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見えないものに対峙する人々

目には見えないし直接的に感じられないが、私たちの健康に少なからず影響を与えている。しかしある面では私たちの生活を守ってくれているだけに関わり方が難しいのが、化学物質だ。

廃棄物から出来る固形燃料 PRF

 先日参加した株式会社ナカダイ主催の第9回産廃サミットに参加した際にもそれを実感する面白いことを伺った。倉庫や解体場所、回収されたものが原料化される場所など複数見学している中で、回収したものを燃料としてリサイクルするサーマルリサイクルのための燃料を映像する場所を見学していた時に伺った話だ。廃棄物からつくられた燃料の中に、PRFというものがある。これは専用の装置で燃やされて、発電や乾燥、暖房に使われるものだ。回収した廃棄物のうち、PRFに回すものの中でも扱いが難しいものがいくつかあるそうのだが、その中のうちの一つが「畳」だそうだ。私の実家にも一間だけある畳、日が経って少し黄色くなっているあれでしょ?畳なんて天然素材だし、何かに利用できなくても最悪燃やせば良いだけでは、と思っていたので驚いた。

材料となる畳により塩素濃度が高くなっていた

 担当の方のお話によると、はじめは畳の比率を高く使用していたとのこと。しかし畳比率が高いPRFは、燃焼時に大気中の塩素濃度が高くなるということが判明したそうだ。原因を調べていくと、防虫のためい草に塩素系薬剤使用されていて、それが影響していることが分かったとのことだった。環境・人体にも悪影響を引き起こすため、その比率でのPRFは打消しとなった。
一度にたくさんの比率で燃料としても使えない程塩素が発生してしまうなど、生産時・使用時に誰が想定していただろうか。そもそも私は畳に防虫剤が使用されている事すら知らなかった。むしろ畳の良い香り、と直に寝転ぶことが好きだった。確かに虫がいなかったが、それが当たり前という前提になっていた。

他にも共通する化学物質の事例

 この話を聞いたとき、プラスチックに含まれている有害な難燃剤が、リサイクルされてもそのまま残っているという論文を思い出した。使用時に利便性や安全性を向上させるために使っていた化学物質が、形を変えても生物への影響は残し続けているという点で共通する事例である。
また今回見学をして、回収・リサイクルされたプラスチックの原料は、主に色別に素材の会社へ提供されることを知った。


 つまり、もともとのプラスチックが何に使われていたか、いつ生産されたものなのかは当たり前だが考慮されていない。しかし過去に使われていたプラスチックには、生物への有害性が認められて生産・使用・輸出入が禁止された添加剤が含まれている場合がある。それらはリサイクルされて形を変えても残留しているため、再び私たちが直接触れる可能性があるということだ。ましてやそれが子供用のおもちゃか何かになっている可能性があるということだ。

身近な環境ホルモン

 ちなみに、環境ホルモンとして知られている有害な化学物質にノニルフェノールというものがある。生物の体内に入ると女性ホルモンのようにふるまってしまうため、子宮頸がんや子宮内膜症、生殖機能に影響を与えるものである。これが発見されたときの話も思い出された。
 1989年にアメリカの女性の研究者が乳がん細胞の増殖について研究していたとき、本来増殖しないはずのサンプルでがん細胞の異常増殖が起きてしまったそうだ。その原因を調べていくと、実験器具として使っていたプラスチックの試験官にノニルフェノールが添加剤として加えられていて、それが溶けだしていたことが原因だということが判明したことがきっかけで、その後の規制に繋がった。

背景を知る、想像する。対峙する人に誠意を示したい。

この一連のことから思ったことが2つある。
 1つは、私たちは今当たり前に捉えているものが何によって成り立っているのか知るべきだということ。知らなかったり分からなかったりしても、それが何故なのかを疑う必要がある。本来虫がいてもおかしくない天然素材のところに何もいないのであれば、それなりの理由があるはずである。形が綺麗だったり、虫に食われていない野菜や果物であれば、その理由を想像しよう。何を良しとするかは個人の自由だし、だからこうしろという訳ではない。そんなふうに背景を考える、少し想像することが大事だと思う。

 もう1つは、目に見えない、また今後どのように影響するか明確な証拠があるわけではないものに対して、正面から向き合っている人たちの存在はとても大切であるということだ。どんな影響があるか、またいつそれが現れるか分からないもの、でも生物に良くないということはわかっている、だから出来る限り使わないでいようと出来る人達の覚悟はどれほどのものか。そこに価値を見出してくれる人がどれだけいるか、利益が出るかということは未知数の中、自分たちが正直でいられる、信じられることを突き詰めているのだ。それだけの透明性を持って安全を届けてくれる「生産者」の方たちはどれだけいるだろうか。だからこそ、私は無農薬や化学物質を使わない農家さんを応援したいし、100%天然なものを使っている人たちを応援したい。


どうしてできる限り使う必要のない化学物質は減らした方が良いと思っているのか、改めて整理された機会でもあった。便利さや、整備された心地よさの背景には何があるのかを立ち止まって考えることを大切にしようと思う。

大垣多恵 (おおがき たえ):1994年生まれ 埼玉県出身。
環境に興味があり、大学院までプラスチックによる海洋汚染の研究を行い、学生や一般向けに啓発活動を行う。2019年卒、一般企業の環境事業に1年間携わる。働きながら、持続可能な経済活動を考えるうちによりローカルな循環経済に興味を持ち、2020年から循環や再生をテーマに掲げる株式会社fog に所属。池袋要町にあるイタリアン”fra..”、代々木公園近くの量り売りショップ”nue by totoya”でも副業として働いたのち、9月の出張中に島根県雲南市に短期移住を決め、現在は現地で地域に入り込む日々を送っている。コミュニティづくりやイベントの企画運営をはじまり商店街にて修行中。

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