そのこ

ショート

そのこ

ショート

最近の記事

全力姉

姉はなぜか私の友人達からの支持が厚い。 姉は特に社交的というわけでもなく、私の友人が家に遊びに来た時も軽く挨拶を交わす程度なのだが、その一瞬でみな姉を好きになってしまうのだ。姉を見たくてウチに泊まりに来た友人もいるくらいである。 私は姉とは全然仲良くないのだが、前に弟について書いたことだし、今回は姉とのことについて書くことにする。 それはまだコロナ禍で外出自粛が叫ばれていた頃のことだった。 私は受験生の夏休みでせっせと勉強していたのだが、大学生の姉はどこも行くことができ

    • 一本箸

      大晦日、私が乗った成田行きの飛行機はイスタンブール上空を通過していた。両隣にはトルコ人男性2人。右は「にほんごであそぼ」のコ二ちゃんそっくりな大巨漢。左には陽気そうだが貧乏ゆすりがひどい男が座っていた。 私は座席指定をミスったと後悔した。右のコ二ちゃんは、もう私の席の半分以上侵入してきている。体が大きいので仕方ないのだが、これから11時間以上この状態で過ごさなければいけないことにすでに疲れを感じていた。 映画も見る気になれず、音楽を聴きながら時間を潰した。 結局一睡もで

      • 反抗期の弟

        ついにやってきた。うちの弟にも。 反抗期は一般的に周りからみると面倒くさい、イヤな、反抗期でないこちら側も自然とイライラしてしまう最悪な期間だ。しかし、私は弟に反抗期が来るのを待ちわびていた。 私に反抗期が来たのは中学1年生くらいの時だ。その頃の弟は、いつも私のイライラをぶつけられていた。弟はたまりに溜まった私への愚痴を、小学校の課題である人権作文に書き連ねて提出しやがったことがある。 弟は冬休みの中で最も面倒くさい課題を、毒の吐け口として昇華することに成功した。うちの

        • ゴールドカード

          島の美術館でバイトしていた時の話。 その美術館はリッチな人ばかり来ている印象だった。まあ、美術館が島の中にあるので、フェリーを使わないと来れないから自然とお金持ちしか来れなくなるのだろう。 客層としては初老夫婦が一番多い。奥様は大体大きなサングラスをかけ、ツバがやたら広い帽子をかぶっていて、旦那のほうは白い短パンで金色のネックレスだ。 グッズ販売のレジをしていると、今日もそんな感じの夫婦がやってきた。グッズをレジに置き、そのマダムは「カードで」と言ってゴールドカードを差

          アキレス腱

          空きコマに大学近くのイタリアン料理店に来た。胸とお尻が魅力的なお姉さんに案内されて席に着き、厨房の黒板に書かれた本日のイチオシメニューを読む。 「気まぐれシェフの気まぐれサラダ」 不安だ。気まぐれなシェフが気まぐれで作ったサラダはサラダなのだろうか。 でも本日のイチオシなのだからしょうがない。お姉さんを呼んで注文をする。 サーモンのオムレツ アップルパンケーキ そして、気まぐれシェフの気まぐれサラダ お姉さんはご機嫌で注文をとった後、I love your swea

          アキレス腱

          名前も得体も知らない子

          ピンポーン 誰かが来た。 扉を開けると、そこにはしっぽがふわふわしたリスが。 そうだった、今日は冬至じゃないか。 リスを家に招き入れ、お茶を出す。客人には失礼だが、私は高枝切り鋏を片手に庭へ出るる。今日は冬至だ。私は冬至の準備をしていなかった。庭の隅に生えている柚子の木から、チョキンチョキンと柚子を落とす。いい匂いを両手に抱えて部屋に戻ると、リスもドングリを両手に抱えていた。さっきまで頬に蓄えていたものだった。 その日はリスと一緒に柚子湯に入った。リスは最初水を怖が

          名前も得体も知らない子