見出し画像

好きのちから - 東日本大震災から10年の今日という日に。

ーー10年前の3月にたくさん聴いた曲は何でしたか?


テレビ放送は津波や被災地の映像や中継が続いていて、わたしの一人暮らしの部屋は、電気も水道もガスも通っていて。近くのコンビニは相変わらず24時間営業を続けていて、駅に停まっていた電車は今ちょうど走り出すところで。街中は人が行き交い、車もバスも何の支障もなく道路を走行している。

わたしが当時住んでいた場所は元々地盤が強い地域らしく、大きな被害もなく、ライフラインに影響もありませんでした。それでも、それでも一人暮らしを初めて1年が経ったばかりで、近くに住んでいる友人もおらず、また来るかもしれない揺れに怯えて、夜は眠れず、日中に仮眠を取り、お風呂やトイレを使う際にはドアは完全に閉めずに過ごしていました。

気を紛らすためにTwitterを眺めてみても、友人と連絡を取り合ってみても、心のどこかで「被災地の人たちは苦しんでいるのに、わたしはこんなことしていていいの?」と思う気持ちがあって、何をするにも力が入らず、日中はテレビも灯りも消して、ぼーっと過ごすことが多かったです。わたしでは代わりになれないってわかってるし、無力だってことは正直わかっていたのですが、何か出来ないか、出来ることはないかと考えて続けていたようにも思えます。

それから、3月11日を迎えるたび「何をするか、何ができるか」を考えるようになりました。大学時代は友人たちと毎年のように牛タンを食べに仙台に旅行し、配りきれないほどのお土産を買って帰ったり、見かけた募金には足りないかもしれないけど小銭を入れるようになりました。もしかしたらこの行動で、それがたったひとりのためでも、力になれるかもしれない。そう願って。


思い返せば10年前、夜も眠れず何も出来なかったあの頃、音楽をたくさん聞いていた気がします。好きなアーティスト、クラシック、それからラジオから流れてきた曲。たくさんの曲を聴いていました。テレビの言葉もインターネットの言葉も信じられなくなって、何が正義なのか、どうするのが正解なのかわからなくなった時、誰かが作った曲に思いを寄せて。音楽があの頃の心の支えになっていました。

聞いた曲はどれも不思議と「わたしの味方」であるように聞こえていました。大丈夫、大丈夫って寄り添ってくれているような、そんな気持ちになりました。音楽を聴いている時、悲しかったり苦しかったりする気持ちは消えて、落ち着いて呼吸ができていました。あの頃は、音楽に助けられていたんだなと思います。

小さい頃からピアノを弾いて、中高は音楽部に入り、大学は音楽大学を選びました。人生を共に歩んできた存在は、いつしかわたしを支える、わたしの味方になっていました。音楽があれば大丈夫。これさえあれば、わたしは挫けても、折れても、きっとまた立ち上がれる。そう思って、わたしはあの頃の何もできないと塞ぎ込む自分から脱することが出来たのかもしれません。

その後、ライブ・コンサート制作の会社に入社し、数々の現場を経験しました。最初の方はそこにいるだけの事が多かったですが、ある現場でアンケートの集計を任された時に、わたしのように音楽や芸術を支えにしている方々の声を知りました。

「辛いことがあっても、苦しいことがあっても、今日この時間を支えにする。この日の気持ちを大事にしたい。来て良かった。見て良かった。」そんな言葉を目にする度に、わたしのように何かを見つけに来ている人がいること、生まれや育ちや年齢、境遇が違っても同じ気持ちの人がいることに、わたしはひとりだけどひとりじゃない、そう気付くことができました。


わたしにとって芸術は「味方」のような存在です。助けてくれるし、支えてくれるし、何があってもそこにあって、拒んだりしない。就職活動がうまくいかず悩んでいた時も、苦しい時も楽しい時も、芸術を心の拠り所にしています。時には涙を流して、時には背中を押され、時には気づきを得ています。

「好きのちから」はすごいとも思います。好きな色の服を身につけるだけで肩の力が抜けたり、好きな音楽を聴くだけで少しだけ前向きな気持ちになったり、好きなものを食べたり、好きな人と会ったり。そうするだけで不思議と前を向けていることが多い、毎日が少しだけ楽しくなる、そんな気がします。



好きなものを大切にしてください。それは何だっていいです。それに触れるたけで、思うだけで、気持ちがちょっとだけ前向きになったり落ち着けたりする。そんな存在を大切にしてください。

あなたが大切にしてきた、その「好き」という気持ちは、いつかあなたの味方になってくれるはず。わたしはそう思っています。

ーー 10年前の3月、8畳の部屋で何も出来ず、ただただ音楽を聴く日々を過ごしている、わたしへ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?