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おとなになって、もう一度

(2017年に岡崎市現職研修委員会学校図書館部から依頼された『さかさ町』を読んでくれた小学生へのメッセージ)

 夏休みの読書感想文に『さかさ町』を選んでくれて、ありがとう。楽しんでもらえましたか? 感想文では、自分だったら、世の中がこんなふうにさかさまだったらと、いろいろ考えたかもしれませんが、それって、意外とむずかしかったのではないでしょうか。世の中のなにをさかさまにしたら、おもしろくなるかを考えるなんて、おとなでもむずかしいとおもいます。私の息子も四年生ですが、読むだけだったら、楽しんでいましたが、いざ、作文用紙をまえにすると、えんぴつがとまってしまいました。
 でも、それがふつうだとおもいます。この本の「あとがき」にも書いたように、いまのあなたには、この本をただただ、楽しかったとおもってもらえれば、それでいいです。そして、世の中をちょっとへんなふうに考えた、おもしろいお話があったぞ、ということだけ、どうか心のすみにのこしておいてください。

 この本を訳しているとき、私の心のなかには、ふたりの自分がいました。ひとつは、いまのあなたとおなじ年ごろの自分です。その自分は、この本をただただ、おもしろがって、物を買って、お金までもらえるなんていいな、とわらっていました。もうひとりは、おとなの自分です。その自分は、この本を書いた、アンドリュースさんは、おかしなことを書いているけれども、それは、ただおかしいだけではなくて、なにかだいじなことをつたえようとしているぞ、とおもいました。
 そのだいじなことって、なんでしょう? それをここで書くのはやめておきます。かりに書いたとしても、ほんとうの意味でわかってもらえるのは、あなたがもう少し、おとなになってからだとおもうからです。だからこそ、この本のことを心のすみにのこしておいてください。いつか、あなたが大きくなって、自分の本だなで、または図書館の本だなで、この本を見かけたとき、こんな本があったなと読み返してみてください。そして、なにか感じることがあったら、ぜひ私にお便りをください。そのとき、あなたと私は、きっとよい友だちになれるとおもいますよ。

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小宮 由(訳者)1974年、東京都生まれ。学生時代を熊本で過ごし、大学卒業後、子どもの本の出版社に入社。その後、翻訳家となる。東京・阿佐ケ谷で家庭文庫「このあの文庫」を主宰。実家は熊本県西原村で、子どもの本の店「竹とんぼ」を経営。祖父は、トルストイ文学の翻訳家、故・北御門二郎。訳書に「ぼくはめいたんてい」「テディ・ロビンソン」シリーズなど。

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