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「3月の珈琲 Ethiopia:鼓膜が揺れる」

小皿にオリーブオイル、塩ひとつまみ。
そこに、バケットを浸して、口にぽいっ。

Ethiopia:鼓膜が揺れるの香りに、その光景を思い出した。

たまらなく好きなバケットの食べ方のひとつ。
オリーブオイルの青い香りとバケットの香ばしい香りが混じり合う。

そんなことを思っていたら、私は、中学校の木工室の前に立っていた。

Ethiopia:鼓膜が揺れる
木の香りがした
木工室に並ぶ電動糸のこぎり盤には
窓から入った西日が当たっている
下絵を描いた板を盤にあて
スイッチを押した
耳慣れない音に鼓膜が揺れる
心も体も揺らす酸味

木工室は、教室と同じ階にある。
徐々に吸い込まれるほど暗くなっていく廊下の奥。
そこにひっそりとある。

近づいていくと、耳慣れない音が耳に届きはじめ、だんだんと木の香りが漂ってきた。

引き戸上部にあるガラスから木工室をのぞくと、右手に、電動糸のこぎり盤がいくつも並んでいるのが見えた。

木工室の奥にある窓から入った西日が電動糸のこぎり盤を照らしている。
まるで、スポットライトがあたっているみたいだ。

鉛筆で下絵を描いた板を電動糸のこぎり盤にあて、そのスイッチを押した。

さっき聞いた耳慣れない音が空気を伝い、鼓膜が揺れる。
そして、指を伝い、体を揺らす。

木の香りが私を包む。

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