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sweet,and sweet
「僕に手作りチョコレートとかやめてよね?」
マロンベージュの髪色に肌荒れ一つない端正な顔を持つ男が、至極当然のことのようにさらりと言い放つ。それに対して腹を立てる気も起こらないのは、この男が世界でも注目される若手ショコラティエだからだった。そう言われたってぐうの音も出ない。当たり前だ。
男の人特有の節くれだった指ではなく、細くて繊細な指先で作り出されるチョコレートは、単に美味しいと味わうためだけではなく、まるで宝石のように鑑賞すらも楽しめる一級品となる。
「とはいえ、こんな口の悪い人から作られるものではないよね」
ショーケースに並べられた、形も装飾も全て同じように作れられたチョコレートは、人間が一つずつ手作業で行ったとは思えないほど精巧で、均等で、美しかった。
「みんな溶かして固めただけのものを手作りだなんてよく言えるよね。しかも前より風味を落とすなんて板チョコに対する冒涜だよ」
天才的なショコラティエでさえ、板チョコを食べるらしい。彼はGanaではなくMeiji派だそうだ。普通の感覚、というのを忘れないために市販のチョコレートも食べる。それはショコラティエだからそうしているというより、単にこの男が好きなだけらしい。理由は後付けだ。
「実際チョコレートもらったりするの?」
そりゃあまあね、と男は呟くように返事をしながら、息を止めて型からチョコレートを外す。この瞬間はまるで儀式みたいなものなんだ、と昔言っていたような気がする。どうか美しいチョコレートが出来ていますようにと祈りながら型から外すから、思わず息を止めてしまうそうだ。
女の子みたいに長い自まつ毛と、通った鼻筋のせいで、その綺麗な横顔に魅入ってしまう。そんな私のことなど気にも留めず、目の前の仕事に没頭する男。
ああ気泡が入ってる、と、型から外したばかりのチョコレートを処分する。この男は完璧主義で、自分の仕事に命を掛けている、そういう人だ。
2つ目の型からチョコレートを外した後、
「このチョコどう思う?」
と、ルビーチョコレートを使用したピンク色のつるりとしたハート型のチョコを口に突っ込んできた。
「急に何」
美味しい、と最初に言えない私は可愛くない。どうしていつもこうなんだろう。何度も後悔するのに一向に治らないから、私はバレンタインデーにチョコレートをあげる人がいないんだろうか。
「今年の新作?」
「違うよ、今日しか作らない」
調理台に腰を掛けた男が、首を傾げて私の顔色を伺う。ニヤリと人を馬鹿にしたような笑みを浮かべるくせに、整った顔のせいでそんな顔さえも魅力を増す材料になってしまうのだから、顔が良いというのは得でしかない。
「本来のバレンタインデーの意味知ってる?」
男から女性へ愛を伝える日なんだよ、
と、耳元で呟いた男に私は一生構わないんだろう。
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