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夜中のカフェと透明な私

パリで1,2を争う有名カフェはデュマゴかカフェドフロールだろう。どちらも高級住宅街のサンジェルマンデプレ地区にあり、この街が知的/文化的活動の中心地であったためにサルトルやボーヴォワール、ヘミングウェイにカポーティまでもが通ったと言われる由緒正しいカフェ。

そんな有名なカフェドフロールに行った時の話。
あまりに観光地すぎ(ゆえに私の無駄なプライドが邪魔をして)写真を撮り損ねたのでカフェの美しさについては公式インスタグラムを。

統一された色合い、ラタンの椅子、テラス席、店の名前のロゴ入りのカップに皿、そしてギャルソンたち。これ以上、全力でフランスを叫ぶものがあるだろうか。他の旅行者たちと同じく老舗カフェにキャッキャしたい。テーブルにクロワッサン並べて、カップ持って視線外したりしてイケてる写真が取りたい。けど、だめだ(そもそも1人旅だし)。住むように旅をする、がテーマの旅じゃないか、落ち着け、と言い聞かせ昼下がりのカフェを後にする。

そして、チャンスはやってくる。

実はこの地区を堪能してみたいとカフェの近くで宿を取っていた私。あるコンサートの帰り道、小腹が減ったのでこれ以上にぴったりなタイミングはない!と気付く。ちなみにフランスはコンサートの開始時間が遅く、この日はコンサートが終わり宿付近まで戻ってきたの23時過ぎ。ひもじい思いをしながらベッドに入るのは旅としてあるまじき、と意を決してカフェドフロールに入る。

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人気カフェとはいえ、23時も過ぎれば人もまばら。フランスの晩秋は東京の冬並みに寒く、テラス席ではなく店内に避難する。まず赤ワインをオーダー。じん、と熱が喉元を駆け下り冷たくなった指先をほぐしてくれる。

グラスにまで印字されたカフェの名前に、オープンして120年以上という歴史にお邪魔したようで少し背筋が伸びる。さて何を食べよう、とメニューを開けるやいなや、目が一点に吸い寄せられる。ああ、これが食べたい。

SOUPE À L'OIGNON GRATINÉE

そう、オニオングラタンスープ。たっぷりのバターで炒めた飴色玉葱で作ったスープに、くたくたと沈められたバゲット(なのにカゴ入りで追いバゲットがついてくるのがフランス的というべきか)、それを完全に覆い隠す焦げ目のついたチーズ。こんな遅くにバターと炭水化物の爆弾のようなものを摂取するなんてなんと喜ばしい、とほくそ笑みながら伸びるチーズをフォークでからめ取り、ひたひたなバゲットをスプーンですくい熱い熱いと口元に運ぶ幸せたるや。

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食べ終わって周りを見回すと、観光客はすっかりいなくなっていて地元の常連ばかりになっていた。女優なんじゃないかと思うぐらい華やかな雰囲気を持ったマダム3人組や、空港から直行したのかトランク抱えたまま男友達に会いにきた女性、ダウンジャケットをしっかり着てテラス席に陣取る男性。

そう、これが見たかったんだ。

一時街を訪れた人の一瞬の宿り木としてのカフェではなく、ずっと街にいる人々の生活として存在しているカフェをオシャレで非日常的なカフェも素敵だけど、普段の日常にあるカフェ模様が見たかったんだ。それぞれの日常を邪魔しないように、少しだけ自分を透明にする。そしてあるべき日常の姿の中にほんの少しだけ、浸らせてもらう。

真夜中の犬の散歩でタバコ片手に店の前を通りがかるカッコいいご老人に話しかけるギャルソン、歩いていた友人とばったり会い、まぁ飲みなよ、とこんな時間から始まる一杯、マダム達の終わらないお喋り。カフェテーブルから目を逸らすだけで、今も昔も変わらない人々の生活がこんなにも広がっている。

こんなカフェが生活の中にあって、一緒に年を重ねていけるって幸せだなとパリっ子たちをちょっと羨ましく思い、日付も変わる頃、店を出た。

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via Pinterst

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