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エアメール・トゥ・イングランド・プリーズ

趣味のいい男性について冬子は考えていた。松家仁之『沈むフランシス』に出てくる寺富野は、手土産の白い秋明菊を白い琺瑯のピッチャーにさりげなくいけたり、黒い足踏み式ミシンで革のクッションを作ったり、地鶏のローストや牛のすね肉のビーフシチューを作る腕前を持つ。

部屋のインテリアや服装はその人の好みが出るわかりやすいところだが、やはり話し方、言葉づかい、しぐさが大事だなと思う。あと本棚に好きな作家の本が並んでいたら、趣味がいいというか、趣味があうと、たちまち親近感が湧くだろう。

寺富野の趣味は音を収集することで、自分で組み立てたオーディオからは、ほんとうに目の前にその音の事柄があるように聞こえるらしい。冬子はアラスカの氷河がかたまりのまま崩れ落ち、大きな水しぶきをあげ、割れた氷が海の上に飛び散る音や、まるでシカゴのホテルのロビーのソファに座っているかのように、かなり高齢の女性の「エアメール・トゥ・イングランド・プリーズ」というかすかな声を聞きとりたい、と思った。

久しぶりに読んだ恋愛小説だった。こういう始まり方もありますね、と懐かしい気持ちになりつつ、夏に見たドラマ、益田ミリ原作の「僕の姉ちゃん」を思い出す。姉ちゃんがボウリング場で気になっている人とハイタッチをした時、ときめかなくてガッカリする場面。「手のひらがあわない人と、他の部分あわせられると思う?」と言い、弟が「生々しいな!」と返すところに笑う。

この先だれかと暮らしたりするのだろうか。恋や愛が絵に描いた餅のようだ。今晩から始まる好きなドラマ「きのう何食べた?2」もふたり暮らしだし、肌寒くなるにつれ、なんだか人恋しい。秋は好きだが、やっかいだ。昨日買ったワレモコウをそっとつついた。







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