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「9月の珈琲 Kenya:どこまでも走る」
私は、乗換駅のホームで上り方面に向かう電車を待っていた。
下り方面寄りのホームは、幅が少し狭くなっていて、時間帯によってはひさしが用を成さないことがある。
この日もちょうどそんな時間帯だった。
寸足らずのひさしが作った陰はとても小さなもので、夏の終わりの太陽がホームを容赦なく照らしていた。
おかげで、ホームは白色とも黄色ともつかない色をしていて、私を囲む蒸し暑い空気のようにぼわっとしていた。
白色の線も黄色の線も見えない。
汗が余計ににじみ出ていると感じた。
私はたまりかねて、ホームから逃げるように線路をみやった。
バラストに支えられた銀色の線路が冷たくひかっている。
周りの気温なんて、まるで気にせずに、線路は美しく冷ややかに次の駅に向かっていた。
なんと気持ちの良いことか。
その気持ちの良さに惹かれて、顔を左に向け、線路を目で追った。
あっ、陽炎。
もやもやとたちはだかる陽炎が線路を飲み込んでいる。
でも、あの陽炎、どこか悪者ではない気がする。
夏の終わりの太陽が最後の力をふりしぼって、作った陽炎は、よく見れば、光をまとった粒子でできているようだ。
あぁ、きっと、大丈夫。
心配しなくても、あの陽炎の中を付き進むのなら、電車はいくらでも走りつづけられるはずだ。
Kenya:どこまでも走る
夏の終わりのホームでは
寸足らずのひさしが太陽を誘うから
黄色と白色の線の区別がつかなくなる
次の駅へと続く線路は銀色にひかり
陽炎がその姿をあやうくさせる
それでも電車は走りつづける
8月の終わり。
久しぶりに乗った路線で見た光景は、迷いをふっきって、飛び込んでしまえばいいと私に告げているようでした。
光の中に突き進む感覚を珈琲豆で表現したい。
そう思い、ジャンプするような明るい酸味を持つケニアの豆を選び、焙煎しました。
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