詩集が届いた日

起きて、お風呂に入るかと尋ねられて、ぽけーっとしながら、迷って、入ると答えた。
起きたて特有の口の苦さを流さないまま風呂場で濯げばいいだろうと、ずぼらなまま。
シャワーを浴び、ラジオ体操をして、ごはんを食べ、今日のわたしはもう閉店。

そう思っていたけれど、頼んでいた詩集が届いていたから、ゆっくりしながらそれを開けた。

先週の通院日にたまたま見かけた詩集だった。
ネット上での「スキ」を目印に追いかけてみたら、詩集があって、もう消されてしまっているけれど、届けたい気持ちが書かれているものに惹かれて、そんな気持ちの作品をわたしも見てみたいと、病院に行ったご褒美にとポチった。
それが届いていた。
茶封筒に、わたしの名前。
絶対詩集の値段より貼られている切手の方が値段高いじゃん。
本当にあの値段で買ってよかったのかな、と思いながら茶封筒を開けた。

中には、一冊。
白が一冊。
綺麗な四角が一冊入っていた。

誰かの作品って思うだけで、ちょっと緊張する。
わたしの絵もこんなふうに扱ってもらえたりするのかな。
透明の袋がグチャッとならないように、でも特別丁寧にでもなく、指はいつも通りに開けていた。
こういうところね。
雑さが出るのよ。
セロハンテープがグチャッと袋を伸ばさなかっただけ許して。

指が滑りにくい紙質を触って、表紙と裏表紙を何回か見て、開く前に最初のページの透けている印刷を見て、息を呑み、姿勢を正して、詩集を開いた。
人生でおそらく初めて買った詩集を開いた。

頭が悪いのか、一文字一文字が零れていってしまって、読んでは戻って、読んでは戻って、取りこぼさないように読んでいった。
目頭は熱くならなかったが、泣きそうってこういうことかもと思った。
文字が泣きそうだった。

わたしはわたしじゃなくていいのかもしれないと思った。
わたしという形じゃなくても、別にいいのかもしれないなんて思った。

途中で私って音痴だと思う?と訊かれたので、そんなこと思ったことないよと返しておいた。

半分くらい読み進めたところで、絵にしたくなった。
この感情の前の言葉になり得ないふよふよを、キャンバスの上に絵の具を落として形にしたくなった。
わたしは言葉が上手じゃないから、絵の具で表すしか方法がわからない。
だからたぶん絵を描いている。
この気持ちが亡き者になる前に、あとで、キャンバスに絵の具を塗ろうと思う。
早くもっと夜になってほしい。
わたしの時間に早くなれ。
文字の涙を、わたしはキャンバスに塗りたい。
黒と白の涙だ。

読み終わって、自分で描きたいものを脳内に膨らませているうちに、最後のページに挟まっていた一枚の紙を見つけた。
なんだろうと思って、ちゃんと見たら、体温を感じる文字が残っていた。
購入するときに、なんでだろうと思っていたことがここで解消された。
そういうことだったのか。
ずるい。
わたしはこの作者の方を、失礼だが全然知らないけれど、ずるいと思った。
ずるかった。
だって、最近、noteを読まれている足跡が残っているなって不思議に思っていたことが、ここで点と点が結びついて、優しくて、かっこよくて、ずるかった。
詩を書かれる人の、わたしだけに向けて書いてくれた言葉はひどく温かくて、いちばん泣きたくなった。
ありがとうを言いたいのはわたしです。
ありがとうございます。

通院日のわたし、疲れた勢いで買ってくれたの大正解です。
バツじゃなくて、二重丸がつきました。

今日誕生日の友達に、初めてLINEギフトを使えたのも偉かったね。



バツのつけかた | ー https://thebase.page.link/883r @BASEec

●さんの詩集「バツのつけかた」読みました。

まるすけ

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