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キホンのK

ちょっと前に、仕事の会議中に空気がミシッと凍りついた瞬間に立ち会った。

私と同じ部署の人が、他部署の人たちにこっぴどく叱られたのである。

在宅で全員リモートでのテレビ会議だからまだよかった。気まずい空気感を顔を合わせて共有しなくて済むのだから。私は自室で画面の中の空気が固まったのを感じながら、ひたすらミュートでその場をやり過ごした。


その人はどんな重大なミスを起こしてしまったか。

どれだけ大きな不利益を相手に与えてしまったのか。


その人が、総勢25人もの前でピシャリと言われたのはこの言葉だった。

「メールは返してくださいよ」


言われたのは新人だろうか。

もしかするとそう思った人もいるかもしれない。ところが、まだまだ未熟であろう新人や若手社員、ではなかった。

社会に出て25年にもなる大先輩だったのだ。


***

社会に出たら、何かものすごいことができるようになると思っていた。

就活生の私は、バリバリと仕事をこなし、スキルをどんどん身につけて、難しい〇〇プロジェクトを完遂させる。そんな漠然とした「仕事人」の姿を思い描きながら面接を受けていた。

ところがいざ入社してみると、想像とは180度違う世界が広がっていた。


大きなこと、すごいことを成し遂げている姿はあくまで漠然としすぎている「結果」を想像していただけであって、その過程は本当にどうでもいい仕事、小さな業務、地道すぎる作業の連続だということ。企業の中で自分は小さな歯車のようで、毎日ちょっとずつしか進めないし、自分のしたことが会社や事業を変えてしまうなんてことはそうそうないんだってこと。


私の中の「仕事ができる人」は、何か特別な力を持った人だった(特別とかいうとなんだか魔法使いみたいだけど)。

スーパーマンのような。

でも違うのかもしれない。


何かを成し遂げている人、すごい功績を上げている人。よく観察してみると、そう言う人ほど当たり前だと言われるキホンの「キ」を当たり前にこなしていて、当たり前のように継続している。


会社に入った瞬間、「あ、自分に特別な力なんてないな」と思った。何かが突き抜けてできるわけでもないし、アイデアマンでもない。周りを引っ張りながら周りより頭ひとつ抜きん出ていく行動力も、多分持ち合わせていない。

そんな自分を時には卑下して「無力だなぁ」と諦めていたけど、最近はちょっと考え方を変えている。


なにか「すごいこと」をしなければともがくのではなくて(どんなにもがいたって、気づいたらすごいことをしていました、なんてことまずありえないし)まずは基本の中の基本を守ろう、と。

基本の「キ」よりもっと。キホンの「K」だ。


メールの返信、電話の受け答え、相手に対する言葉、態度。スケジュールの立て方、進捗の管理、資料の作り方。データの整理。メモの取り方。

そんなこと?当たり前じゃない?って思われるような小さなことをコツコツと積み重ねていこう、そう思っている。




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