私に彼氏ができた際の懸念事項

なぜだかわからないが、そろそろ彼氏ができる気がしている。

なんでそう思うのか? と聞かれると、明確な答えは出せない。だが、なんと言えばいいのかわからないが、なんとなくそんな予感がしているのだ。根拠のない自信があるのだ。

私は人見知りなのだが、その分、心を許した人には割とペラペラとなんでも話してしまう。こないだの休日に誰とどこに行って何をしたかだとか、今度の週末は誰とどこに行く予定だとか。そんなわけなので、デートの予定が入ろうもんなら心を許した人々のほとんどに打ち明けてしまっている。次の週末はこの人とデートで、このお店にご飯を食べに行くんだ! と。

なんだかんだみんな、いくつになっても恋バナというものは好きなようで、私がニヤニヤしながら「デートの予定が入りました!」と報告すると、言い方は悪いが喰いついてくる。どこに行くの? 相手どんな人? と、今時は絶滅危惧種の、おせっかいな親戚のおばちゃんのように聞いてくる人もいる。私もデートの予定が入って浮き足立っているので、気分良く答えるため問題はないのだが。

デートが終わると、デートに行ってきますと事前報告した人々に、事後報告も行う。こんな人だった、こんな会話をして、その返答がこんな感じだった、脈はなさそうだ、など、デートの要点をかいつまんで、手短に報告をする。
報告を受けた人のだいたいは、私を見て「お前はだからモテへんのや」とか「朝ごはん何食べるか聞かれて最初に『納豆』って答える女はないわ」など、自己採点で脈ナシ・手応えナシの私に容赦なく攻撃いてくる。1回目のデートには漕ぎつけるのに次に繋がらない私を見て、先日ついに複数人から「デート中、指示出したげるからイヤモニつけたら?」と言われた。そんなにダメな素振りをしたつもりはなかったのだが、どうやら私はデート最中に可愛くない行動を結構取っているらしい。先ほどもあったように朝ごはんは『納豆』と即答してしまうし(フレンチトーストといちご! とか言っとけと言われた)、酒豪ではないがお酒に弱くはないので酔った勢いでボディタッチ! みたいなこともできないし、記憶もしっかりあるし、なんならほぼ素面の状態と変わらない。頬っぺたも赤くならないし、真っすぐ歩けるし、ちょっとぐらいなら走れる。隙がなくて可愛くないらしい。

割とボロカスに酷評される私のデート報告だが、だいたいの人は爆笑しながら聞いてくれている。「それあかんやろ!」とか「ほんっまにお前は可愛げがないな!」とか、そんなことを言いながら爆笑している。そして関西人の悲しい性なのか、私も「ウケた」と思って満足してしまっている節がある。いわゆる自虐ネタであり、芸人でもないのに身を削って笑いを取りにいこうとするところがある。でも、仕方ない。だって関西人だもの。笑いがほしいと感じてしまうのは、自然なことだと思う。

この2年間、彼氏が欲しいのに彼氏ができない、初回デートまでは漕ぎつけられるのにそれ以降にまったく繋がらない系こじらせアラサー女子を演じてきた私だが、冒頭に書いたように、なんだかそろそろ彼氏ができるんじゃないかと思っている。

彼氏ができたら来年には結婚して、再来年には子どももできて……と妄想が膨らむ。幸せな家庭を築いている自分を想像する。想像すると同時に、はたと気付く。今、私は「彼氏がほしいしそれなりに行動もしているのに彼氏ができない系こじらせ女子」として笑いを取っている。しかしその肩書きは、私に彼氏ができた瞬間になくなってしまうじゃないか。私の持ちネタ且つ十八番ネタ「1回目のデートはしてもらえるのに2回目に97%の確率で繋がらない、可愛げのない女~イヤモニつけて指示を仰げ~」ができなくなるじゃないか……!

関西人にとって「面白くない」とか「面白くなくなった」と言われるのは、一種の死活問題と言っても過言ではない。大阪でなくとも、どこかで関西特有のノリだったり、オチを求めてしまったり、ノリツッコミや例えツッコミを始めとするツッコミの種類の使い分けだったり、そういうのは成長していく過程で無意識に染みついてしまっているものなのだ。自分の欠点のようなところも自虐ネタにして笑いに変えてしまうところも、そのうちの一つだと言えるだろう。

その自虐ネタが……言ってしまえば、私の鉄板の持ちネタが……! 私に彼氏ができることによって封印せざるを得なくなってしまう……!

自分の幸せを取るか、笑いを取るか……。
究極の選択である。

比べるなよ、という声が多方面から聞こえてきそうだが、少し女芸人たちの気持ちがわかった気がする。比べるなよ、という正しいツッコミは、胸にそっとしまっていてほしい。

ああ、どうしよう……。

そんなことを言いながらも、彼氏ができる予感がしている私は、これまた新たな人とデートに行く予定が入った。そしてこれももれなく、私が心開いた方々に共有事項として伝えた。

「やー、私ね、そろそろ彼氏できるんと思うんですよね!」
へー。
「身長も高くて、やり取りもストレスなくて、今度こそ合うんじゃないかなーって思うんですよね!」
へー。

ま、楽しんできたら? また報告してね~、と言いつつも、どうせ上手くいかないだろお前!!! と言いたいのがものすごく伝わってくる。なんだか悔しい気もする。

いや、でもこれでまた失敗したら「ほらやっぱり~!」とまた一笑い取れるんじゃないか?

そんなことが自然と頭に浮かんできてしまうから、私に彼氏ができるのに時間がかかってしまっている気がする。いや、そうだ。すべては私が関西人として生まれ育ってしまったからだ!

広島とか博多で生まれ育っていたら、方言も可愛いし、きっとオチだとか自虐ネタだとか、そんなことは考えないからとっくに彼氏作って結婚もしていたんじゃないだろうか?

……どこか関西以外の方言を練習しようかしら。

「そうじゃないんだよ! だからお前は彼氏できないんだよ!」という声が聞こえてきそうだ。聞こえてくる前に、笑いのことは一旦忘れて、週末デートに備えて粛々と準備は進めていこうと思う。


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