見出し画像

ディグ・モードvol.97「ゲーエムベーハー(GmbH)」

ゲーエムベーハー(GmbH)は、2016年にメンズウェアデザイナーのセルハト・イシック(Serhat Isik)とファッションフォトグラファーのベンジャミン・アレクサンダー・ヒュズビー(Benjamin Alexander Huseby) を中心に設立されたベルリン拠点のファッションレーベル。常にベルリンを着想源とし、疎外されたコミュニティに光を当てようとしている。


法人であり家族でもあるGmbH

(Photography by Benjamin Alexander Huseby)

レーベル名のゲーエムベーハーは法人を意味するドイツ語で、英語のInc.またはLtd.に相当する。設立にあたって中心となったセルハトは、トルコ系移民の子どもとして生まれ、ゲーエムベーハーを立ち上げる前に自身の名を冠したレーベルを所有していた。2015年、デビューコレクションがショールームから盗まれた後、彼はブランドを閉鎖した。

もうひとりの中心人物であるパキスタン系ノルウェー人のベンジャミンは、雑誌『Dazed』や『Purple』などで定期的に撮影しているフォトグラファー兼アーティストだ。ふたりは、人種と美について会話を始める手段としてファッションを利用し、疎外されたコミュニティに光を当てるという願いを込めて、互いが出会ったベルリンのダンスフロアでレーベルを設立した。

2019年秋冬コレクション バックステージ(Photography by Christina Fragkou)

レーベルにとって、不可欠な要素はコミュニティだ。チームには4~20名のメンバーがいて、デザインに関わる人たち以外に音楽、スタイリング、キャスティングなどを担当する人たちやモデル、ミューズもいる。アトリエで働くほとんどの人々は移民の子孫であり、彼らの友人や協力者たちも同様だ。

彼らはゲーエムベーハーについて、「法人ですが、家族でもあります」と『Fucking Young!』で語っている。

環境的にも財務的にも持続可能

2017年秋冬コレクション(Courtesy of GmbH)

ゲーエムベーハーにとって、環境的にも財務的にも持続可能であることが重要だ。彼らがデッドストックの素材を扱うようになった理由は、生地の生産が世界で最も汚染を引き起こす要因のひとつであるからだ。彼らにとって、既存のただ眠っているだけの素材を使用することは理にかなっており、値段も安く済む。

コレクションNo.01では、再生された古いダウンジャケット、合成皮革、ベルベット、高光沢ビニール、反射性ポリエステル、部分的にリサイクル繊維を使用した起毛ジャージなどが素材として利用された。

ベルリン拠点、パリでコレクション発表

2020年春夏コレクション バックステージ(Photography by J’Dee Allin)

ゲーエムベーハーはハイファッションとストリートウェアのギャップに焦点を当て、ベルリンで生産をおこなっている。ローンチの翌年、レーベルはパリコレクションのメンズ部門に参入した。その理由は、レーベルが地元ベルリンのプロジェクトだけでなく、世界の主要なファッション舞台にも関連していることを示すためだった。

パンデミックとロックダウンの措置は、レーベルに直接的な影響を与えた。セルハトとベンジャミンはウイルスの影響で体調を崩し、ブランドのビジネスモデルを変更することになった。精神的にも肉体的にも疲れ果てたが、明晰な心で乗り越え、レーベルでやりたいことを具体化することができたとベンジャミンは説明する。

「服を作って売ることだけではなく、ファッションを使って何らかの変化を生み出すこと、ストーリーを伝え、人々を結び付けること、それ以上のことが重要なのです」と彼は『Hypebeast』のインタビューで語っている。

レーベルの核心に触れた映像作品を上映

『Guest on Earth』(Photography by Benjamin Alexander Huseby)

新しいアプローチの最初のテストは、2021年春コレクションとそれに伴うデジタル プレゼンテーションで実施された。リソースが限られていたため、コレクションは入手可能なものから作り、新しいパターンやスタイルは開発しなかった。それによって集中力が高まり、やりたいことがより明確になったと彼らは説明している。

従来のルックブックに加えて、レーベルはふたつの短編フィルムを含むコレクションを発表した。 最初の作品は『Guest on Earth』と題され、ベルリン近隣の人々をフィーチャーし、その地域に住む普通の人々と毎日起こる普通のことを見せることで、レーベルはその地域のコミュニティを称賛した。

セルハト・イシックとベンジャミン・アレクサンダー・ヒュズビー(Photography by Hyungsik Kim)

ふたつめの『Season of Migration to the North』は、アーティストのラース・ローマン(Lars Laumann)と活動家のエディ・エスマイル(Eddie Esmail)によって制作され、2010年にエディと他の活動家によってスーダンで開催されたファッションショーの物語を描いた作品だ。エディとショーの他のメンバーは同性愛者であるとしてスーダン当局から非難され、後に逮捕された。

その映画が選ばれた理由はいくつかあるが、セルハトとベンジャミンは、この映画がレーベルの意味するところと結びついていると感じている。「移民、ファッション、疎外されたグループなど、GmbHの核心に近いあらゆるトピックに触れています」とベンジャミンは『Hypebeast』のインタビューで語っている。

この記事は、フリーランスで翻訳や海外アパレルブランドの日本向けPRをしている𝐡𝐢𝐫𝐨𝐤𝐨が、自身のファッション業界に対する見識を広める目的で書いたものです。

いつも読んでくださってありがとうございます☺︎いただいたサポートは、記事のクオリティ向上に活用させていただきます。応援よろしくお願いします❦