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おじいちゃんが会いにきてくれたお盆.

気がつくとわたしは強い西日の中、散水用のノズルを握りしめて会社敷地内の打ち水をしていた。日向に撒かれた水はたちまち蒸発してしまう。やっている意味はあるだろうか?と不安に思いつつ、とりあえず続けてみる。

すると門から誰かが入ってくる気配がして、相手に水がかからないように慌ててシャワーノズルを真下に向ける。アスファルトに跳ね返った水しぶきが足の甲に当たって、つめたい。

顔を上げると、帽子を被った上に、さらに日傘をさして、涼しげに立っているおじいちゃんがいた。

「日傘や!!!」

勢いのある大きな声と大阪弁で、銀色に光る日傘を見せつけてくる。気に入ったものはなんでもうれしそうに自慢げに見せてくれる人だから、ちょっと眩しかったけど「いいね」なんて相槌を打っておく。そんなわたしの横をとおりすぎて、会社のドアへ手をかけるおじいちゃん。その横姿に何か声をかけなきゃいけないような気持ちになって、とりあえず喉から音を出してみる。

「打ち水したのに、全然涼しくならない。」

こんなこと言うつもりじゃなかったのに、わたしは やるせないような、拗ねたような音色でおじいちゃんに話しかけた。

おじいちゃんはこちらを振り向き笑顔になっただけだった。それを見たらなんだか安心して、わたしも笑って返してみた。

おじいちゃんはしばらくわたしを笑顔でみつめたあと、何も言わないままドアを開けて会社の中へと入っていった

気がつくとわたしはリビングで横になっていて、会社でも屋外でもなかった。感覚まであるような、よくできた夢だったな、なんて思った。

夢についてぼんやり思い返していると、そういえば明日からお盆休みなんだと改めて気づいた。

とてもせっかちなおじいちゃんだったから、お盆休みも前倒しで会いにきてくれたのかな?とか、死んでも日傘さしてるなんて、意味あるのかな?って笑えるのがおじいちゃんらしいね。

それでも、やっぱりちょっと寂しくて、いなくなってからずいぶん経った今でも、人ひとり分の空席を埋めることは簡単ではないんだなって、痛感した。

おじいちゃん、いつもありがとう。
大変なこともいっぱいあるけれど、
なんとか元気でやってるよ。
心配かけてごめんね。
おじいちゃんが大切にしていたもの、
できるだけ長く後世に伝えていけるように
今後も見守っていてね。

あなたの背中を見て育った孫より。


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