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名前も得体も知らない子

ピンポーン

誰かが来た。

扉を開けると、そこにはしっぽがふわふわしたリスが。

そうだった、今日は冬至じゃないか。

リスを家に招き入れ、お茶を出す。客人には失礼だが、私は高枝切り鋏を片手に庭へ出るる。今日は冬至だ。私は冬至の準備をしていなかった。庭の隅に生えている柚子の木から、チョキンチョキンと柚子を落とす。いい匂いを両手に抱えて部屋に戻ると、リスもドングリを両手に抱えていた。さっきまで頬に蓄えていたものだった。

その日はリスと一緒に柚子湯に入った。リスは最初水を怖がっていたが、私が「極楽だよ」と声をかけるとエイヤッと飛び込んだ。ふわふわのしっぽが湯船に浸かるや否や萎んでしまったのが面白かった。

とてもいい湯だった。陽気なリスのようで、
ババンババンバンバン♪  ハ〜♪  の掛け合いも何度もしてくれた。とても楽しい湯だった。

お風呂から上がると、リスはドングリを私に渡してすぐ帰ってしまった。もう少し話したかったが仕方がない。冬眠の準備で忙しいのだろう。

リスの背中を見送りながら、この冬はお互い風邪をひかないだろうね、よかったね、と思った。

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