅうで起きている。
なにも、昔の話、で終わりではない。
私たちの時代の小説だ。

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