見出し画像

おさつバターフラペチーノ

一日だけ百閒の看病をした冬子は、数日後にきっかり発熱した。百閒は二日でたちまち元気になったが、冬子は一週間たってもしんどかった。風邪を手放すにも時間がかかる。村田沙耶香『信仰』を読みおえ、改めて自分の信じているものを思い出そうとした矢先、それは流れていった。

今回の風邪では左の外耳がビリビリと痛み、薬を飲んでも消えず、眠りたくても眠れないのが辛かった。今までの悪い行いが罰として現れたと思った。痛みに耐えながら、徳を積めば、こんな痛い目にはあわないのではないかと本気で考えていた。熱が下がり痛みも引いたが、今後のため耳鼻科で診てもらった。原因はわからなかった。

耳鼻科の帰り、風邪の解放感からスタバに寄り、おさつバターフラペチーノを飲んだ。上にトッピングされた、細かい芋けんぴをストローにつまらせながら、完全に今ではなかったことに気がつく。鼻がつまっていて匂いが全くわからないのと、ネブライザーを当てた喉に甘いおさつバターフラペチーノは変な味がした。めったに入らないスタバを満喫するどころか、とんちんかんなことになり苦笑するしかなかった。

しんどくても本は読みたく、垣谷美雨『老後の資金がありません』と伊藤理佐『みたび!女のはしょり道』を図書館で借りた。お金と老いの心配。ぼんやりした頭で借りた本に、冬子は自分の潜在意識をみるようだった。

前に読んだ『女のはしょり道』から興味をもち、一年以上肌断食は続いていた。今回は「フォトフェイシャル」という顔のシミをとる治療法が大いに気になり、忘れないようメモをした。

風邪が身体のなかを通りすぎると、少しだけ秋になっていた。お金の使い方を見直したり、衣替えをしたり、長い小説を読みたいな、と冬子は背筋をのばした。




この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?