病院と勤務医の未来予想図


遅いながらも医療制度は少しづつ変化しています。その変化に振り回されないために、自分なりに未来を描いてみることにします。


1. いまの医療

さて突然ですが、日本の医療制度の特徴はなんでしょうか。
フリーアクセス(自由に受診する病院を選べる、提供する医療の質は均等)および、国民皆保険(全ての人が保険に加入し、受診の際は低額で医療を受けられる)の2つが挙げられると思います。
国民皆保険であるため、医療行為や薬の値段は国によって決められています。故に、完全に同じ医療を受けた場合、都心のA病院と山奥のB病院のどちらを選んだとしても払うお金は同じです。

・・・病院の側から見てみましょう。
一般に収入を増やすためには、単価を上げる or 数を増やす の2つの選択肢があります。医療においては保険で価格を決められているため、適切な医療を施す場合において単価は固定です。収入を増やすには、正攻法では患者を増やすしかありません。
医療は福祉的な意味合いが強いですが、ちゃんと黒字にしないと、そのうち病院か運営母体(自治体とか医療法人)が潰れます。黒字化のための基本戦略は、①患者を増やすこと。そして、②固定費である人件費(特に医者が高額)を削ることです。
少数のスタッフで多くの患者を捌く結果、「先生がほとんど私の話を聞いてくれない」と文句が出る医療が出来上がります。ベテランの先生は外来をしてることが多い印象で、逆に当直や病棟(=入院関係の業務)は若手中心かと思います。相対的にスタッフが少ない結果、診療科の医者が1,2名だったり、病棟や夜間救急が研修医いないと回らなかったりみたいなことが、数百床の病院でもあり得ます。そうやって支えられているのが、特に地方ではこの国の医療の現実だったりします。



2. 外的要因


2-1. 人口減少

出生率が2.1を大幅に割っている以上、人口は減る一方です。移民を増やすという手もありますが、流れは止まらないでしょう。移民が増えたとしても、職のない地方は恩恵を得られにくく急速に過疎化していくと思われます。


2-2. 働き方改革

昨年世間を賑わせた働き方改革の波が、2024年に医療界にもやってきます。長時間労働で支えられている医療にも、とうとう就業時間の上限が設定されるかもしれません。とはいえ専門医制度みたいに、結局迷走して骨抜きにされるかもしれませんけれど。(参考:厚生労働省


2-3. AI

一部の領域に関しては、専門医よりも正確な判断を下せるようになっています。確かにバターン分析の部分も多くガイドラインという形で治療もある程度決まっています。医師のさじ加減で決めていることも、働いてみると案外多いのですが、一部はAIが活躍することになるのでしょう。完全に任せるのはまだ無理ですが、例えば20年後だとわかりません。今も業務の多くがコミュニケーションで占められていますが、より多くの時間がコミュニケーションに割かれることになりそうです。



3. これからの変化


3-1. 病院が減っていき、集約化される

人口が減少するため、患者は減るでしょう。単価は固定されているため収益は落ちます。既に赤字の病院も多く、大きな病院は淘汰されて集約化されていくことが予想されます。専門病院に自宅から通える、といった今の状況は崩壊すると思います。特に、慢性で高度な医療を必要とする疾患や希少疾患は都市部の超巨大病院に集約されそうです。各都道府県に1個・・・なんて数ではなく、日本で10個とかになるかもしれません。入院の必要がなければしばらくホテルで暮らすようになり、患者も病院で働く医療職も、場所が制限されることになります。
例えば外科の中でも緊急手術が必要なものは地域で、腫瘍のように待機的なものは都市部で、といったように診療科の中でも住み分けが生じてきそうです。

逆に分散したまま残りそうなのが、救急疾患および総合診療。
消化管出血、心筋梗塞、脳梗塞、敗血症、腸閉塞。すぐに対処しないと命に関わる疾患は地域で診る必要があります。
とは言え、3次救急(ざっくり重症を診れる病院)は救急車で行ける範囲に1つ・・・ぐらいには集約化されるでしょう。そうなると断る=患者が亡くなるため、今のように「当院は満床のため受けられません」みたいなことは出来なくなります。ERのキャパオーバーを防ぐために、救急車も有料化されるかもしれません。
generalistは地域に分散すると思います。高度な医療が必要な疾患をスクリーニングする必要があるからです。総合診療が脚光を浴びていますが、この流れは続くと予想します。



3-2. 給料も減る

働き方改革によって労働時間に制限かかることで生じた穴を埋めるには、医者を増やし一人当たりの業務量を減らすのがセオリーです。
また、〇〇さんのことはA医師しかわからない状況(担当医制)では負担が減らないため、〇〇さんのことをみんなで共有する(チーム制)する必要があります。1人が把握できる数には限りがあるため、チーム制にしても診れる患者の数は大幅には増えません。
安全性やリスクは改善しますが、効率(医師一人あたりの患者数)はチーム制にすると低下します。病院としてみると、収入が増えないのに人件費(支出)が増えることになり、結果、医師の給料は減ることになります。



3-3. コミュニケーション主体になる

医師の業務は今より、コミュニケーション(合意形成)主体になりそうです。診断や治療選択をAIが肩代わりしていき、患者との合意形成は医師が担うことになります。また、医療資源を守るためにも、予防医療やAdvance care planning(人生会議)がより盛んになると思います。地域の医療者は病院ではなく地域に出て行き、健康な人とも積極的に話す時代になります。その過程で、オンライン診療が流行ってくると思います。



4. 進路を考える上で

今までみたいに、この診療科がいい!って目線だと不十分になる気がします。自分は救急疾患を診たいのか、それともspecialistとして極めたいのか、地域で対話を積み重ねたいのか。少なくともこれらの視点は必要です。

未来予想はただの妄想で、まだ色々な派閥が縄張り争いをしてる状況なのですぐには進まないでしょう。しかし今の状況が永遠に続くわけではないので、せめて論理的に考えていきたいです。

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