ゴールドカード
島の美術館でバイトしていた時の話。
その美術館はリッチな人ばかり来ている印象だった。まあ、美術館が島の中にあるので、フェリーを使わないと来れないから自然とお金持ちしか来れなくなるのだろう。
客層としては初老夫婦が一番多い。奥様は大体大きなサングラスをかけ、ツバがやたら広い帽子をかぶっていて、旦那のほうは白い短パンで金色のネックレスだ。
グッズ販売のレジをしていると、今日もそんな感じの夫婦がやってきた。グッズをレジに置き、そのマダムは「カードで」と言ってゴールドカードを差し出した。
私は「来たか…」と内心ため息をついた。
別にカード払いは店員も楽だし全然いい。
お金持ちの偉そうな態度がイヤとか別に全然思ってないし、ゴールドカードとかも別に全然。
問題なのは、この美術館のカードの読み取りが異常に遅いことだった。
ここは島だ。ちょっと雨や風が吹けばテレビが映らなくなるところだ。電子機器は弱い。
私が嫌なのはカードをグルグルと読み取っている間、このマダムと至近距離で向かい合っていなければならないことだ。非常に気まずい。
相手はお金持ち。時間をお金で買える人だ。予想に反し時間がかかっていることに若干イラついているマダムの表情を読み取り、私はいつものセリフを言うことにした。
「すみません、機械の調子が悪いようです。担当の者を呼んできますので、少々お待ちください。お時間を取らせてしまって申し訳ありません。」
マダムの鋭い視線を背中に感じながら、私はいつもヒマそうな社員さん(ゴンさん)を呼びに行った。ゴンさんは正社員だが、あんまり仕事をしている印象がないのでこういう時に話しかけやすい。「ゴンさん」と声をかけた時も、Yahooのオークションサイトなんかを眺めていた。
しかし、呼んでおいて申し訳ないのだが、ゴンさんが来たところでゴンさんにできることは何もない。カードの読み取りを見守る人が1人増えるだけだ。
だが私にとってゴンさんの存在はありがたい。
人数が増えれば険悪なマダムとの空間の密度が薄まる。
3人で静かにカード機器を見つめてしばらくすると、ピコン♪ と決済完了を告げる音が鳴った。
マダムは足早にその場を去り、ゴンさんも「んじゃ〜」と言って自分の持ち場に戻っていった。
ゴールドカードが差し出されると、この一連のながれが毎回起きるのである。
そういうわけで、私はゴールドカードを差し出される度
「やだなァ…」と少し憂鬱になるのである。
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