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◆松岡和子訳『アントニーとクレオパトラ シェイクスピア全集21』ちくま文庫

 「オクタヴィアヌスの方か」とわかったのは第3幕(全部で5幕まで)も最後の最後になってからであった。それも、そこまで「ユリウスの方」だと勘違いしていたから、ところどころ「おかしいな」、アグリッパは出てくるのに、と思いつつも騙し騙し読み進め、やっぱり「おかしい」、と第3幕の最後を3回くらい見直して漸く気付いたのだった。彼らの姓はカエサル(劇中ではシーザー)。全ては本編が始まる前の「人物」のページに載っていたのだ。予備知識がなかった私にとっては難解だった『ヘンリー六世』を読んでから、注釈などは読まない方がかえって混乱しなくて物語の中に入れていいのかも、と思っていたことが仇となった。読み終わってから少し経ったとはいえ『ローマ人の物語』でかつては夢中になった古代ローマの登場人物たち。場面展開も多いが、その分軽快で、ユリウスとオクタヴィアヌスさえ勘違いしていなければ分かり易い。悲劇だがアントニーとクレオパトラの装飾や比喩が多用された掛け合いは大袈裟で(でもこれが普通だったかも?真相はわからないけれど…)どこか滑稽にも。15世紀イングランドから紀元前の古代ローマまでもを題材としてしまう、シェークスピアって1人だったのかなぁ、と思うほど作家の幅広さに驚いた。

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